船の墓場で安らかに1
大人になると出来ることが増える。
子供の頃には出来なかったことに手が届くようになり、自己の責任の名の下に行動できる範囲も広がる。
けれど一方で大人になると出来なくなることもある。
大人だから出来ないなんてことも多々あるが大人、子供というよりも体が大人になったから出来ず、子供の体型だから出来るなんてこともある。
例えばそう、小さい穴に入るってこととか。
「んしょ……っと」
壁に空いた穴にジは進入した。
どこかに繋がっていないことも危険がある可能性もあるがあのままあそこで待っていてもしょうがない。
ユディットやニノサンは共に行けないので反対したけれどジが行くことも決めたので止められはしなかった。
危険に飛び込む必要もないのだけどジたちよりも前に連れてこられた人たちはもう限界が近そうだった。
どこか外に繋がっていて早めに助けを呼びに行けるのならそうしてあげたい。
「暗いな……」
穴を抜けた先には当然松明なんてものはなかった。
わずかにヒカリゴケが生えているのみでその光量だけでは歩くのも困難だった。
けれどジには光がないことなど大きく問題にはならない。
目をつぶって集中を高める。
感覚を鋭くしていく。
そうすると周りにあるものの魔力が感じられ、さらに細かく感知していくとまるで目に見えているように周りの世界が視えてくる。
人の手が加えられていない広い洞窟なことがジには分かる。
「……フィオス」
1人でいるのもちょっとだけ心細いのでフィオスも旅のお供にする。
魔力感知で抱かれたフィオスが揺れる様を視るのもなかなか面白い。
これまでの洞窟と同じように色々な方向に洞窟は続いている。
進むべき指針となるものがない。
風もなく音もない。
違いがほとんどなくて進むべき方向を決める上で決定打と出来そうなものが全く見当たらなくてジは迷う。
「んじゃ適当に進むか」
決められないならどこに行ったっていい。
適当に正面に進むことにした。
「よいしょ」
ジは剣を抜いて壁を切り付ける。
こうした変化に乏しい場所に来てしまった時に気をつけるべきは進む時もそうだけど後々帰ることも考えねばならない。
頭に地図を完全に思い描いていられればよいのだけど突発的な出来事が発生すれば場所が分からなくなることもある。
こうした時に印を付けておけば帰れる可能性が上がる。
「しかしここはどこなんだ?」
ジは慎重に周りを警戒して歩きながらもこのような場所について噂がなかったか記憶を辿ってみる。
こんな変な場所噂の1つぐらいあってもおかしくないと思ったのだけど特に思い出せない。
それに情報も少なすぎることも悪い。
記憶を引き出すための取っ掛かりとなるものがなさすぎるのだ。
全ての聞いた話について覚えているはずがないし、そもそも聞いたこともないことだって世の中には多い。
それに回帰する前と起こる出来事は変わってしまっているのでこのようなことが起きていなかった可能性もある。
ただこんな変な洞窟ぐらいはどこかで話題になっていてもおかしくないとは思うんだけど。
魔力感知を常に広げておくのも疲れる。
適宜休憩したり印をつけたりしながら洞窟を適当に進んでいく。
「んん?
う……」
魔力感知で先がわからなくなった。
そしてまぶたに感じる光。
ジは目を開けた。
久々に見る光に目がくらむ。
不思議な入江のようになっている場所だった。
洞窟の中なのだけどかなり広くて、そのために魔力感知で先が分からなかったのだ。
天井の一部が崩れていてそこから光が差し込んでいた。
そこがどこであるのかのヒントは一切ないが温かな日光を浴びて少し心が落ち着く。
「船……新しいものじゃなさそうかな?」
洞窟の中の入江には船が着いていた。
停泊しているのではなく完全に陸地に乗り上げていて、その外観はボロボロになっている。
マストも折れていて素人目にも古そうな船であることは確かである。
ということは最近あった魔物による襲撃で難破した船ではなさそうだ。
「何者だ!」
船に近づこうとして何かが船上で動いたことにジは気がついた。
剣を構えてフィオスが盾になる。
「マ……マテ」
少し間を置いてやたらとガサガサした声が聞こえてきた。
「テキジャ……ナイ。
コウゲキシナイデホシイ」
「敵じゃないって……お前…………」
手を上げてそろそろと姿を現したのは魔物だった。
ジたちを襲った魚のような魔物である。
「魔物……話した……ええっ!?」
ジは大きく動揺する。
基本的に魔物は人の言葉を話さない。
特殊な魔物や一部のすごく賢い魔物だと話すこともあるらしいけどジが話せる魔物に出会ったことはない。
エスタルもいるけどあれは半ばダンジョン化した存在であり、純粋な魔物と言えるのかも怪しい。
さらに魚の魔物は戦った感じでは話せるほどの知能の高さは感じなかった。
マストを狙ったり、後半の戦いでは連携っぽいものを見せていたけどやはり言語を操る知能は相当頭が良くないといけない。
この魔物は話した上でジに敵意がないことまで示してみせた。
話せるだけにも留まっていない。
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