海に落ち2
上半身はやや膨れたように大きくて見た目としても気持ちが悪い。
開かれた口から見える歯はギザギザとしていて噛みつかれたら厄介そうだ。
「来るぞ!」
魔物たちが攻撃を始める。
「うわああっ!」
冒険者の1人が魔物を槍で突き刺そうとしたが鱗に先が流されてしっかり刺さらなかった。
魔物はそのまま冒険者の肩に噛みつき、ギザギザとした歯が肉に食い込む。
「船が揺れるから端は危ない出来るだけ真ん中にいろ」
グルゼイが走り出す。
噛みつかれた冒険者に近づくと魔物の首を切り落とした。
「助かりました!」
「ケガをしたらさっさと下がるんだ!」
相変わらず外は大荒れで視界も悪い。
互いをフォローすることも難しく、ケガをするとあっという間にやられてしまう。
当たる雨が血を流してケガも分かりにくいし今も体温を奪い続けているので多少のケガも命取りになる。
グルゼイは後ろから飛び掛かってきた魔物をかわして切り付ける。
「それじゃあダメです!」
ニノサンが叫んだ。
「むっ!
……そうか、これが噂の再生力か」
グルゼイに胸を大きく切り裂かれて倒れた魔物だったがすぐさま起き上がって殴りかかった。
普通の魔物なら倒せるか、大怪我で動けないところなのにこの魔物の傷はじわじわと塞がっていっていた。
ジはいつぞやのゴブリンを思い出す。
再生力が高くて厄介なところはすぐに傷が治ってしまうところなのであるが、再生力が高くて傷が治るから多少のダメージを無視して突っ込んでくることもまた厄介なのである。
首を切られても再生力する異常個体のゴブリンに比べればこの魔物の再生力など可愛いものだが力や鱗による防御力はゴブリンとは比べ物にならない。
こうして戦っている間にも続々と海から魔物が船に上がってくる。
ジはユディットとニノサンと共に3人でまとまって魔物と戦う。
切ったそばから生えてくるわけでもないので一撃一殺を徹底せず手足なども狙う。
「マストを狙っているぞ!
守るんだ!」
「コイツら……知恵を働かせているな!」
見ると船のマストの方に魔物が集まっている。
ニノサンが乗っていたビグマ商会の船もマストを折られた。
魔物にそんな知恵があるか怪しいと思っていたが本当にマストを狙っていたようだ。
バルダーは戦斧で魔物を縦に真っ二つに切り裂くとマストの方に向かう。
「お父さん!」
ウィリアも1人突っ込むバルダーのサポートに向かってついていく。
「ぬおおおっ!」
バルダーが斧を振ると魔物がいとも簡単に切り裂かれて飛んでいく。
「はあっ!」
ウィリアもただ守られるだけの人ではない。
細身の剣を巧みに操って魔物と戦う。
無理をせずに距離を取りながら手足や目、喉などを狙って切りつけている。
一撃で倒せるような威力はなくても確実に相手を弱らせて仕留めていた。
「俺たちもあっちに向かおう!」
比較的マストにも近い位置にいたジもマストを守る方に参戦しようと考えた。
「主人の仰せのままに!」
「分かりました、会長!」
船の中ではやり合っていた2人だがいざ戦いとなると真剣でしっかり互いもフォローし合っていた。
スピードを重視するニノサンに比べて一撃の威力としてはユディットの方が高い。
ニノサンもユディットがちゃんと魔物を倒せるように短い戦闘の中で役割を理解して上手く立ち回っていた。
ジは魔剣のレーヴィンを抜いてフィオスには盾になってもらって戦っていた。
「小賢しい真似を!」
マストにかじりついたり殴りつけている魔物のところについたバルダーが後ろから魔物を切り捨てる。
まるで邪魔をさせないという風にバルダーに気がついた魔物たちが集まってくる。
「ウィリア、無理はせず戦うのだぞ」
「分かっています。
お父さんこそ無理はしないでくださいね」
「分かっているわい」
マストを守りたいが魔物が押し寄せてくるので近づけない。
魔物は再生してくるかもしれないので適当に切り捨てることもできない。
援護を期待したいが他の異端審問官も増える魔物の対処に追われていた。
「助けに来ましたよ!」
「はははっ、これはありがたいな!」
そこにジたちも加わる。
若いが勢いがある3人組の援護にバルダーも笑顔で感謝を述べる。
「では少し本気を出そうか」
バルダーの戦斧から魔力が漏れ出す。
横一閃に振られた戦斧は複数の魔物を同時に切り倒す。
バルダーを前にして後ろをウィリアを含めた4人でフォローする。
マストを攻撃する魔物はジたちを気にする様子もなくマストの攻撃を続けていて、周りの魔物を倒して無防備になっても全く振り向きもしなかった。
「えっ……きゃああ!」
マストは折られる前に魔物を倒すことができた。
あとはマストを守りながら防衛する。
魔物と順調に戦っていたら突如ウィリアの腕に何かが巻き付いた。
「ウィリアさん!
アイツなんだ!」
強い力に体勢を崩すウィリア。
腕に巻き付いた何かのその先には口を大きく開けて舌を伸ばしている魔物がいた。
魚というより蛙にも似た形した顔をしている魔物が舌でウィリアを引っ張ろうとしていた。
「ウィリア!」
魔物の力が強くウィリアは抵抗虚しくひきずられていく。
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