暗き洞窟の実験場4

「もうよい。


 どの道今すぐ動かせないものも多い。


 研究を続けるしかない」


 ニグモは盛大にため息をつく。

 ヤバそうな癇癪持ちのジイさんが声を荒げるたびに見つかったのではと生きた心地がしない。


「……それにしても石を取りに行かせたやつは何をしておる!


 あんな簡単なことも出来ないのか!」


 再び怒り出すニグモは杖で地面を殴りつける。

 石とはさっきの魔物が持っていた箱に入っていたやつのことだろう。


 それならいくら待ってくるはずがない。


「お忙しそうなので我々は失礼します。


 よい結果が出るといいですね」


「ふん!


 少しは役に立つよう努力するんだな!」


 黒いローブの2人組がどこかに行ってしまい、ニグモだけが残される。

 早くニグモもどこかに行ってほしいところだけどイラついたようなニグモはイスに座ったまま動かないでいる。


「チッ!


 本当に来ないではないか!」


 石を待っているようだ。


「アレがないと新たな個体も作れん……仕方ない、エサでもやって、別のやつに取りに行かせるか」


 石を待つことを諦めてニグモは立ち上がる。

 近くのランプを手に取るとノソノソと歩いていって洞窟の奥に向かっていく。


「ふぅ……」


 とりあえず人がいなくなってホッとする。


「ここヤバそうだな……」


「とんでもないところに連れてこられてしまいましたね」


「ジ君、この先どうしましょうか?」


 明らかに普通の場所ではない。

 グルゼイの助けが来るのはいつになるか分からないし脱出もしくは安全に身を隠せそうな場所を探す必要がある。


「まあでも少なくとも人が出入りできる場所があるってことは確定したからな」


 ニグモがここにいるということは海中からだけではない進入口がどこかしらにあるはずだ。

 洞窟から外に出ることはできる。


 問題は洞窟が迷路のように色々道が伸びていることだ。

 松明が付けられている通路になっているところもあるがニグモはランプを手に取った。


 つまり松明が無いようなところもあるということになる。

 道しるべもなく闇雲に進めば迷子になってしまう。


「確かにそうですね!」


 出られる希望はあることにユディットは明るい顔をする。

 どうしようもない問題に目を向けて暗くなるより良いところを考えて前向きになろうとしている。


「とりあえずここから移動しよう」


 ここはあまりにも気分が悪くなる。


「あっちに行ってみようか」


 ニグモも黒いローブの2人組も行かなかった松明のある道を進んでみる。


「ユディット!」


「お、っと。


 危ないところでした」


 何もない一本道。

 突然ジに引っ張らられて先頭を歩いていたユディットの動きが止まる。


 薄暗くて分かりにくいが足元に地面がない。

 よく見ると崖のようになっていた。


 気づかなかったユディットは危うくそのまま落ちていくところであった。


「行き止まり……ですね」


「……おかしいな」


「何がですか?」


 こんな洞窟なのだから道の先が崖になっていて行き止まりでもおかしくはない。

 ただ不自然なことがある。


「何もない道なら松明を付けておく必要なんてないだろ?」


「なるほど!」


「確かにそうですね」


 ジの言葉で違和感に気づいたウィリアが崖を覗き込むが暗くて下は見えない。


「ひとまず戻ろうか」


「……全く飯ばかり食いおってに!


 これだから低級は!」


 来た道を戻ろうと思ったらニグモの声が聞こえてきた。


「ち、近づいてきてません?」


 元々デカい声がだんだんと近くにきている。


「マズイです!


 どういたしますか、主人?」


 一気にみんなに緊張が走る。

 ジも頭をグルグルと回転させて考える。


 ニグモが相手なら戦えるかもしれない。

 見た目的にはそれほど強くなさそうだしニノサンやユディットなら倒せそう。


 だが相手の戦力も分からないのに軽く見て戦うのも良くはない。

 ここは相手の領域だしどんな力を隠しているかも不明だ。


 仮に倒せず逃してしまったら。

 魔物の群れに襲われるかもしれない。


 状況的に見てニグモがあの船を襲った謎の魔物と関わりのあることは間違いない。

 仕留めきれなかった時に船を襲ったような大量の魔物に迫られたらこちらはひとたまりもない。


 だからといって後ろは崖。

 逃げ道もなかった。


「…………人がいる」


「人?


 そりゃ前からあのヤバそうなジイさんが……」


「違う。


 崖下に人がいる」


「えっ?」


 飛び降りれるか確かめようとジは魔力の感知を目いっぱい広げた。

 すると崖下に広い空間と人の存在を感じた。


 魔物かと思って集中してみたが人のようだ。

 多少距離があるので詳細な姿までは感知できないけれど鱗の生えた魔物じゃないことは確かである。


「飛び降りよう」


「ええっ!?


 ほ、本気ですか!」


 ウィリアはもう一度崖下を覗き込むが闇が広がっている。

 こんなところに飛び込んで無事でいられるなんて思えない。


「分かりました!


 俺が先に降りて安全を確かめます!」


「着地しようとするなよ。


 地面についたと思ったら思い切り転がるんだ」


「はい!」


 ジが言うならやってみる。

 しんがりにいたニノサンが剣を構えて警戒する中でユディットが崖の縁に立つ。

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