蹴りも極めりゃ強くなる3

「……異常な個体、モンスターパニックの原因かもしれないな」


 おかしな現象には大体理由がある。

 一際大きく他のキックコッコを連れた変なキックコッコがいたらまず何かモンスターパニックの原因の一端ではあるだろう。


 けれどデカいキックコッコは襲いかかってくるでもなくゆっくりとジたちのことを見回す。

 グルゼイも判断に迷う。


 子供たちもいる以上は戦うことに大きなリスクがある。

 勝てる可能性もあるけれど偶発的な遭遇であるしここは戦いにならない方がいいかもしれない。


 戦わずに立ち去ってくれるならとグルゼイも先に手を出さずに睨み合う。

 

「いたぞ!


 あいつをやるんだ!」


 睨み合いが続いていると他の冒険者が駆けつけた。

 他の冒険者からしてもボスっぽく見えるデカいキックコッコを倒せばモンスターパニックを抑えられ、報償が貰えるかもしれない。


 4人ほどの冒険者パーティーはデカいキックコッコにかかっていく。


「お、おおっ……」


「強い……」


 取り巻きのキックコッコたちは下がってデカいキックコッコは戦う。

 まるで一流の格闘家のよう。


 デカいキックコッコの蹴りが飛び、冒険者が飛ぶ。

 複数相手にしていることなど関係ないようにデカいキックコッコが蹴りで応戦して冒険者たちがやられていく。


 取り巻きキックコッコの応援が飛んでデカいキックコッコは整えるように翼でトサカを撫でた。

 いや、あれは応援というより黄色い声援に近いかもしれない。


 4人の冒険者を蹴り倒したデカいキックコッコはグッと鶏むねを張る。


「う、うわっ!」


 取り巻きキックコッコのテンションが最高潮に達していきなりポンっと卵を産んだ。


「単純な取り巻きじゃなくてあれはハーレム」


 メガネをクイっとしながらキーケックがキックコッコを分析する。


「異常な個体、異常な現象に間違いない。


 あのデカいキックコッコが活躍することで周りにいるメスが刺激されて卵を産んだ。


 これを繰り返してモンスターパニックになるほどキックコッコが増えた」


 フンフンと鼻息の荒いキーケック。

 なかなか興味深いものを見たと興奮している。


 人がぶっ飛んできた理由は目の前で見せつけられて分かった。


「次はこっち……てか?」


 スッと翼を伸ばしてジたちを指差すようにするデカいキックコッコ。

 それだけで取り巻きキックコッコが興奮して卵を産む。


 つか、うるさい。


 クイクイと翼で手招きするデカいキックコッコ。

 猛者の雰囲気がすごい。


「俺が行く。


 お前らは……もし他のキックコッコが入ってきたらフォローしてくれ」


 おそらく背を向けて逃げれば見逃してくれる気はする。

 けれど魔物に挑発されては引けない。


 グルゼイが前に出る。


「行くぞ!」


 先手必勝とばかりにグルゼイから攻める。

 首を狙って真横に振られた剣。


 デカキックコッコはそれを飛び上がってかわす。


「むっ!」


 そして太い両足から繰り出される連続した蹴りがグルゼイを襲う。

 重たく、少し押されるような蹴りのラッシュを剣で防ぐ。


 一瞬の隙を見つけて剣を突き出して反撃する。

 体を捻ってかわしながら蹴りを返す。


「空中ではかわせまい!」


 反撃の蹴りを紙一重でかわしてグルゼイがデカキックコッコの首を再び狙う。

 空中、しかも突きをかわして不安定な姿勢。


 次の攻撃はかわせない。

 そう思っていた。


 しかしデカキックコッコは空中で突然体の向きを変えた。


「師匠、大丈夫ですか!」


 剣が空振りして羽の先をわずかに切り裂いた。

 デカキックコッコの蹴りが胸に直撃して大きく後退するグルゼイ。


「大丈夫だ。


 やりおるな、このトリ」


 グルゼイは無事だった。

 とっさに後ろに飛んで威力を殺したのでほとんど足で押されるだけのような形になった。


「分かった」


「何が?」


「あのキックコッコの不思議な戦い方」


 ジッと敵を観察していたキーケック。


「ちょっと飛んでる」


「ちょっと飛んでる?」


「キックコッコは長く飛べない。


 けどちょっと飛べる。


 あのキックコッコ、瞬間瞬間で飛んで空中で姿勢を保ったり変えたりしてる」


「なるほどね」


 どうやって長いこと空中に留まって連続して蹴りを繰り出したり、空中でグルゼイの攻撃をかわしているのかジには理解できていなかった。

 しかしキーケックの説明を聞いて理解した。


 よくよく見るとデカキックコッコは翼をバタバタとはためかせながら戦っていた。

 それは単なるポーズではなく飛行能力を使って戦いを補助していたのである。


 接近戦闘するぐらいの距離なら飛べると言っていいほどには空中を移動する能力があるのでそれを活かしていたのだ。


「うっせえな、あれ」


 距離が開いてデカキックコッコがトサカを撫ぜる。

 取り巻きキックコッコから黄色い歓声が飛んでまた卵を産む。


 なんというかすごく目障り、耳障り。

 卵が増えるということはまたキックコッコが増えるということであり、それも問題である。


「余裕だな!」


 グルゼイがデカキックコッコと距離を詰めて切りつける。

 鍛え上げられたキックコッコの足は硬い。


 剣とまともに当たっても切れずに蹴りと剣の応酬が繰り広げられる。


「やっべえ……グルゼイさんカッコいい」


 冷静に相手と切り結ぶグルゼイの姿はユダリカやユディットから見ても印象が良い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る