驚きの再会1

 出航してから1日が経ったけれど救助を出した船は見つからなかった。

 そこで周辺を捜索するために鳥系の魔獣を放つ。


 このような時にも鳥系の魔獣は役に立つ。

 周辺にそれらしきものは見つけられなかった。


 なので潮の流れなどから船の移動経路を予想して、仮に自力での航行が出来なくても移動できそうなところまで探してみることにした。


「何かいたぞ!」


 魔獣を飛ばしていた異端審問官の1人が何かを見つけた。

 サードアイの魔法で視覚を同期してみたところ白いバリアのようなもので囲まれた1隻の船の姿があるという。


 船はボロボロの状態でマストも折れている。

 状況も分からないので近づくに近づけず細かいことはそれ以上分からなかった。


 しかしおそらくそれが救助の便りを出した船であると思われるので船の進路を調整してそちらに向かった。

 距離にして1日。


 にわかに船の上は緊張感が漂う。

 追加の偵察では人の姿も確認出来た。


 一応連絡を取ろうと試みたがバリアは白く輝いていて外からではほんのりと中が見える程度で中からも外の鳥が見えていないようであった。

 何があってもいいようにジも早めに就寝して備えた。


「見えたぞ!」


 朝日が昇り始めるころ、白いバリアの張られた船が直接目でも確認出来た。

 ある程度近づいたところで向こうの船もこちらに気づいたようで白いバリアが消えていく。


「おーい!


 助けてくれー!」


 警戒していたが向こうは必死に手を振っていて敵対することはなさそうだった。


「漁業ギルドのタイザーヌだ!


 何者か名乗れ!」


 罠の可能性もある。

 この規模で魔物が化けていることなどあり得ないが所属は聞いて確かめておく。


「ビグマ商会のビグマだ!


 こちらにはケガ人も多く、一刻も早い手当が必要なんだ!」


 救助を出したビグマ商会であることが確認出来た。

 船に縄を渡して引き寄せて板を渡す。


 念のために武装した冒険者や異端審問官が先に渡るが相手は武装もしていない。

 再び慌ただしくなる。


 ビグマ商会の船はひどい状態だった。

 あちこちに戦いの跡が見られて、船室にはケガをして寝かされている人たちが並んでいた。


 ジやユディットも物を運んだりと出来ることを手伝う。

 ケガがひどそうな人にはこっそりとフィオスをくっつけて治療薬を出して治してやったりもした。


「悪いなボウズ……」


「動かないでください」


「あんなこと初めてでな……あの兄ちゃんのおかげで助かったよ」


「兄ちゃん?」


「ああ、あっちにいるだろ。


 あの金髪の兄ちゃんだよ」


「金髪……あれ?」


 壁に寄りかかって苦しそうな顔をしている金髪碧眼の青年がいた。

 とても綺麗な顔をしていて海の男にはとても見えないその顔にジはなんだか見覚えがあった。


 思わず見つめてしまっていると顔を上げた青年と目があった。

 大きく見開かれる青年の目。


 一方でジはまだ思い出せない。

 力を振り絞るようにジの方に向かってくる。


「えっ……えっ……?」


「ようやく会えました、我が主人よ!」


 そして青年はジの前で膝をついて頭を下げた。

 訳が分からず困惑するジに一斉に視線が集まった。


「ニノサン・ハプセル、このお命、あなた様のものでございます」


「な、なんだって?


 ニノサン……ニノサンって、あの!?」


 全くもって予想外。

 名前を名乗られてようやくジは目の前の青年のことを思い出した。


 かつてジと死闘を繰り広げた王弟側の兵士であった男であるニノサンであった。

 落とされた橋の前で戦い、ニノサンはフィオスを踏んで渓谷に落ちていった。


 勝利とも言い難い勝利を収めてジは援軍が来たことを伝えてその場をなんとか脱したのだった。

 渓谷は深く、とてもじゃないが助からないと思っていた。


 なのにニノサンは全く無事な姿で現れた。

 今は事情が事情なだけに弱っているが大きなケガをしているような様子もない。


「な、何しに来た!


 というかなんでここに!?」


 珍しく動揺が隠せないジは後ずさる。

 以前戦った時よりもジも強くなったがそれでもニノサンに勝つのは難しい。


 仮に復讐したいというのなら命懸けの死闘となる。


「そう恐れないでください。


 私の命はもう主人の物。


 なぜここにいるのかは長ーい話になります……」


「なんで命が俺の物だと?」


「もちろんそれは決闘に私が負けたからです」


 ヘルムもなく正面から顔を見て相変わらず綺麗な顔してんなぁと思う。


「決闘に負けたからって俺が主人なことにはならないだろ?」


「いえ、あの決闘では互いに命をかけました」


 お前が勝手にな。


「そして正々堂々戦い、私は主人に敗北いたしました」


 あれを勝利と言われるのもなんだか納得はいかない。


「しかし主人は私の命を取りませんでした」


 そりゃあ渓谷に落ちていって死んだと思ったのだから命を取るも何もない。


「つまりこの命は我が主人の物なのです!」


 だからなんてそうなる。

 別に好きに生きてくれて構わない。


「なんなんですか、あなた。


 会長にはあなたのようなよく分からない素性のものは必要ありません。


 それに私のような立派な騎士がいるのですからあなたが入り込む隙など存在しないのです」


 ズイッとユディットがジを守るように前に出てくる。

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