攫う相手を間違えたな2

「俺の魔獣はいい……それよりも良いものがあることを思い出した。


 それに出口は見つけられていないが逃げてきたのでアイツらのところに行く道はあるんだ」


「良いものですか?」


「あぁ……いつまでもこうして倒れてなんかいられない。


 いつアイツらが動き出すかも分からないからそこに行こう」


 そこがどこで、良いものが何かの説明はないけれど具合の悪そうなオゾに細かな説明をお願いするのもはばかられた。

 ゆっくりと立ち上がってフラフラと歩き出したオゾにジはついて行こうとした。


「……無理だ」


「えっ?」


 急に立ち止まられてオゾにジはぶつかりそうになった。


「どうしたんですか?」


「暗くて先が見えない。


 化け物になっていた時は暗くても見えていたのに……」


 この船の墓場は光が差しているのでまだ明るいが洞窟の中は依然として真っ暗である。

 なので魔力感知で周りを視ることができるジはいいのだけどオゾにはただの暗闇であった。


 魔物の体であった時には真っ暗でも見えていた。

 その時の感覚があって歩き出そうとしていたが人の体には明かりのない洞窟など歩けるものではなかった。


「魔力……」


 軽く明かりでも出そうと思って魔力がないことにオゾは気がついた。


「あっ、そうだ」


 道を知っているのはオゾであるのでジが先導することもできない。

 思い出したようにジは船の中に入っていって手にランプを持ってきた。


 探索した時にランプがあったのを覚えていた。

 油を使うタイプのランプではなくて魔石の魔力を使って魔法で光るタイプのランプだった。


 点けてみると魔力が残っていたのかランプは光ってくれた。

 劣化はするだろうけど使わなきゃ魔石の魔力はそう簡単には無くなるものじゃない。


 ちょっと拭いて綺麗にしてやると意外と明るくて洞窟の中を歩くのにも問題はなかった。


「出口はないかとこの中をグルグルと歩き回っていたんだ。


 外に出られそうなところは海に潜るか、アイツらのところに戻っていくかぐらいしか道はなかったけど面白いものを見つけた」


 オゾについて歩いていくと洞窟の行き止まりに着いた。


「ここだ」


「これは武器?


 鎧もある……」


 オゾがランプを持ち上げて照らすとそこの地面には多くの武器や防具が落ちていた。


「アイツら攫ってきた人の持ち物を上からここに投げ捨てているらしいんだ」


 ヘーデンスたち異端審問官は武装解除されていた。

 その武器などはどこに行ったのかというとここに捨てられていた。


 攫ってきた人たちを崖下に閉じ込めていたように崖上から武器を投げて捨てていたようだ。


「仲間がいるんだろう?


 武器があれば抵抗できるし、逃げられるかもしれない」


「そうですね。


 持っていきましょうか」


 漁師の人は戦えなくても異端審問官たちは武器があれば戦える。

 きっと心強い味方になる。


 上から投げ捨てるなら上にある武器が異端審問官のものだろうと適当に上にあるものを多めに持っていくことにする。

 一本なら大したこともないと思う武器だけど複数持つと重いものである。


 今度はジが先導して歩く。

 壁に付けておいた傷跡を見つけたのでそこから辿って穴まで戻ってきた。


「あ……」


 ジはすっかり忘れていた。

 武器を持ってきたはいいけれど自分が通ってきたのが大人が通れないほどの穴であったことを。


 剣を一本一本持って往復するしてもいいが時間もかかる。

 けれどそうしたところで向こうに閉じ込められたままなことは変わらない。


 出来るならこちら側に来て一緒に脱出を目指したい。


「よし、フィオス、ちょっと大変かもしれないけどやってくれるか?」


 腕に巻き付いたスティーカーが綺麗だななんてオゾが気を失っている間に光に当てて眺めていた。

 そんなスティーカーに対抗心を燃やしたのかジの腕に巻きついているフィオス。


 なんだかフィオスに包み込まれる不思議な感触が気持ちいいし面白いのでそのままにしていた。


「改めて見ると不思議なスライムだな」


 ピョーンとジの腕から離れたフィオスは穴の周りの壁にひっつく。

 すると壁がジワジワと溶けて無くなっていく。


 スライムにこんな能力があるだなんてオゾは驚きだった。

 自分を助けてくれたのもそうであるし非常に器用さのある魔物であると感心していた。


「ただ時間はかかりそうだな」


 着実に穴は広がっている。

 その速度も意外と早いのだけど大人が通れるほどの大きさでしかも向こう側まで貫通させるとなるとどうしても時間がかかってしまいそうだ。


「ちょっと行ってきます」


 向こうもジがどうなっているのか気を揉んでいる。

 剣を一本抱えてジは穴に潜り込んでいく。


「んしょ……」


 剣を一本抱えるだけだけど結構窮屈。


「会長!」


「我が主人!」


 頑張って穴から出てくるとユディットとニノサンが待ち受けていた。


「ジ君!


 大丈夫でしたか?」


 ウィリアとヘーデンスもジのところに来る。

 みんな心配したような顔をしている。

 

 暗いのでどれほどの時間外に行っていたのかもわからないし不安だったのだろう。


「俺は大丈夫」


「何を持っているんですか?」


 ユディットがジが持っている剣に気がついた。

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