弱小魔物でも3

 まだ何も聞いてないのになんでもやりますと返事をしてしまいそうになった。

 こんなもの食べたことがなく、口でとろけるお肉のようにヒスの表情もとろける。


 気に入ってもらえたようでよかった。

 ジも食べるけど持って帰ってきたものはだいぶほろほろとした感じだったけどこちらの方はまだお肉感がある。


 また少し違った感じでうまい。


「……ほら、2人で分けて食えよ」


「あんがとー!」


「ありがとうございます!」


 ゆっくり味わいたいけど我慢が効かない。

 早々と食べ終わってしまった2人はまだ残っているジの器を凝視する。


 ため息をついてジは2人に残っていた肉煮込みを差し出す。

 自分は食べたこともあるしこれからも時々食べられるはず。


 タとケが免許皆伝でもすればこの肉煮込みを自分で作れるようになるかもしれない。

 そうすれば食べ放題とはいかなくても家で作ってくれる可能性だってある。


「お待たせしましたー!」


「お待たせしましたー!」


 タとケが自信のある料理を持ってくる。

 家ではなかなか出来ない揚げ物料理や懐かしき昔に双子が最初に出してくれた料理までドンと出てきた。


 あの時は習いたてで、しかも古い家の調理器具も揃ってないキッチンでやったからちょっとだけ失敗しちゃったあの料理もとても綺麗な仕上がりだった。

 大皿で出てきた料理を取り分ける。


 不安なのか手を繋いで緊張した面持ちでジのことを見つめている。


 そんな見られるとジの方だって緊張するし、なぜか店全体が静まり返ってしまった。


 パクリと一口。


「うん……美味しいよ」


「「やったぁー!」」


 パッと笑顔咲く2人。

 抱き合って喜ぶ様にお店の中がほっこりする。


 本当に美味しい。

 お店の女将さんが作ったと言われても普通に納得の出来である。


 話しながらと思ったけど話しながらでは悪い気がしたので食べることに集中する。

 どれも美味しくてあっという間に食べてしまった。


 タとケはそれをニコニコ眺めていたけど仕事をしていなくても咎める人はいなかった。


「ふぅ、お腹いっぱい!


 料理かなり上達したね!」


「えへへ、エお姉ちゃんより上手になれたかな?」


「えっ?


 あ、ああ……それはどうかな?」


 何がどうかなだ。

 エはあまり料理が得意ではない。


 なんならライナスの方がうまいぐらいだ。

 年長者のプライドがあるだろうから何も言わないけど。


「ふふっ、ほら、仕事に戻りな」


「はーい!」


「おかわり欲しかったら言ってね?」


「ああ、でもこれで十分だよ」


 結構な量があるので追加で注文しなくても大満足だ。


「さてと、じゃあ本題に入ろうか」


「うっ……忘れてました」


「そんなに難しいことじゃないさ。


 俺は君のことをスカウトに来たんだ」


「スカウト……ですか?」


「そうだ。


 我がフィオス商会で働かないかい?」


「……な、なんでですか?


 私はスカウトされる能力なんて……」


「ヒス、君の魔獣はトカゲらしいね?」


 ジはいくつかの種類の魔物を探していた。

 この先の未来において弱小魔物でも使い道が見つかり新たなる活用法を探すことが非常に盛り上がる。


 スライムは特に何もなかったけどそうした技術のいくらかには早めにあったなら悲しみを減らせるものもあった。


「そうですけど……」


「是非とも君のトカゲの力を借りたいんだ」


「私の魔獣のですか?


 何も出来ませんよ?」


 トカゲ種の魔物はあまり人気がない。

 個の能力としては悪くない。


 それなりに力があり素早さがある。

 しかし知力的には低めで魔力も低めである。


 単純に戦わせると強めなのだけどそれだけなのである。

 あとは見た目で嫌う人もいる。


 ジは嫌いじゃないけど生理的に無理って言う人もいる。


「何も出来ないかどうかはやってみないと分からない……と思わないか?


 もし俺の想定することができなかったら数字について教えるから会計習ってみない?」


 トカゲにも種類がある。

 ジが考えているトカゲかは分からないので違う可能性もある。


 それならそれでもスカウトした以上は最後まで面倒は見るつもりである。

 真面目そうなので普通に働いてもなんの問題もなさそうだ。


「それはトカゲを見てからだけどな。


 契約書も作るし悪いようには決してしない。


 今すぐに返事をしろとは言わないよ。

 よく考えてほしい」


「……私のミュシュタルで何をするつもりですか?」


 ほとんど話したこともないジではあるけど契約についてあまり心配していない。

 ヒスを騙したところで搾り取れるものなんかなく、何かをさせたいのなら力づくでも容易い相手である。


 こんな美味しいご飯まで食べさせて真っ直ぐに話をする必要なんてない。

 ちゃんと対等に契約を結んでくれようとしている。


 ただ何をさせたいのかいまだに判然としない。

 何も出来ないと卑下して言ったけど自身の魔獣が可愛くないのではない。


 ヒスの心配も最もなことである。


「ざっくり言うと体液が欲しい」


「た、体液?


 それって……」


「誤解しないで。


 血じゃなくて腹部から分泌される汗……みたいものっていうのかな?


 それが欲しいんだ」


「…………なんでですか?」


「それは言えない。


 契約しないと教えられないんだ」


 なんでトカゲの腹から出る汁を欲しがるのか考えてみても分からない。

 ヒスは首を傾げた。


 ただジの顔は真面目で冗談を言っている雰囲気ではない。

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