いや、お前とも再会するんかい1

 貧民街のことを聞きたいなら誰を頼ればいい。

 そりゃあ貧民のことは貧民に聞けばいい。


 役人や兵士だとそれだけで警戒してしまう人もいて、世捨て人のような貧民街の連中ではその傾向は強い。

 ジがフィオスと出会うきっかけとなった魔獣契約は国が主導して行った。


 兵士が貧民街を回って子供なんかに声をかけて集めたのだけど当然それで全ての人が集まるわけがない。

 むしろ警戒して行かなかった子や兵士の言葉になんか耳を傾けなかった子も多い。


 何が言いたいかというと魔獣契約していない人も意外と貧民街には残っているということなのである。

 ジの過去ではそうしたことから魔獣契約をしないままに大人になった子も結構いた。


 チャンスを逃したと嘆いていたり、どうしてもう一度声をかけなかったと怒っていた人もいた。

 戦争なんかが続いて余裕がなかったからしょうがないといえばしょうがない。


 己の疑り深さを恨むしかなかった。

 そこでジは考えた。


 あの時に掘り起こされなかった人の中にも将来活躍できる原石となる人がいるのではないかと。

 あるいはジの探し求めているような人材がいる可能性もあるんじゃないかとも思った。


 王城でミュコたちの演劇をさせてほしいと頼んだ時にジは貧民街における魔獣契約をしていない人の契約を斡旋する権限を要求した。

 中々特殊なお願いであるが国の方でも貧民街は手に余る場所なのでジが住んでいる貧民街についてはジが魔獣契約の人を集めることを許可された。


 狙うは新たな人材確保。

 ついでに貧民街の人たちにもっと希望を与えられたりすればいいなと野望を持っていた。


「リアーネ、そっちはどうだ?」


「量は十分だ。


 ただちょっと人手が足んないかもな」


「分かった。


 手伝うよ」


「テミュン、それはあっちだ!」


「ああ、ごめんなさい!」


「まったく……ジはそっちを頼めるか?」


「任せてくれ」


 同じ貧民街出身以外にも貧民街の人の信頼を得ている人たちがいる。

 それが教会の救済として炊き出しをおこなっているシスターなんかがそうであった。


 リアーネが出身の教会は貧民街での炊き出しも行なっている。

 違法な借金取りは捕まって借金がなくなり、今では支援者としてフィオス商会が教会も支えていた。


 孤児の子供たちも工房だったり一部フィオス商会で働いたりして積極的に教会のためになろうとして、かつてのシスターがやっていたような借金をして冬を乗り越えなきゃいけないような状況はもうなかった。

 今回はフィオス商会主導の下で炊き出しを行なっている。


 メニューは食料危機のために輸入された干物の魚や乾燥させた豆といったものを使ったものでタとケが考案した。

 やや硬めな干物の魚を大量かつ素早く食べられるようにするために煮込んでスープにした。


 魚の出汁も出て身も柔らかく食べやすい。

 スープにすれば量も確保出来るし素晴らしいアイデアである。


「えーと、魔獣契約してない人ー!」


 一通り集まった人に食べ物を渡し終えて人に魔獣契約をしているか聞いて回る。


「もし魔獣契約をやるつもりがあるなら3日後にまた炊き出しするからその時に来てよ。


 他にも魔獣契約してなくてやりたいって人がいたら連れてきて」


 結構な人が手をあげたりする。

 むしろここに残っている人は魔獣が使い物にならない人か、契約をしていなくて何の能力もないような人が多いから考えれば不思議なこともない。


 ジが住んでいるところの貧民街においてジの信頼度は非常に高い。

 気に入らないという人もいるだろうけど多くの人はジのことを好意的に見ている。


 もう貧民街を捨てて出ていけるほど成功しているのに未だに貧民街に住み、こうして貧民街の支援もしたりしている。

 先日のミュコたちの演劇もジの評価をさらに高めていた。


 ジが聞けばみんなさらりと答えてくれる。

 お役人がやるとどうにも怪しいがジたちが主導してやってくれるなら安心だと瞬く間に話が広がった。


 ついでに飯も食わせてくれるなら言うこともないのである。

 お役人も貧民引っ張るならこれぐらいやりゃ簡単なのにとジは思う。


 そんな単純だというと怒る人もいるかもしれないけど少し食べ物分けてくれるだけであっという間に心開いてくれるのも貧民だったりするのである。

 ひとまず予想よりも第一段階は上手くいって一安心といったところであった。


 ーーーーー


 もちろん国の事業としてやるわけだからお役所のお手伝いや監視も入る。

 以前貧民街に来たお役人は感じの悪い人だったけれど今度の人はジにも腰の低い良い人だった。


 是非ともよろしくお伝えくださいなんて言われたけど誰に何をよろしく伝えるのか。

 例によって炊き出しをして人を集めてその中で魔獣契約をしていない人に残ってもらう。


 その人たちを馬車で契約場までお連れする。


「みんなそう緊張しなくても大丈夫だよ。


 どんな魔獣が出てもそれは一生のパートナーだ。


 使い道がない魔物なんていない。

 大切にしてやってほしい」


 もしかしたらこの中から第二のライナスみたいな人だって現れるかもしれない。

 そう考えると少しワクワクする。


 

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