蹴りも極めりゃ強くなる2

「ほんと多いですね……」


 倒しても倒してもキックコッコが出てくる。

 冒険者たちに倒され尽くしていないんじゃなんて心配杞憂だった。


 ジたちとしても都合はいいけどそれにしたって多い。


「どこかで増え続けているのかもしれないな」


 発生源があるかもしれないとグルゼイは思った。


「何にしろあまり奥まで行かなきゃ関係もないだろう」


「でも俺たちなら強い奴が出てきても倒せそうだな」


「油断大敵!」


「分かってるよ。


 いけそうだなって話だよ」


 意外とユダリカとキーケックの相性は悪くない。

 やや珍妙な話し方をしていることさえ気にしなければキーケックは割とまともでユダリカの雑な態度もあまり気にしない。


 むしろ気兼ねなく接してくれるユダリカに嬉しそうだった。

 基本的にソリが合わないとかではないので一緒に戦っていると自然と打ち解けてもくる。


 土の魔法を操るキーケックは上手くキックコッコの邪魔をしてみんなが戦いやすいようにしていた。

 戦い方もよく考えていて頭の良さを感じる。


「ふふふーん」


 キーケックは今キックコッコの色別に羽を抜いて保存している。

 色の違いで何か違いがあるか調べるんだそうだ。


「ほらキーケック、弁当」


「本当!?


 ありがとう!」


 お昼も近いので早めにお昼を取ることにする。

 キーケックがくることも分かっていたのでお弁当も準備済み。


 タとケ特製鶏肉弁当である。


「なあ、ユディット」


「……なんですか?」


 ユディットさんな、という言葉は飲み込む。

 もうここまできたら訂正するのも馬鹿らしい。


「どうやったらそんなにキレイに首を切り落とせるんだ?」


「首?」


「うん。


 なんか上手く切り落とせなくてさ」


「……あー、なるほど」


 そんなに差があるようには見えないけれど実はユディットの方がキレイに戦っていた。

 ユダリカは仕留め損なったり切り口がキレイでなかったりしている。


「ちゃんと相手の動きは見てるか?」


「動き?」


「アイツら動く時に頭も一緒に動いてるんだ。


 だから常に首の位置がブレてることになる。


 それを考慮して剣を振らないと狙いと外れるんだ」


「な、なるほど……!」


 ユディットは相手をよく見ていた。

 魔物が人とは違う動きする事をドールハウスダンジョンの経験から理解したユディット。


 キックコッコがやや首を振りながら走ることに気がついて首の動きも考えて剣を振っていた。

 ユダリカはまだ子供で体格的にも成熟していない。


 大人にはそうでもないキックコッコの首の動きがもたらす影響はユダリカにとっては剣がやや鈍ったように感じさせられたのだ。

 それにしても気になったことがあるからとユディットに教えを乞うとはユダリカの強くなりたいという貪欲さは変なプライドよりも上回るらしい。


 あるいはユディットを認めたか。


「何も考えてなさそうなのに意外と考えてんだな」


「なんだと?


 気づいてなかったお前こそ頭空っぽで戦ってんじゃないか」


 戦いの最中は割と気が合ってきているのにどうしてそう何もないと喧嘩腰なんだ。


「仲良しだね」


「あれが仲良しか?」


「言いたいこと言える。


 喧嘩できる。


 仲良い証拠」


 ものは捉えよう。

 言いたいことを言い合える仲を仲が良いとするなら仲が良いけれど単純にそうとは言えない。


 変に遠慮し合うよりはいいけど。


「……何だかキックコッコが流れてくるのが止まったな」


 ちょいちょい追い払っていたけど気がつけばキックコッコが来なくなっている。

 そろそろまた来始めてくれると嬉しいのになと思っていたが森は静かだ。


 周りの流れが変わった時はどこかにその原因がある。

 どこかが変わったからここにくるキックコッコの数も減った。


「いつでも逃げられる準備は整えておけ」


 またキックコッコの波が来る可能性もある。

 ジたちはだとしたらキックコッコを袋に入れていく。


「ジ、避けろ!」


「う、うわっ!


 …………人?」


 何かが飛んできてユダリカはジを引っ張った。

 ジの立っていたところに何かが落ちてきてユダリカが引っ張ってくれなかったらぶつかっていた。


 落ちてきたもの、それは人だった。


「ジョーリオ!」


 また人が飛んでくる。

 ユディットがクモのジョーリオを出して糸を張る。


 上手く糸の上に人が落ちてきて地面への墜落は避けられた。


「これって……」


「足跡?」


 糸にかかった男の顔を覗き込む。

 顔の右半分にかかって大きなトリの足跡が付いている。


 形はキックコッコのようだけど大きさはキックコッコよりもデカい。

 そもそもキックコッコに人をこんな空高くぶっ飛ばす力はない。


 だけどキックコッコの足跡だし、ここら辺にはモンスターパニックの影響でほとんどキックコッコしかいない。


「何かくるぞ!」


 サッと全員が武器を抜いて構える。


「コケ……?(おや……?)」


「な、なんだコイツ……」


 デカい。

 割と体格のいいユダリカと同じくらいの大きさのキックコッコ。


 それにその周りには普通サイズの何匹かのキックコッコを引き連れている。

 ただなんかデカいキックコッコも周りにいるキックコッコも様子がおかしい。


 デカいキックコッコは顔つきが違う。

 何というかキリッとした顔つきとでもいうのか、アホヅラしたキックコッコとは違う知性のある目をしていた。


 そして周りのキックコッコはジたちには目もくれずそんなデカいキックコッコをキラキラと見ている。

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