踊り踊って、巡り巡って4
「だから何か褒賞でも与えないと、と思っていたのだよ」
「はぁ……まあ別に欲しいものもないですけどね」
「土地とかいらないか?」
「基本ここから出ないのに土地もあんまりいらないですよ。
それに王国の直轄地は俺が持つには手に余るようなすごく良いところか、誰もいらないような土地でしょう?」
豊かな土地や有用な土地は大体どこかの貴族か国が持っている。
そうじゃない平凡で用途もないような土地は大体もらう人もいなくて国有地となっている。
下っ端騎士にあげて借上げ料としてお金を払う無駄な遠回りシステムぐらいにしか使わない。
自由に使える土地があることは憧れるけど明確なビジョンもなく人員もいない今では遊ばせることしかできない。
「……じゃあちょっとした権利をいくつかくれませんかね?」
「権利だと?
また何を欲しがるつもりだ?」
何処の馬の骨とも知らない貧民街の少年であるが王様がジとアユインとの交友に口を出さないのはジが子供ながらにわきまえているからだ。
アユインに男として手を出さないこともそうだし一線を越えるような要求をしてこない。
王様の意図を汲みつつもある程度自分の利益になって目立ちすぎないラインを考えているのだ。
だから権利という抽象的な答えでもその内容を聞くまでは安易に判断は下さない。
「ふふふ……なんてことはありませんよ。
俺のお願いみたいなもんです」
ニヤリと笑うジ。
何を要求されるのかと少しだけヒヤリとしたがなんてことはない、叶えるのも難しくない要求だった。
「……多少の反発はあろうがどちらも叶えてやれるだろう」
「本当ですか」
「本当にこれでいいのかこちらが聞きたいぐらいだ」
全くもって何を考えているのか分からない少年だと王様は笑う。
「娘はやれんが君を引き留めておくためなら有力な貴族との養子縁組だって斡旋してもいいのだぞ?
嫁がいいならそれでもいい」
「お父様!」
「王様にそこまでご寵愛いただけるなんて光栄の極みです。
ですが俺の身は俺自身で立てていきたいです」
「相変わらずだな……そんなところも好きだぞ」
「年配の男性に好かれても嬉しくはありませんね」
「ハッハッハッ!
私にそんな口を聞くのも弟がいない今ではお前ぐらいだ」
王様と敬意を払いつつもどこか気さく。
誰もが王に対して従順な世界などない。
生き馬の目を抜くような己の利益を狙う連中が多くて心休まる暇もない。
戦争で王弟側の人間が一掃されて足を引っ張ろうとする人はいなくなったがその空いたパイを狙って水面下で激しい争いがあるのだ。
しかしジはそんな争いとは関係がないと言い切れる。
全ての本音をさらけ出せる相手でもないけど警戒して当たる相手でもない。
「それでもう1つ」
「そういえば2つって言ってましたね」
「こちらは簡単だ。
お願いみたいなもので、私も招待して欲しい……というものだったのだが必要なさそうだな」
「そうですね。
こうなったなら当然ご招待します」
「事前に申し付けてくれればこちらでも人を用意しよう」
「ありがとうございます。
でもなんで……それにどこから」
「ルシウス卿から聞いたのだ。
芸術系の商会でもなく、そうした活動もしていないのにいきなり劇団を招致するのだものな。
君のことを注目している私としては気になるだろう?」
「……ご期待に沿えるといいのですが」
「商才と商品開発については頭1つ抜きん出ているが芸術に関する嗅覚が優れているかこれで分かるな」
「また意地の悪いことをおっしゃいます……」
「私も誘っていただけますか?」
「もちろん1席用意するよ」
「ありがとうございます!」
「それとこれも耳に挟んだのだが……」
どうやらジやフィオス商会のことは王様に筒抜けらしい。
パージヴェルやサーシャに引き受けてもらった馬車のパロモリ液による適温加工のお試しが王様の耳にも入った。
今回もパージヴェルが大きな働きをしてくれたようだ。
モンスターパニックの討伐なんかにも珍しく馬車で乗り付けてきたパージヴェルは耐えきれずに自慢して回っていたみたい。
まあパージヴェルが馬車に乗ってくれば人は理由を尋ねるだろう。
もはや振動が減っただけではなく中の温度すら快適になる。
中の温度調節用にリンデランに氷を用意してもらったらしく孫娘の自慢までついでにできるという仕様だ。
相変わらず狙い通りの動きをしてくれる人である。
お願い事2つじゃなく3つじゃないか。
そう思ったがどうしてもということだったので仕方なく馬車の加工を引き受けることになった。
まあファフナが来てファイヤーリザードが増えたので多少の余裕もできたしぼちぼち加工の方も引き受けてもいいだろうと思っていた。
「帰ったら色々相談だな」
「いつ遊びに行けますか?」
「ん……それもちょい待ってくれ」
「……手を出すなよ?」
「出しませんって……」
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