リアーネからの救援要請2

 だから馬車で移動している。

 ジが座っているところ以外は凍らせた食料品とか買って持ってきたものが積んであった。


 グルゼイやメリッサには心配されたけれどグルゼイには家を、メリッサには店を守ってもらわなきゃいけない。

 朝のゴミ掃除にもちゃんと対策は取ってきたし問題が起こることもないだろう。


「食料不足になるって何があったんですかね?


 今のところ物が足りないとか高いとか感じたことはないんですけど」


「中心部と地方では事情が違うからな。


 それに地方で起きた出来事が首都や大都市に影響を及ぼすのは時間がかかる。

 逆もまたしかりだ。


 今回のことはもう少し遅れて何かの影響が波及してくるかもしれない」


「まさか食料不足が首都で起こるとでも?」


「可能性はある」


 ジはオロネアの話を思い出していた。

 連鎖的モンスターパニックとやらが問題になっているんじゃないか。


 そんな不安がチラリと頭をよぎる。

 建国祭の影響ということも考えられる。


 今は建国祭のために物資が首都に集中しているのでそのために無理をした地方で食料の首が回らなくなったということだってあり得る。

 建国祭のために高く買ってくれるなら首都の方に持ってくる商人も普段より多かろう。


「……一応この手紙が来た時点でメリッサには買いだめをお願いしておいたけどな」


 嫌な予感ってやつは大体当たる。

 モンスターパニックの件がなくても定期的な周期で不作などのために食糧危機は起きてしまう。


 ジだって過去に何回か死にかけたものだ。

 泥水をすすり、人が捨てたものを漁ってなんとかお腹を誤魔化して生き延びていた。


「こんなタイミングでなんですけど俺、あんまり首都離れたことないんでちょっとだけワクワクしたりはしてます」


「俺は外出たくないわ」


「お家大好きですもんね、会長は」


 金もないし1番恵まれた都市から出る必要はない。

 過去を含めてもジが首都から離れた経験は少ない。


 あるにはあるがそれだって楽しい観光とかではなかった。

 誘拐されて監禁されたこともあってあんな子供だけの命懸けの旅はゴメンだし、外に関して良い印象の方が少ない。


 安心安全のお家が1番である。

 なんならお家で何もしないでお金が入ってくるのが理想である。


 商会もゆくゆくは有能な人に任せて生きていけるお金をいただければいいなと思っている。

 誰か養ってくれるならそれでもいい。


「いや、それは流石にダメだな……」


「何がですか?」


「こっちの話」


「はぁ……」


「危険はないと思うけど早くリアーネと合流しなきゃいけないな」


 ただ馬車に揺られていると眠くなる。

 フィオス商会特製の揺れない馬車の揺れは非常に少なくて、そのわずかな揺れもむしろ心地が良い。


 だけど寝てもいられない。

 時間がない都合でユディットと2人で出発したけれど本当はそんなことしてはいけない。


 整備された道を通っていく以上は危険は少ないがゼロではない。

 稀に道にも魔物が出てくることがある。

 

 ジとユディットなら対処できると思うけど数が出てくると大変だ。

 それにより厄介なのは人間だろう。


 戦争の影響で盗賊などの良くない道に身をやつしたひとも一定数いる。

 魔物とどっちが強いとは言えないけど悪知恵は盗賊の方が働くことが多い。


 侮れなさがある。

 人数が少ないことに目をつけると手段を選ばず襲ってくることも考えられる。


 安全策を取るなら冒険者を雇って護衛にするのがいいけど信用もできない冒険者を雇う気にはならず、信頼できる人を集める時間もない。


「おおっと!」


 馬車が急に止まった。

 流石にブレーキの衝撃まではなくならないので座席から投げ出されかける。


「ユディット、どうした?」


「敵襲です」


「おい!


 食料か金があるなら置いていけ!」


「あー……」


 心配している時には出てこないのに心配して考えると出てきてしまう。

 身なりの汚い8人の男たちが馬車の行く先を阻んでいた。


 見た目で人を判断するのは良くないことだけどどう見ても盗賊だった。

 要求してきたことからしても間違いない。


「よいしょ」


「か、会長は中で……」


「俺たちしかいないんだから俺たちでなんとかするのが筋だろ」


「なんだぁ?


 ガキ2人……」


 リーダーが顔をしかめる。

 立派な馬車だから襲ってみたが蓋を開けるといるのは御者の青年と中から子供が1人。


 護衛もいないし貴族っぽくも見えない。

 金を持っているように見えなかった。


「チッ……持ち物全て出しな!」


 かき集めればいくらかにはなるはずだ。

 ガキ相手なら制圧も容易いので大人しく従うだろうと思った。


 何でもいいから差し出せば通してやる、そんなつもりだった。


「ふん、お前らのような奴らにくれてやるものなんてないな!」


「なんだと、このクソガキ!


 ……良いもん持ってんじゃねえか」


 ユディットが剣を抜いて盗賊を睨みつける。

 魔力をまとう美しい剣は少し知識があればそれが魔剣であるとすぐに分かる。


 金目のものは期待していなかったが魔剣なんていくらで売れるのかリーダーの頭の中で妄想が広がり始める。


「その剣寄越したら命だけは助けてやるぞ」


「盗れるもんなら盗ってみろよ」


「なんだか一々気に触る言い方するガキだな……


 おい、やっちまえ!」


 盗賊たちが一斉にユディットに向かう。

 ユディットよりも幼いジはそもそも戦力としてもみられていない。

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