リアーネからの救援要請1

「乗り心地はいかがですか?」


「うん、大丈夫だよ。


 うまいもんだな」


「これも仕事のうちですからね」


 ユディットが御する馬車に乗り道を行く。

 フィオス商会で馬車を扱う都合上馬車もあるし品質のチェックなどを行うために工房の方で馬も飼っている。


 クモノイタの納品はユディットが担当しているのだけどそうして工房に行くときに馬車の品質チェックの手伝いなどもしていた。

 今馬車を引いている馬もそのような馬の一頭だった。


「リアーネさんは何のお仕事ですか?


 そういえば最近見ないなーって思ってたんですがまさか仕事でいなかったなんて知りませんでした」


「仕事っていうか……お願いみたいなものだよ」


「それで救援要請の手紙が来たんでしたっけ?」


「まあおおよそ変わらないけどそんな大袈裟じゃないよ」


「ええとリアーネさんが今一緒にいるのが……」


「テレンシア歌劇団だ」


 ーーーーー


「建国祭に催し物を招待するって?」


 グルゼイは冒険者としての活動、タとケは食堂に働きに行って、ユディットはクモノイタの納品に行っていた。

 家にはリアーネとジ。


「そう、今年は建国祭があるみたいだからね」


 王弟による内紛のために平時は行われている催し物や祝いが一切開催されなかった。

 王弟が逃げ回ったので終わった感じもなくて微妙な雰囲気だったけれど完全に内紛は終了して平和が訪れたことを大々的に祝うために例年お祭りとなっている建国祭に合わせて大々的に行われることになった。


 何かしらのイベントをやることで国民としても大きく終戦の実感を得られる。

 建国祭では色々な商会が出店を出したりする。


 大きな商会では催し物を開催する。

 演劇などの舞台を公演したり、芸人を呼んで芸を披露してもらったりする。


 ヘギウス商会なんかは今回の内紛の流れを盛りに盛って綺麗にして演劇にして披露するらしい。

 そしてフィオス商会でも催し物をやるつもりだった。


 まだフィオス商会の規模ではそんなことをやる必要はないのだけどこれはジのワガママだった。


「それで招待したい歌劇団がいるんだ。


 他の国で活躍している人たちなんだけど是非ともここで演舞を披露してもらいたくてね。


 予定が詰まっているだろうから早めに連絡を取っておきたい」


「それで私が行けばいいのか?」


「多少の交渉も必要になるかもしれないし、それと歌劇団の護衛もしてほしいんだ」


「護衛……?」


「人気のある歌劇団だから他の国に行くことをよく思わない人がいるかもしれない。


 そんな過激な手段に出る人なんていないとは思うけど念のためにね」


 いろいろ渡り歩いて劇を開催している歌劇団のファンはいても他の国に行くからと襲う人なんていないだろうとリアーネは思う。

 しかしジの命令なら従う。


 基本的にジが命じることに意味のないことなんてない。

 仮に何が起きなかったとしても予防策的なところもあったりするので単に無駄なことだったと評することはできない。


「ダメならダメでもいいんだ。


 別にうちが何かのイベントを開催しなくても誰も何も言いやしないからね。


 こんなこと頼めるのリアーネぐらいだから」


「ふっ……任しときな!


 この騎士の私が引きずってでも連れてきたるわぃ!」


「だからそこまではいいんだって……」


 ーーーーー


 そんなわけでリアーネはしばらく居なかった。

 失敗作を持っていくときはたまたま報告のために一度帰還していたのだ。


 そして今はジとユディットはリアーネのところに向かっている。

 つまりは例のテレンシア歌劇団のところへと行っているのである。


 そのきっかけは1通の手紙。

 冒険者ギルドを通してジのところに届けられた。

 

 建国祭での剣舞の公演のお願いは引き受けてもらえてリアーネはテレンシア歌劇団と行動を共にしている。


 最初断られたらしいけどリアーネが粘りに粘った結果テレンシア歌劇団を口説き落とすことに成功したらしい。

 そんなことしなくてもいいと思ったけど仕事を任されてリアーネも張り切っていたのだろう。


 結果的には引き受けてもらえたから良かったんだけど。

 そして今現在テレンシア歌劇団は首都に向かっていたのだけど問題が起きた。


「にしたってご飯不足ってのもなんだか笑っちゃいけないけど笑っちゃいますよね」


「お前、飯が食えねぇって大問題だぞ」


「すいません。


 でもやっぱりリアーネさんの言い方が悪いですよ。


 もうちょっと深刻そうに書けばいいのにご飯不足ですよ」


「まあ……そうだな」


 リアーネからの手紙に書かれていたのはご飯不足で困っているから助けてくれという内容だった。

 歌劇団というからにはそれなりの人数いるわけでそんな中で食料が足りないことは一大事なことである。


 けれどご飯不足というとちょっとした可愛らしさが生まれてしまう。

 なんだ、ご飯って。


 細かい事情は手紙では伝わりきらないがどうやら食料品の価格の高騰や品薄のためにご飯が不足しているらしい。

 内紛が終わって流通も元に戻った。


 キックコッコのモンスターパニックによってさらに食料品の値段も下がったりもしたはずなのに。

 ともかくこのままでは旅を続けるのが危ういのでジは食料品とお金を持ってリアーネとテレンシア歌劇団と合流することにした。 

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