生きるということ3
「ダメだ!
俺の腕を切れ!」
首だけになってもなおゴブリンは腕から口を離さない。
首だけが転がっていっても再生してみせたのだから首を切り落としても倒せない。
もうかなり深く牙が食い込んでしまって頭だけになっても取れそうにない。
首を切り落とす直前ゴブリンの手は隊長の胴体に伸びていた。
腕だけではなく体も狙っていた。
「しかし……」
「どけ、ホーランド!」
仲間の腕を切るなんて出来ない。
ためらってしまったホーランドを押し退けてコンスが隊長の腕を切り落とした。
「どうする!」
「今の俺たちに一気にコイツを消すような火力はない。
ただコイツは力が弱いから土で囲んで封じ込めるんだ!」
肘から先が無くなったが熱いような感覚がするのみで痛みを感じない。
興奮で痛覚が麻痺している。
「ホーランド!」
この中で土魔法が使えるのはホーランド。
一瞬で下されていくとんでもない判断に若いホーランドは追いついていけない。
隊長の声にハッとなったホーランドは魔法を発動させる。
もうすでにゴブリンは体の再生が始まっていて隊長の腕を噛みちぎって食べていた。
ゴブリンの頭の周りの土が盛り上がってゴブリンを包み込む。
「引き上げるぞ!」
「ですが腕が……」
「腕など今はよい!
一刻も早くここから引くんだ!」
止血もしていない腕からは血が滴っている。
けれど隊長は悠長に止血する暇があるなら早くここから離れるべきだと判断した。
中からゴブリンが出てくる気配はない。
しかしうっすらと中から腕を食べる音が聞こえてきて気味が悪い。
「腕は一本あれば子供抱いてやれる。
金はかかるが早く戻れば高位神官に腕も生やしてもらえるかもしれない。
今はまず異常個体から離れるんだ」
「いけ、ホーランド!」
コンスがホーランドのケツを蹴り上げて走らせる。
隊長を先に行かせて自分は最後尾を行き、後ろを警戒する。
部隊の後ろ姿は遠く見えるほどに下がっていた。
これならばもし出てきても逃げられるし力を温存している後方の控えの部隊も交代で出て来られる。
「腕一本で済んだなら安いもんかもしれない……」
ーーーーー
緊急報告。
スキムット南西方面担当第10大隊がモンスターパニックの制圧と誘導の最中特殊個体の魔物に遭遇。
姿はゴブリンのようであるが肌が黒い。
虫とは共存関係にあるのではなく虫は特殊個体に群がって食らおうとし、特殊個体も虫を食らっている模様。
特殊個体の特出した能力は異常なまでの再生力。
首を切り落とされても首から早い速度で胴体が再生し始める。
咬合力と握力も非常に強くものを噛み砕いて食べることにも長けているようである。
それ以外の能力は不明。
モンスターパニックの状況において他の魔物がいないのに見たことがない肌色をした魔物がいることからモンスターパニックに起因する特殊な個体であることは間違いない。
高い再生力を持つために倒すために高火力で倒す必要があると思われる。
その後の調査でゴブリンを閉じ込めた土魔法での拘束を発見したが中にゴブリンの姿はなかった。
どこへ向かったのか要調査である。
ーーーーー
報告。
第23隊の失踪について。
スキムット平原に駐屯地を置く第23隊からの定期連絡が途絶えた。
先日異常個体の報告があったために精鋭部隊を調査に送った。
結果駐屯地には人はいなかった。
駐屯の状態は維持されていたのだが人が1人もいなくなっていた。
血痕や戦いの跡があったことから戦闘が行われたと推測される。
しかし骨の一本すらないためにモンスターパニックの虫の仕業ではないものと思われる。
特殊個体がやった可能性あり。
高い警戒と継続した調査の必要があり。
各隊から実力のあるものを呼び集めて特殊個体に対応することの検討を要する。
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