ドールハウス計画2

「アカデミーの地下にあったのは初代学長が作り上げたドールハウス計画の集大成です」


「な、なるほど……」


「どっちにしろ消せないのなら利用するのもいいんじゃないですかね?」


「そうですね……


 しかし、誰にも言わずというわけにはいきません。


 少なくとも王には報告して許可を得なければ。


 その、そこについては難しいかもしれません」


「逆に直接王様に話を通せますか?」


 オロネアが歯切れ悪く言葉を濁す。

 アユインが王女で、アカデミーに通っている。


 そのためにオロネアは王女を危機に晒すようなものを王様が許さないだろうと思っている。

 ジが王女がアカデミーに通っていることを知っていることを知らないオロネアはアユインのことを言うわけにもいかなかった。


「直接は無理ですが近いところには話をすることはできます」


「もしダメそうならこっそりと俺のことも伝えてもらえますか?」


「えっ?


 それは……」


「いいからいいから。


 なんならアユインもダンジョンに一回連れて行ってあげればいいしね」


「……あなた、何者ですか?」


 確かにジは国の方からの推薦だ。

 不思議に思ったことはあるが同じ年頃の子供と比べて傑出した能力の持ち主であることは間違いがないので、最初の失礼もあって深く考えることはしなかった。


 しかしアユインが王女であることはこの国における機密事項でトップシークレットである。

 アカデミーを統括する立場であるオロネアを含めた数人しか知らないようなことをジは知っている。


 アカデミーと子供の兵士部隊が合同で訓練している時に誘拐されたことがあり、そのときにジが一緒であったことは知っている。

 結局はそこでジは能力を発揮し、兵士たちがくるまでみんなを鼓舞して持ち堪えたと聞いていた。


 何があったかなど公表もできない、オロネアはアカデミーを統括する学長であるが国の重要役職の人間ではないので本当の話なんて伝えられるはずがない。


 なのでオロネアにとってはジは今国にとっての秘密を知る謎の少年に突然なったのである。


「ふふっ、それも簡単には言っちゃいけないヒミツなんですよ?


 でも1つ言えるのは別に怪しかないですよ。


 ちょっとだけ王様と縁があるんです」


 パチリとウインクをしてみせるジ。

 そういえばジは商会を持っていてそこに王様がわざわざ訪ねていったなんて話もあった。


「……ここまできてあなたの事を疑うわけはありません。


 ダンジョンの話も前向きに検討しましょう。


 ダンジョンであるというよりも初代学長の作った教育施設だという方が不安も少ないのでそうした方向で考えてみます」


「ありがとうございます」


「それにしても……困りますね」


「何がですか?」


「アーティファクトまで貰ってはどうお礼をしていいかも分からないですね」


 商会も順調で王様と知り合い、ダンジョンで貴重なアーティファクトを貰い、有名貴族の友達もいる。

 ダンジョンを攻略してこれ以上ないほどの情報を持ち帰って来てくれたお礼に何をあげればいいものか。


「そんなに困っているようには見えませんけど?」


 何を贈ったって足りているし、見劣りしてしまう。


 けれどオロネアはニコニコとしていて、何を贈るのかすでに決めているように見える。


「……1つだけ前々から考えていたものがあります。


 受け取ってもらえるかは分かりませんがこれほどまでにあなたに感謝と信頼を置いていると思ってください」


「もったいぶらずに教えてくださいよ。


 何をくれるんですか?」


「ジ君、私の子供になりませんか?」


「はっ?」


 ニッコリと笑っているオロネアだけど目の奥は本気の光をたたえている。


 全く予想もしていなかった贈り物の提案にジは口を開けっぱなしにして驚く。


「私には跡取りがいません。


 夫がいないので当然の話ですがこれまで養子を取ろうなどという話も考えたこともありませんでした。


 このままではせっかく頂いた爵位と家名ですが私一代で断絶となってしまいます」


 ニコニコとしてする話ではないのにオロネアはなんてこともないように言う。

 オロネアは今の王様の派閥について王座につくことも助けたために爵位と新たなる家名を与えられた。


 しかしその時にはもう自立した女性であったし隣に立つパートナーはいなかった。

 多くの縁談話が毎日のようにあったし、さらに年を取ってからは養子を取る事を勧められた。


 全ての話を頑なに断ってきた。

 家を残すために結婚などするつもりはないし、子育てにも興味がなく、貴族の責務を負わせるための養子なんて望む人がいてもやるべきことではない。


 ただしかしオロネアとしても功績を認められて頂くことになった爵位や家名をこのまま引き継ぐこともないのは惜しいことであるとは思う時がある。

 おそらくジを養子にしても周りが望むような能力を持った子ではないから楽ではないだろう。


 けれど少なくともオロネアが生きている間は防波堤となってジを守り、周りが何もいえなくなるほどに大きく翼を広げる手助けをすることができるはずだ。

 魔法を教えることはないだろうけどこれまでも自分で努力して成長を遂げてきたジならば大丈夫だろうし、魔法以外にも教えることはある。

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