暗き洞窟の実験場5
「行きます!」
底も分からない崖ではないとジが言うなら信じる。
一度大きく深呼吸したユディットは崖から飛び降りた。
少し間が空いて重たい音が聞こえてきた。
ユディットが下についた音である。
「だ、大丈夫そうです!」
崖下からユディットの声が聞こえる。
どうやら下にいるのは魔物でないので間違いなさそうだ。
「行きましょう、ウィリアさん」
「う……わ、私高いところ苦手で……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいねー」
「なんだ?」
いざとなれば無理矢理落とすこともチラリと考えたジだけど下でユディットが何かをしているようだ。
そうしている間にもニグモは近づいてきている。
「いいですよー!」
「ウィリアさん」
「ううぅう!」
「……手でも繋いであげましょうか?」
「いいんですか?」
良い大人の女性がなんと情けない顔をしているのか。
ジはウィリアの手を握ってあげる。
「3……2……1……!」
ジとウィリアは同時に崖から飛び降りる。
必死に声を堪えるウィリアと魔力感知でどうなるのか分かっているジ。
「ヒュッ……!」
悲鳴を堪えて変な声が出た。
予想していた衝撃とは全く異なる衝撃に襲われてウィリアはびっくりした。
ギュンと一瞬何かに押し付けられたような感覚があって、次に空中に打ち出されそうになった。
だけどある程度打ち上げられたら今度は引っ張られてまた落下する。
そんな上下運動を繰り返す。
「なななな、なんですか!?」
崖の下は明かりがなくて暗い。
ウィリアは状況が分かっていないがジは魔力を感知して分かっていた。
これはクモの糸であった。
先に下に降りたユディットだったが思いの外下まで遠かった。
なんとかケガなく降りられたけど全員が全員うまくいくとは限らないのでそこで知恵を絞った。
ユディットは自分の魔獣であるジョーリオを呼び出した。
そしてクモの魔獣であるジョーリオに崖下に糸で巣を張ってもらったのだ。
伸縮性のあるクモの糸に絡め取られて跳ねるように上下して衝撃を受け止めた。
下ではユディットが小さく炎を出してバレにくいように周りを照らしていた。
「うわっ、なん!」
ようやく揺れが収まってきたとおもったら今度はニノサンが落ちてきた。
それによってまた糸が大きく揺れる。
「ジョーリオ」
カサカサと音がしてジョーリオが糸を歩いてくる。
「ひ、ヒェッ……」
敵じゃないのは分かるけど暗い中で巨大なクモが迫ってくるとジでもちょっとビビる。
悲鳴をあげそうになったウィリアの口をジはなんとか手を伸ばして塞いだ。
ジョーリオが糸をちぎってジたちをそっと地面に下ろしてくれる。
「おい、私は?」
「そのままでもいいのでは?」
糸に絡め取られて宙に吊られたままのニノサン。
「いいわけないでしょう?」
「誰のおかげで無事に降りられたのだと?」
「まだ降りられていないですよ?」
「ユディット……こんな状況なんだ、やめろ」
大人びているように見えるユディットであるがまだ完全に大人とはいかない。
実際のところは子供っぽい対抗心を燃やしたりするところがある。
完璧であろうとするユディットよりもよほど人間味があって好きだけど今はそんな状況でもない。
「も、申し訳ありません」
ジョーリオがニノサンを下ろして糸を解く。
「おいっ!
飯をくれてやるからありがたく食うといい!」
「うわ、なんだ?」
上からニグモの声がしてボトボトと何かが落ちてきた。
「魚……?」
「干物だな」
ニノサンが拾い上げたそれは魚の干物だった。
「もしかしてこれは盗まれたものじゃないですか?」
ウィリアが鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
流石に日持ちするように干された物なのでまだ食べる分には大丈夫そうだ。
そしてピンときた。
これは以前に倉庫から盗まれたものではないかと。
「確かにこんな感じのものだったな」
盗まれたものかどうか特定はできない。
だけどわざわざニグモが魚の干物を買い付けて持ってくるとは思いにくい。
「ということはニグモとリッチは仲間……ということでしょうか?」
「まあそうでしょうね」
ジは普通にニグモとリッチは仲間だと思っている。
なぜならウダラックのことがあったから。
ニグモにリッチにされたと言っていたウダラック。
この状況でその発言や先日あったリッチの襲撃のことを考えると両者に繋がりがあってもおかしくない。
「貴様らは何者……ウィリア!」
「えっえっ……?
あっ、隊長!」
まあ食料があるのはありがたい。
いくつかいただいて食べようと思っていたら奥から人がこちらに来ていた。
魔法で光を出して周りを照らしているその人物は暗さに慣れたジたちには一瞬見えなかった。
しかしよくよく見てみるとその人物は異端審問官の隊長であるヘーデンスであった。
「ど、どうしてこちらに?」
「それはこっちも同じセリフだが……なんで魚に囲まれている?」
結構な量をニグモは落としていった。
ヘーデンスから見るとジたちが魚の干物と一緒に落ちてきたようにすら見えるほどジたちの周りには干物が落ちていた。
「あんたの仲間かい?」
「ええ、そうです。
ひとまず奥に行こう。
ここはあまり良くないみたいだしな」
「その干物は持っていこう。
みんな腹をすかしている」
ジたちは魚の干物を抱えて、ヘーデンスに連れられて洞窟の奥に向かった。
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