踊り踊って、巡り巡って2

「見せてー!」


「見たーい!」


「ええっ、じゃあちょっとだけだよ?」


 タとケの純粋なキラキラした目にミュコも断ることなどできない。

 練習用の棒を持ってきて家の前で軽く剣舞を披露してくれることになった。


 邪魔にならないように少し距離を空けて見学する。

 一度大きく息を吐き出したミュコが動き出す。


 緩やかな動きから始まり、だんだんと激しくなる。

 速度が上がってくるとまるで持っている棒まで柔らかくしなやかに動いているように見えてくる。


 やはり舞の才能がある。

 剣舞を踊っていると幼さの中にも妖艶さが滲み出てきて見るものの目を奪う。


 タとケも呼吸をするのを忘れて見入っている。


「はぁ……はぁ……」


「わあ、すごい!」


「キレー!」


 意外と本気で一曲踊ってくれた。

 玉のような汗を流し息の荒いミュコにタとケは惜しみなく拍手を送る。


 それだけでなくいつの間にかグルゼイや貧民街に住む人が見学していた。


「綺麗だな」


「へへへ、ありがとう」


 公演中だと拍手喝采でも照れないのにこうした場で褒められるとなんか照れる。


「私たちも踊れるようになりたいね」


「そうだね」


「2人も踊るの?」


「ううん」


「お母さんが踊るの」


「だから私たちも踊れるようになりたいって思ってるんだ」


「へぇ〜」


「ジィー」


「ジィー」


 タとケの視線がミュコに突き刺さる。

 何を期待しているのかは分かってしまう。


「……ちょっとやってみる?」


「いいの?」


「やりたい!」


「ほんとに少しだけだからね」


 自分達も剣舞をやってみたいという視線。

 本当は簡単に教えちゃいけないけどただ純粋に踊りたいというのが伝わってくるので少しだけならとミュコも思う。


「なんだか似ているわね」


「ファフナさん。


 何が似ているんですか?」


 タとケに棒を持たせて剣舞を教えるミュコ。

 3人の姿を微笑ましくみているとジの後ろにファフナが立っていた。


 足が悪く塞ぎがちだったファフナだけどタとケに出会い、ジの家に移ってきて少し気力を取り戻した。

 朝は双子と散歩に行ったりしてすっかり元気になって若々しくなった。


 ファフナもミュコの剣舞を見ていた。

 そしてその姿を見てある人を重ねていた。


「アレナによ。


 あの子の踊りはアレナのものに似ているわ。


 アレナのものの方が綺麗だったけどね。

 それにアレナは剣でなく扇を使っての舞だったからそこも違うわね」


 アレナはタとケの母親の名前である。

 ミュコの披露した剣舞はファフナにアレナの姿を思い起こさせた。


 どことなく剣舞の動きにアレナの舞に似たものを感じたのであった。


「まあミュコも南の出であるしアレナさんも南の方からきたんだろ?」


 アレナとミュコの踊りにどこか似ている所があっても考えられない話ではない。

 いや、もしかしたらとジは思った。


「そうね。


 南の方の踊りだとしたら似ているところもあるかもしれないわね。


 私がタとケに踊りを教えてあげられたらよかったのだけど足も悪いしアレナの踊りを何回か見ただけだから……


 ああして歳の近い子に教えてもらえてありがたいわ」


「踊りは無理でも料理や刺繍を教えてくださっているんですよね?」


 ジは年頃の女の子がやるようなことはできない。

 料理も男料理で繊細さもないものしか作れないのでファフナが色々と教えてくれていて助かる。


「これぐらいしかできることがないからね。


 こんなことでよければいくらでもあの子たちに教えるわよ」


「2人もファフナさんのこと慕っていますのでこれからもよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 にっこりと微笑むファフナ。

 やはり女性の保護者の存在はありがたいものである。


「会長!」


 のんびりとしていると慌てた様子のメリッサが来た。


「おっ、メリッサ。


 何かあったか?」


 ジは遊んで暮らしているけどその裏で準備は着々と進んでいた。

 公演のためのステージの設営など必要なことはジの専門外なのでニージャッドとノーヴィス、メリッサに任せていた。


 事前に必要なものやステージについては聞いていたのでものは用意してあった。

 報告を上げなくても順調ならそれでいいと言ってある。


 特にジが必要になる事態もあるとは思えない。

 ステージの場所もちゃんと許可を取ってあるしなんの用事だろうとちょっと不安になる。


「至急お店の方に来てください!」


 ーーーーー


「何事かと思えば……」


「はははっ、久しいな」


「こんなところにいていいんですか?


 わざわざ来るまでもなく人を使わせばそれで十分でしょう?」


「執務ばかりやっていると息が詰まる。


 特に今はな……」


 何事かとお店まで走った。

 馬車を売っている店を襲うバカはいないと思うが何があるか分からないのが世の中だ。


 そしてお店に行ってみるとそこには人がいた。

 暴れてるのでもなく商談用の椅子に座ってメリッサが出したそこそこの品質の紅茶を嗜んでいる男性と女の子。


 よく、とまでは言わないけど多少知った顔の親子。


「王様がそれでいいんですか……」


「いいんだ」


 そこにいたのはこの国の王様とその娘であるアユインであった。

 メリッサも貴族相手は慣れてきたけれど流石に王様の相手は出来なかった。

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