マザーズダンスレッスン1
貴族として当然の習い事といえばなんだろうか。
礼儀作法やマナーなどのお勉強もそうだけど大体みんな一度は通る道とある習い事はダンスである。
実際に踊る機会を数えるとそんなもの多くはないのだけどなぜかダンスはほとんど必須のようなもので、踊れなければ壁の花でも演じるしかない。
ダンスといっても自分1人で踊るものじゃなくパートナーと共に踊るものが貴族のダンスの一般的なもの。
貴族のパーティーにでも出ない限り縁があるものじゃなく、ジにとっては過去を含めて全く関係のない話であった。
「それではやりましょうか」
「はい……お母さん……」
しかし今回の生では貴族と関わることもある。
特に商会の都合上貴族にも商品を販売するので踊る機会がないとは言い切れない。
いつかそんな教養も必要になるかもしれないとは思っていたけれど思ったよりも早く必要になった。
ジはオロネア邸にてオロネアと向かい合う。
格好は用意されていた動きやすい服を身につけてなぜなのか髪までセットされている。
「手を取って……そう。
ふふふっ、努力する男の子の手ね」
まだ若いのにジの手は固い。
毎日剣を振るので豆ができて潰れたりして固くなるのだ。
今ジがやっているのはダンスレッスン。
オロネアが取ってくれるリズムに乗ってジとオロネアは動き出す。
オロネアは滑らかに踊っているのに対してジの動きはぎこちなく踊っているというよりもダンスの動きをなぞっているだけである。
「あぅ、ごめんなさい!」
「いいのよ。
年の功でこうした時のために先に鉄の板を忍ばせた靴を履いているわ」
「……それでもレディーの足は踏まないように気をつけないとですね」
「それが先生であり、母である私の役目ですからあまり恐れすぎてもダメですよ」
「分かりました、お母さん」
「ふふふふふっ、役得ね」
ーーーーー
こうなったのは数日前のこと。
食品保存実験のため時折リンデランに来てもらっていた。
最初は馬車で氷を貰いに行こうと思っていたのだけど直接凍らせたものがあったりもして、リンデランからちゃんとやり始めたことは最後までやりますと時々家に通うことになった。
多少は長持ちするが冷やしていても数日でダメになったりするものもあって中々実験としては面白かった。
今日は解凍した食材の具合を確かめるために食べることになって、そこにリンデランも参加することになった。
食べる側だけでなく、作る側としても。
タとケが料理をするのだけどリンデランも一緒になって作っている。
そして魔獣の面白い使い方も見た。
ファフナも双子のウルウル攻撃に勝てずにこちらの貧民街に移ることになった。
ファフナの魔獣はファイヤーリザードである。
背中から火を出すことのできるファイヤーリザードだがファフナはそれをうまく利用していた。
ファフナも料理を手伝っているのだけど軽い炒め物なんかはファイヤーリザードの背中の炎でやっていたりしていた。
どうやってあのような場所で足の悪い女性が生き残っていたのか疑問だったけどファイヤーリザードの炎をうまく利用していたみたいだ。
寒いときには炎を出しておいてくれれば暖房にもなる。
お金はなくても生活の知恵を活用して生きていたのだ。
これからタとケも女性になっていったときに男ばかりじゃどうしようもないこともあるので保護者となってくれるファフナが来てくれて助かった。
「少しずつですけどお誕生日パーティーの準備も進んでいるんですよ」
味見として召集されたジ。
基本何でもうまいと言って食べるので役に立たないと思うのだけどジがうまいと言うとみんな嬉しそうにして料理をそのまま進める。
なんだか餌づけされてるみたいだ。
「あむ……うん、うまい!
貴族のパーティーか……服ぐらいは買っておかなきゃいけないかな」
冷蔵鶏肉はちょっと危うかったのでしっかり目に焼いて魔獣たちが食べる。
そこら辺魔獣の腹は丈夫だ。
冷凍の方はまだまだ大丈夫そうでそちらをいただく。
食器も渡されていないジはリンデランの差し出した料理を口で受け取るしかない。
ちょっと照れくさいがお腹も空いていて早めに試食できるのは嬉しい。
先日話のあったリンデランのお誕生日パーティーはまだもうちょい先になる。
会場はヘギウス邸だけど招待状を作って送り、返事を待たなきゃいけない都合があるので早め早めに準備をする。
招待された方も予定の確認やドレスの準備などやるべきことがあるので貴族のパーティーは大変だ。
ジももう招待状は受け取ってお返事を返してはいないが先に口でお誘いいただいたので行くと言った以上準備せねばと思う。
「それでなんですけど……あの、パーティーの時に2番目に踊ってほしいんです……」
「えっ?」
予想外のお誘いだった。
このような催しでは1番初めに踊るのは異性のパートナー。
まだ未婚の子女であれば大体父親、リンデランは父がいないのでこの場合はパージヴェルになる。
未婚の場合となると2番目に踊ることにはそれ相応の栄誉がある。
許嫁なんかがいるならそういった人だし、いないならその場にいる男性からダンスの申し込みがあって女性は気に入った人と踊る。
つまり何かしら気がある人が2番目になるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます