あいつ兵士辞めるってよ2

 国に仕えることなどアルファサスに興味はない。

 教会と国とはまた別物だ。


 しかしエは素質が高く周りの人にも慕われている。


「年寄りの扱いも子供の扱いもうまい。


 私なんかは話を聞いているのかと怒られることもよくありましたがエが相手だとみんな笑顔で話しますからね」


「そうですか……まあ本人に話聞いてみなきゃ分からないですけどアルファサスさんにはお世話になってますからね。


 教会の仕事続けたら、ぐらいには言ってみますよ」


「本当ですか?


 それは恩にきます」


「エも仕事ぐらい必要ですしね」


「もしエさんが教会に所属することになったら他のお偉いさんにフィオス商会の馬車勧めておきますよ」


「それは……ありがたいですね」


 なんかちょっとした取り引きも成立した。


「まあ何人かは忙しいので注文が入るのも先になるでしょうけれども」


「忙しいんですか?」


「なんでも少し離れた小国でリッチが現れたそうで。


 神聖力の強い上の人が動員されたのですよ。


 呼ばれなくてよかったです」


「……正直ですね」


 そういえばそんな話もあったような、ないようなと思い出した。

 誘拐された洞窟の中でニグモたちの会話でそんな話を聞いた覚えがあるような気がした。


 そもそもあの洞窟での出来事は濃ゆすぎて何があったと全部思い出して話すことは難しい。

 確か言われてみれば異端審問官の気を逸らすために他の国にリッチを送り込むなんてことを言っていた。


 完全に忘れていたけれど本当にやったのかもしれない。

 だとしたら誰かに言っておくべきだったな。


 もう今更な話であるけれど。

 結構こうして腹を割って話してみるとアルファサスは人間味があっていい。


 宗教のお偉いさんっていかにも崇高そうなイメージだったけどアルファサスは一般的な人らしい感情を普通に持っている。


「偉かろうと人は人。


 それを忘れてはいけません。


 枢機卿なんかも殴ってみれば大体怒るような人ですから」


「いやまあ殴りはしませんけど」


 他に人がいないからいいもののとんでもないことを言う人だ。


「ちなみになんですけれども」


「なんでしょうか?」


「ヘギウスの隠し子、なんて噂も教会ではありますが本当のことですか?」


「根も葉もない噂ですね」


 帰って仕事したくないなと思うアルファサスはゆっくりと出されたお茶を飲む。


「そうですか」


「いつまでここにいるつもりですか?」


 明らかに時間を引き伸ばしていることがバレバレである。


「大人になると煩わしい仕事もあるのですよ?


 私としては片田舎でのんびりとやっていたかったんですけどね……」


「なんでまたこんな中心都市の神官長に?」


「優秀すぎたのかも……しれませんね」


「あっ、はーい」


 実際瀕死のジを治してくれたアルファサスの手腕は高いレベルにある。

 それに何ものにも左右されないような芯の強さというのか、逆に芯が何も無さそうな感じというのか、こうしたところもあるのかもしれない。


 大都市の教会となるとどうしても権力争いの舞台や利権が絡んできたりする。

 アルファサスはそうしたことに興味がなさそうなので都合が良かった可能性がある。


 ただこの人がエの治療魔法の師匠でよかったと思う。

 変な考えを吹き込まないでちゃんと治すための魔法を教えてくれそうだから。


 変人だけど変人だからいい。


「それでは失礼します……やらなきゃいけないことも山積みなので」


「エ似合うことがあれば説得はしてみるので」


「頼みます。


 ダメでもちょっと恨むだけですから」


「恨むんですか?」


「そりゃあ優秀な子ですからね」


 それに説得にも応じないということはそれよりももっと大切なことが原因である。

 その原因がなんなのか分かっていないのはおそらく本人ぐらいだろうとアルファサスは思う。


「今度は私がお茶をご馳走しますから遊びにでも来てください」


「是非お伺いさせていただきます」


 ジは行くつもりはないし、アルファサスも本気で誘ってはいない。

 でも互いに思う。


 面倒な気を使わなくてもいい相手だった。

 軽くお茶を飲むぐらいならいいかもしれないと。


「いいよ、フィオス」


 ジのために出されたお茶にソーッと体を伸ばしていたフィオス。

 なんとなくジの許可を待っているような気がしたので許可するとお茶に体をつけた。


 お茶が吸い上げられていく。


「熱くないか?


 ……まあ、大丈夫か」


 ーーーーー


「はっはっはっ!


 いいな、常にいてもらえばはかどりそうだ」


「いつつ……」


「ほれ、大丈夫?」


 グルゼイの鍛錬は激しさを増していた。

 魔力感知訓練はいつものように続いているけど最初の頃とは比べ物にならないほど感知しなきゃいけないものが増えた。


 そしてそれをクリアすると素振りをしたり走ったりと体を作ったりする鍛錬や一定の型をこなす鍛錬を行なったり、グルゼイとの実戦形式で戦って経験を積んでいくこともある。

 たまたまグルゼイと鍛錬の一環で戦っていたのだけどそこにエがやってきた。


 毎度ボコボコにされて終わるのだけどエがやってきてしまったことでいつもと少し勝手が違っていた。

 ケガを治すことができるエがいて、軽い打撲ぐらいなら簡単に治してしまう。


 いつもより長く戦えるし強くやっても大丈夫だとグルゼイもやる気を見せている。

 エも治療魔法の練習になると進んで協力してくれる。


 大変なのはジだけである。

 

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