弱小魔物でも5
「今はわからないだろうけど契約書にサインして、こっちの特許の契約書には血も垂らしてくれれば話すから」
「ちち、血ですか!?」
「それだけ大事なことなんだ」
「分かりました……」
ヒスは契約書に名前を書く。
古書店の娘で文字には昔から親しんできたので名前を書くぐらいはどうってことない。
契約書の内容の確認もしないあたり、まだまだ子供である。
騙したりヒスに不利益な文言は一切ないとフィオスにも誓えるのでみなくても問題はないけどさ。
「ひん……怖いのでお、お願いします!」
あとは血を垂らすだけなのでお使いくださいとナイフを置いておいたのだけど一般人の女の子が自分の指先でもナイフで傷付けるのはできなかった。
ジにナイフを渡してやってくれという。
腕を目一杯伸ばして顔を逸らすヒス。
「ほれ」
「ヒッ!
痛いです……」
「手はここだよ」
「垂れました?」
「もうちょい……」
ギュッと目をつぶり見られないヒス。
ジワッと血が出てきてポタリと契約書に血が落ちた。
ポッと契約書が光る。
「終わりだよ。
これ使って」
「な、何ですか?」
「目を開けなきゃ分かんないだろ」
「うぅっ!
これは……ポーションですか?」
「そう。
使って」
ジはヒスの前に赤い液体の入った小瓶を置いた。
それはポーションだった。
野郎ならほっといてもいいけど女の子の指先とはいえ傷つけておいてほっとくわけにもいかない。
薄ーく目を開けて確認したヒスは恐る恐るポーションを手に取って指先にかける。
スッと指先の傷が塞がっていく。
「これで……」
「これでヒスはフィオス商会の一員だ。
では何をしてもらいたいかの説明をしようか」
「ようやくですね!」
「会長が何をしようとしているのか私も気になります」
ここでタとケは退場となる。
聞かれたところでタとケなら別に構わないけど秘密保持のために一応関係者しか聞いてはならないのだ。
なぜならヒスに契約書を交わしてもらったように特許に関わることであるからであった。
部屋にいるのはヒスとメリッサとジ、それにドア横に護衛としてユディットがいた。
「さてと、俺がやろうとしているのは新しい商品開発だ!」
「この子で……ですか?」
「もっちろん!」
ヒスは目を丸くしているけれどメリッサは何も言わない。
ニックスやワの見た目にもあまり強くなさそうなクモも使い用で今や大金を生み出している。
むしろ生産が追いつかなくて過労死寸前な時もあって、新たなクモ仲間が欲しいと日々呟いている。
そんなとんでもないアイデアを持つジだからメリッサはそんなに驚かなかった。
ただジが特許を他にも持っているのには驚いた。
特許としても良いとされるほどの卓越したアイデアであると商人ギルドから太鼓判を押されているも同然で成功の可能性大だと期待できる。
「それで何を作るんですか?」
「何と言われると難しいね……
それそのものを応用した製品はたくさんある。
ベースとなるものの名前もなんて言えばいいかな…………」
「まあ商品名などはおいおいでいいと思いますけどどんなもの……どんなことをするつもりでしょうか?」
「ざっくり言えば不燃液、断熱液とでも言うのかな?
塗ると物を燃えにくくさせたり、断熱効果のある液体を作り出すんだ。
そしてそれを使った商品を作るんだ」
「ミュシュタルからどうやって作るんですか?」
「いい質問だね。
じゃあまずはファイヤーリザードのお勉強といこうか!」
ファイヤーリザードは乾燥した山岳地帯に棲んでいる。
やや小柄な部類であり、背中が火で燃え盛っている肉食の魔物だ。
他に大きな特徴もなく魔力も弱いので背中の炎で物を炙って食べるなんて使い方以外に注目されることもない。
注目すべきところはファイヤーリザードの巣作りである。
ファイヤーリザードは乾燥した地面部分に穴を掘って巣を作るのだけどその時に腹部から出る体液を壁にこすりつける。
これには大きな意味がある。
一般的には掘った穴が崩れないように固める役割を果たしているのだけどそれだけの意味ではない。
過去にあった研究によって分かったのはこの体液には断熱効果があった。
比較的気温の高い山岳地帯に棲んでいるファイヤーリザードでもトカゲとしての性質を持っているので気温の上下に弱い。
山岳地帯における高温の時はファイヤーリザードにとってもツラく、逆に低温の時も活動がひどく鈍ってしまう。
巣穴にこもっていても温度には対応できず気温差によるダメージは受けることになる。
そこでこの体液なのだ。
巣穴の中に塗った体液の断熱効果によって巣穴の中の温度を一定に保ってくれる。
寒い時は温かく、暑い時は涼しく巣穴をしてくれる。
それに加えて巣の内側に背中の燃えるファイヤーリザードがいるために体液は火にも強かった。
だからファイヤーリザードの体液は耐火性、断熱性を持っているのである。
ファイヤーリザードの体液による効果は過去において大きな役割を果たすことになるのだけどその開発者は国だったので先取りしても困る人はいない。
むしろ助かる人の方が多いはずだ。
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