パムパムの問題3

 パムパムが伝えたいことは理解したけど単独でどうにか出来る問題ではなく、仮に何かしてあげるにしてもしっかりとした準備も必要なものである。

 しかもダンジョンは攻略したからといって確実に消えるものでもない。


 ボスを倒すと無くなってしまうものもあるがそのまま残り続けるものもある。

 そうしたところもまたどうするのか考える上では難しい。


「みんなと要相談だな」


「よくこんなめんどくさそうなこと受けるかどうか考えてあげるねぇ」


 エスタルは感心したようにうなずいている。

 自分ならどうするか聞かれたら巣を移せと言ってしまう。


 わざわざ魔獣のお願いを検討するなど普通はしない。

 そもそもエスタルにまで聞きに来ることもしないだろう。


 一般の人にそんなツテもないけど。


「ジ君ですからね!」


「まあ……ジだもんな」


「……ジさんってどういう人なんですか?」


 リンデランやリアーネはエスタルの言葉を受けて同然だという顔をしているけどヒは不思議そうな表情を浮かべていた。


「俺だからってなんだよ……」


 褒められてるのかなんだか微妙な気分。


「褒めてるんだよ。


 そうした変に色々首を突っ込むところ私は好きだし尊敬してるぞ」


「やっぱ褒めてなーい」


「そうかぁ?」


 リアーネとしては褒めたつもりだ。

 ただ首を突っ込むだけじゃなくちゃんと解決までしようとして、相手に寄り添ってくれる。


 面白い半分の物見客じゃなくてそうして共に戦ってくれる人は滅多にいない。

 ざっくりした言い方で全くそんな意図が伝わっていないのがリアーネの悪いところである。


「まあパムパムが何言いたいか分かったし飯でも食いに行こうか。


 リンデランも一緒に行くか?」


「……はい!」


 一瞬今からでも授業に出るか悩んだけどジのお誘いに乗ることにした。


「んもう……ジがいるとリンデランが悪い子になっちゃうね。


 だけどまあ……その方が楽しそうでいい」


 ジたちは食堂に向かった。

 まだ昼より前だし授業中なので人はまばらで少ない。


「ダンジョンねぇ……」


「ちなみにジはどうするつもりなんだ?」


 ジが行くなら自分も行くつもりでリアーネがたずねる。


「個人的にはだよ、憧れちゃうよねー」


 正直な話ではダンジョン攻略をしたい気持ちはある。

 男子の夢の一つに未踏破ダンジョンを最初に攻略することがある。


 なかなか未発見のダンジョンなんてものは見つかるものではなく、そのようなダンジョンを1番最初に攻略することは逸話のようなものになる。

 さらにはダンジョンは不思議なもので中にアイテムなどが生み出されることもある。


 話に聞いたことがある英雄もダンジョンで見つけた魔道具を持っていたなんてよく聞く話である。

 お宝も手に入るかもしれないしダンジョンを攻略するという栄誉も得られるかもしれない。


 男心をくすぐられない方がおかしい。

 つまりはパムパムのためもあるけど名誉的なこととか財宝的なこととか打算的なこともジの頭の中にはあった。


「その気持ちは私も分かるな」


「消えるかどうかは置いといて、一度入ってみてもいいかもしれないかなとは思ってるよ」


「是非私も連れてってくれよ」


「そうだな……その時はリアーネの冒険者としての経験を頼ることにもなるかもな」


「へへ、ユディットばっかり連れてくから次は私の番で約束な!


 なんか変なのも増えたし」


「変なのってニノサンのことか?」


「悪い奴じゃなさそうだけど、あの戦いの時にいたんだろ?」


 謀反の時同じ戦場にはいたのだけどリアーネは実際ニノサンと対峙してはいないのでニノサンのことを知らなかった。

 海の町に行くと言ってしばらく出張していたと思ったら新しく騎士として仕えるやつを増やしてきたからリアーネも驚いた。


 おかげで商会の番とジの護衛、お休みでグルグルと回せるようにはなった。

 ちなみにユディット、リアーネ、ニノサンの3人の中で人気の割り当てはジの護衛である。


「ともかくダンジョン行くなら私も連れてけ。


 じゃなきゃすねるからな」


 連れて行かない時抵抗がすねるなんてちょっと可愛らしい。

 雇い主でもあるしそれぐらいしか反抗できないのでしょうがない。


「分かったよ。


 師匠とかにも相談して……」


「私も連れて行ってくれませんか?」


「リンデラン?」


「エスタル師匠に魔法を習って私も強くなりました。


 足は引っ張りませんから!」


 珍しく積極的なリンデランがジと距離を詰めてアピールする。

 リンデランの魔力は最初にあった時よりはるかに力強く、そして冷たいほどに落ち着いているのが感知していて分かる。


 廃墟の地下に閉じ込められていたか弱い少女の姿はもうないのである。


「そこらへんもいろんな人に相談必要だな」


 きてくれると心強い味方であることは間違いない。

 けれどリンデランの場合はリアーネよりも制約が多い。


 おいそれと連れていける人じゃない。


「考えることが多そうだ……」


「ごめんなさい……うちのパムパムが」


「ん、いいんだよ。


 パムパムだって守りたいものがあるんだしきっとこの出会いも運命ってやつなんだろ」


 不思議な巡り合わせ。

 一度は敵対した魔物と今度は魔獣になって出会うなんて誰が思うだろうか。


 でも面白い巡り合わせだと思う。

 魔物にも頼られる男ジは食堂で美味いご飯を食べながらどうしようかと頭を巡らせるのであった。

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