過去の君が教えてくれたのさ2
ズドッとお腹をつつかれてミュシュタルがビクンと目を開けた。
ポカンと驚いたような顔をしてヒスを見る。
なんだか抜けた顔をしていて可愛い。
「起きてください。
ほら、もう終わりですよ」
なんか知らんがファイヤーリザードはお湯につかるのが好きらしい。
コロップもミュシュタルもどっちもそうなのでファイヤーリザードがそうなんだろうと思っている。
お湯から上がるミュシュタルをヒスが拭く。
大きめの良い布であり、吸水性は割と良いけどタオルにするような布ではない。
ミュシュタルの体についた水も立派なパロモリ液なのでこれも何かに塗ると断熱効果を発揮する。
もったいないので後々加工に使う布で拭き取って何かにするのだ。
何回か拭き取ってやればリンデランにあげたような防炎布としてのエプロンぐらいにはできる。
「んじゃ行こうか」
「友達……ドキドキ」
そういえばなんだかんだキーケックをリンデランやウルシュナにちゃんとした紹介をしていなかった。
キーケックが人見知りで積極的でなかったからだ。
タとケのお誕生日の時には会っているけどあの時は親子揃って感動に涙していたので話してもいないだろう。
最近少しずつヒスと仲良くしてクトゥワにも人と交流することの大切さを教えられたので頑張っている。
同性ならまだしも異性は緊張するらしく硬い表情をしている。
「みんなお揃いだな」
ジの家に行くと勢揃いだった。
エ、ライナス、リンデラン、ウルシュナ、アユイン、ユダリカ、ヒディとこれまでに交流してきたみんなが集まっていた。
そこにキーケックとヒスも合流。
さらにタとケ、ユディットやリアーネ、グルゼイまでいるのでそんなに広くない家はいっぱいいっぱいだ。
ヒディは意外だったけどリンデランが連れてきた。
「……呼んだのはあんたでしょ。
何変な顔してんのよ?」
「あ、ああ……すまない」
こうやってみるとたくさんの人と縁を持っている。
過去では酒場で会う他にはあまり友達と言えるような人がいなくて寂しい人生だった。
でも今回の人生では呼んだら来てくれるような友達がたくさんいる。
過去では手放した縁、過去にはなかった縁、過去とは違った縁。
改めて目の前にすると凄くて、嬉しくて、なんだか誇らしい。
「もう自己紹介はしたのか?」
「んー……しようと思ったけどあんたが呼んだんだし待ってたの」
「そっか……ミュコ、これが俺の友達。
みんな良いやつだ。
みんな、ミュコだ。
仲良くしてやってくれ」
「私はエ。
よろしくね!」
「リンデラン・ヘギウスと言います。
よろしくお願いします」
「あ、あわわ……えっとミュコです」
みんながそれぞれ自己紹介をする。
貧民も平民も貴族も関係ない。
実は王族までいたりもするけどみんな同じく等しい。
「そしてこれがフィオスだ」
ついでにいつものクッションの上にいるフィオスも紹介する。
「んじゃ……メシでも作るか」
この人数が集まって出来ることなんてない。
なんの考えもなくみんなのことを呼んでみたけどこうやって集まってみると思いの外多いものだ。
「やるー!」
「任せてー!」
「お手伝いします」
「みんな話したこともない人もいると思うから仲良くな」
ジを中心とした集まりだけどみんな完全に初対面ということもない。
最初はぎこちなかったけれど年が近いこともあって料理ができて運んでくるころにはみんなそれぞれ打ち解けてきていた。
そして同じ料理を分け合って食べる。
くだらない話が盛り上がり、過去になかった光景にジも笑顔になる。
ミュコのためと思って集めたけど集まってくれたみんなを見て嬉しくなったのはジの方であった。
護衛のために窓の外から監視しているヘレンゼールがいなきゃ完璧なのにな、とは思ってしまった。
ーーーーー
「はぁ〜顔が熱い……」
一通り飲み食いしてダラダラと喋って解散となった。
しょうがないのかもしれないけどジ中心の話となってそれぞれジのことを話すものだから当の本人はその場に居にくくてたまらなかった。
キーケックなんかはジのことを褒めちぎって大好きだと言うものだからジも流石に恥ずかしかった。
今でも思い出すと顔が赤くなる。
みんながどう思ってくれているかも分かったがあんなのはもうこりごりである。
エとライナスを馬車で兵舎まで送り届けて帰ってくるとだいぶ日が暮れて空が赤く染まってきていた。
「ミュコ、何をしてるんだ?」
家の前ではミュコが剣を振っていた。
剣舞の練習をしているのだ。
「……みんな、良い人たちだね」
「良い人たちだろ」
「みんなと友達になれて嬉しい」
照れたようにうつむいているミュコ。
近い年の子供で、あんなに大人数でワイワイと食事したことなんてない。
実際ジだってあんな人数で食事会なんてやったことないけどミュコにとっては2度とないかもしれない、とても思い出深いものになった。
「友達だって、言ってくれて……すごい、なんて言ったらいいか分からなくて。
なんて言ったらいいか分からないけど、お礼がしたいって思ったんだ」
日が落ちて闇に溶けていく黒い髪が夕焼けに赤く照らされて神々しくすら見えた。
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