異端審問官と師匠と泥棒3

 ジから飛び出したのは消費者側の意見。

 フェッツもこちらに支部があり、魚を食べることも多い。


 こちらに住むギャルダヌは言うまでもなく、むしろ魚を普段から食べる人である。

 魚に慣れ親しんでいるが故に気づかなかった目線の話にハッとさせられた。


 また商談の時間が伸びるかもしれないなとジは若干遠い目をする。

 歩きながらどのような調理法がいいのかの話に変わる。


 基本的には焼いて食べるのがいいのだけど魚の旨味が出るから煮たりすることもある。

 何かの具材としてもいい。


 魚の種類によっても違うし焼くのも多少方法や時間に差が出てくる。

 保存がきく魚として塩漬けにされたものもある。


 食べ方も分からずそのまま食べては嫌われてしまう可能性も大いにありうる。

 最後にはあの店のアレが好きとか脱線した話になった。


「こちらが今回借りている倉庫になります」


 ボージェナルにある大きな港の側にある大きな建物が倉庫であった。

 場所的には船着き場からやや離れているがその分広くて大量の荷物も置いておける。


 海に近くて強い磯の香りがするのだが倉庫の中はまた磯よりも強い臭いがしていた。

 臭いに慣れないジは少しだけ顔をしかめたけれど他の3人は顔色も変えなかった。


 長期的な置き場には相応しくないが荷物を下ろして置いておくには十分な場所だ。


「あっ、ジ!」


「あれ?


 ソコじゃん」


 他にも何棟か倉庫があるが同じ物なので確認もいいだろうと解散することになった。

 その時隣の倉庫からホウキを持ったソコが出てきて倉庫の前にいるジに気がついて、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「こんなところで何してるんだ?」


「へへっ、聞いてくれよ。


 仕事もらったんだ!」


 ソコは誇らしげに胸を張る。

 ジと別れた後ソコは自分の父親を雇っていた漁業を扱っている商会の会長のところを訪ねた。


 母親を助けたいから仕事をくれないかと真っ直ぐな目をして頭を下げたソコに会長は仕事をくれた。

 船や父親である船員を失った会長だったがその家族のことは気に留めていた。


 積極的に無償の支援をできる余裕はなかったが働きたいと言うから受け入れた。

 そしてフェッツが借りた倉庫はソコの働く商会が所有している物であった。

 

 船が無くなったので倉庫を持て余すことになり、いくつかを貸し出すことにした。

 倉庫を利用する前の掃除をソコがやっていたのであった。


「頑張ってんじゃん」


「えへへ、ジの言う通りにしてちゃんとお願いしたら雇ってもらえたよ。


 これでちょっとは母さんを助けられるよ」


 意外と近くに拾ってくれる人がいたみたいで良かった。


「そっか……ジのとこが使うんだな。


 じゃあピッカピカにしといてやるよ!」


 広い倉庫を掃除するのも疲れてきたがジが使うならとやる気が出てきた。


「まあ無理はすんなよ?」


「もちろん。


 ジこそなんか……大人と仕事してカッコいいな!」


「はは、ありがとう。


 でも今日はただ付いて回ってるだけだからな」


「ふーん、でも大事なお仕事の一環なんだろ?


 頑張ってくれよ!」


「お前もな」


 早めにソコが前を向ける仕事を見つけられた。

 手を振り合ってソコと別れて、ジはフェッツに美味い魚料理のお店に連れていってもらった。


 ーーーーー


 2日後、ナーズバインの商船がボージェナルに到着した。

 船というと川を渡す小型の手漕ぎ舟しか知らないジだったが大きな帆船を目の当たりにしてその壮大さに感動した。


 ナーズバインで用意した人だけでなくフェッツも人を用意して船から荷物を下ろして借りている倉庫に運ぶ。

 忙しなく行ったり来たりを繰り返して倉庫に荷物が運び込まれ、ジやフェッツはリアイと共に倉庫で荷物の確認や置き場所の指示を出す。


 広く見えていた倉庫があっという間に荷物で埋まっていく。

 たった1日では荷下ろしは終わりきらず、荷下ろし作業は数日かけて終わらせられた。


 荷下ろしをしてくれた人たちはグッタリしていて、ジたちも連日の作業に疲労しきっていた。

 しかしまだ終わりじゃない。


 運び込まれた荷物を直に見て最終的な確認や取引の金額の調整などを行い、さらにこれらの食料を輸送しなければならない。

 歴戦の商人であるフェッツも疲労を隠しきれないが空腹にあえぐみんなのためと思えば頑張れた。


「商品が消えた?


 何を言っているのですか!」


 荷下ろしが終わって自分がなんだか魚臭くなったような気がするジはフェッツの商会に来ていた。

 いくつか荷物を開けて確認して品質の確認や最終的な合意を交わすためにここ連日通い詰めている倉庫にまた行くためである。


 もうフェッツの商会の人とも顔馴染みになって、商会に入っても軽く挨拶するだけで通してくれる。

 フェッツが執務室として使っている部屋から怒号が聞こえる。


 怒っても声を荒げることのないフェッツにしては珍しく怒りの声を上げている。

 開け放たれているドアから中を覗き込むと頭を抱えるフェッツの姿が見えた。


 初めて見る姿に入っていいものかとジは迷う。

 フェッツに対面しているのはボージェナルにある商会の支部長を務めていて、こちらでのことを色々と補佐してくれている男性だ。

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