驚きの再会3
「確かにそうですね……これからより主人のことを知っていけるよう努力いたします」
あっ、ダメだこの人話聞かない、とジは遠い目をした。
それにニノサンが治療を受けている間に話を聞きつけた何人かからニノサンをよろしくと話をされた。
もうこの船で過ごす方が幸せなのではないかと思うほどだ。
良くも悪くも真面目なので船での仕事もしっかりとこなしていた。
強いから船上で魔物に襲われても先頭で戦い、己の身一つで信頼を勝ち得てきた。
ここでニノサンを拒絶すれば船から投げ捨てられてしまいそうな気配すらある。
「まあ……まずはちゃんと自己紹介からしましょうか」
ニノサンにしても過去では死んだ強者だった。
リアーネもそうであったように特別どちらかに肩入れしたくてしていたのでもない強者を生かして引き入れられたなら今後役に立つはずだ。
ジは軽く自分のことをニノサンに説明する。
今は商会を持っていて、仕えるなら商会の仕事を手伝ってもらうことなども伝えた。
ジの予想外の正体にニノサンも驚いていた。
子供のジが商会長をやっていてそこそこ繁盛しているなど予想もできない話である。
「お名前から貧民であることは分かっておりました。
なんなら私が主人を養うつもりもありましたが……」
意外とぶっ飛んだ思考しているニノサンは当然ジという一文字名前から貧民であることは分かっていた。
それならば生活に苦しくお金もないはずで仕えるならば主人の生活も豊かにする義務があるぐらいに考えていた。
決して馬鹿にしているのではなく真面目にそう考えていたのだ。
だが真面目が故のタチの悪さもある。
「養ってもらう必要はないよ。
むしろちゃんと給料は払うからさ」
「なんと……!
さすが我が主人!」
諸手を挙げてジのことを称賛する。
これまでいなかったタイプの相手にどうしていいのかも分からない。
「とりあえずお前のこと聞かせてくれ」
ジもあまりニノサンのことは知らない。
戦争で功績を立てたい人でもなさそうだし人を殺してみたくて戦争に参加する人にも見えない。
なぜ戦争に参加していたのか。
その理由によってはジも心を開くことはなくなる。
「主人には全てをお話しいたします」
ニノサンは養子だった。
元々は雇われの騎士の家系だったのだが母が幼い頃に亡くなり、父親も魔物との戦いで帰らぬ人となってしまった。
顔が良かったのでニノサンを引き取りたいと聞いたこともない親戚まで出てきたのだけど親戚付き合いもなかったのでどの親戚がいいかも分からなかった。
「そんな時に私を引き取ってくれたのが父が仕えていた領主様でした」
領主の命によって行った魔物討伐で亡くなったのだし責任を感じていた領主は信頼できない親戚を名乗る連中を跳ね除けてニノサンを引き取った。
特に子供がいない人でもなかったので養子としての身分を与えられた他に大きな変化はなかった。
教育を受けて最後には騎士として仕える。
それだけだった。
ニノサンはその恩義に応えるために努力をして頭角を表した。
魔力もあって実力も兼ね備えたニノサンは領主にも信頼を寄せられる騎士となり、ニノサンは真面目に仕えていた。
そこで内紛が始まった。
領主は王弟側についた。
「だから私は王弟側の人として主人に剣を向けることになりました」
戦争に興味はなかった。
だが領主が王弟側の人とて参戦したのでニノサンも参戦することになった。
「なるほどね」
「じゃあその領主のところに行けばいいじゃないですか」
「もう領主様もいらっしゃいませんし、返すべき御恩は返しました」
すでにニノサンは領主を見限っていた。
それはジがリンデランやウルシュナと一緒にいる時に襲われた一件でのことからだった。
町中での襲撃。
成功する可能性は低く、成功したとしても帰って来られることも絶望的な作戦だった。
やらされる側としてはたまったものではない。
にも関わらずニノサンは襲撃者の1人だった。
すなわちそれはニノサンは見捨てられたということ。
帰ってこなくてもいい捨て駒としてニノサンは送り出されたのであった。
忠誠心の強かったニノサンはそれでも真面目に任務を遂行したが必死に逃げて戻る途中で偶然にも話を聞いてしまった。
領主が手を出そうとしている女中がニノサンに想いを寄せていて、そのためにニノサンが邪魔になったから任務に送り出したのだということを。
ニノサンなら生きて成功させるという期待ではなく、死ぬことを望まれていた。
一瞬にしてニノサンの忠誠心は無くなった。
命をかけて任務には臨んだので恩は返した。
その瞬間にニノサンは領主を命をかけて仕える相手だとは思えなくなってしまったのである。
それでももはや王弟側として戦ってしまっているし未だに領主には仕えていた。
なし崩し的に戦いは続けることになってしまったのだけど心にはジの姿が残っていた。
女の子を守り、決闘を申し込むその姿は誰よりも美しく見えた。
諦めを知らないその目に映る闘志は誰よりも燃えていた。
自分にはない意思の強さと誰かのために戦うという尊敬に値する姿勢を感じた。
自分の主人がそんな人だったらと頭をよぎった。
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