ドールハウス計画1

「と、いうわけで攻略には成功してアーティファクトを貰いました」


 ジたちはダンジョンから帰ってきた。

 3人がいきなり中庭に現れて、みんな非常に心配していた。


 平然とすり抜ける扉からジたちが戻ってきて軽く騒ぎになった。

 戻ってきた子たちからはすでに最終盤だと聞いていた。


 つまり堂々と戻ってきた、それが示すことは誰でも分かる。

 1日休ませてもらって次の日の夜、ジはオロネアのところを訪れた。


 良いレストランを予約するというのを固辞して中庭で会うことにしたのは理由がある。


「そしてダンジョンを消せたかもしれないけど消さなかったのは……」


「僕が頼み込んだからだね!」


 その理由とはエスタルも一緒にオロネアに会うためであった。

 エスタルの能力には限りがある。


 アカデミーの子供たちがいる寮か中庭ぐらいまでがエスタルの幻影を現すことができる限界で、大人の多い場所やアカデミーの学長室まではエスタルは行けなかった。

 ジとしては最後にエスタルにトドメを刺して終わらせるつもりだったけれどエスタルとリンデランのウルウル攻撃に負けてオロネアに会わせることにした。


 シンプルにエスタルを殺さず、ダンジョンを残してほしいと言うのがエスタルの主張するところ。

 それはジの一存で決められることではない。


 ダンジョンを抱えるとは常にダンジョンから魔物が溢れる危険と隣り合わせである状態にあることになる。

 元々あったダンジョンを中心として大きくなった町ならともかく突然子供が多く通うアカデミーにダンジョンが出来たとなれば反発は起こるだろう。


 しかしオロネアの一声があるならどうにか信頼を勝ち得ていく時間を稼げるかもしれない。

 そしてジにはダンジョンが残っていくという結末を迎える自信があった。


「初代学長の魔獣が作りしダンジョン……


 エアダリウスの宝物庫……」


 過去においてジがアカデミーでアーティファクトを貰えることを聞いたのはだいぶ後だったし、アカデミー出身でアーティファクトを持っているとされて活躍する人は出続けていた。

 つまり中で何があったのかは分からないけれどアカデミーはダンジョンを、エスタルを消さなかったのだ。


 もちろん子供しか入れないダンジョンなので子供側が拒否した可能性もあるがアカデミーから頼まれればエスタルを倒す義務感に駆られる子供ぐらいはいたはずだ。

 消せなかった可能性も否めないがどんなであれダンジョンはおそらくアカデミーに残り続けていたのだ。


「しかし子供たちの親がなんと言うか」


 アカデミーに子供を通わせられない。

 そんな風潮にまでなることも考えられる。


 オロネアが関与していないことなどあり得ないし批判の的になる。


「私、ではなく子供たちのことを考えるとダンジョンはやはり無くしてしまった方が……」


「そ、そんなぁ……」


「じゃあ秘密で良いんじゃないですか?」


「えっ?」


「何を……」


「秘密で良いんじゃないかと思うんです」


 ジはわるーく笑う。

 結局過去でダンジョンという話はなかった。


 つまりダンジョンは隠されていた可能性もあるとジは考えた。

 ダンジョンという話が漏れ聞こえてこなかったのには理由があるはずだ。


「どういうことですか?」


「あそこは初代学長が作った秘密の訓練場です。


 ドールハウス計画は実際に成功していたがたまたま誰にも知られることがなく、地下に存在していたんです」


「……ダンジョンではないとウソをつくのですか?」


「さらにドールハウスに入れるのは才能のある子で契約魔法でダンジョンについて秘密にしてもらいましょう」


「ジ……」


 エスタルが感動の目をジに向ける。

 オロネアもアゴに手を当てて考える。


 悪くはない考えだと思う。

 現状ダンジョンを消せるのはジしかいない。


 そのジがダンジョンを消す方向ではない提案をしてきてダンジョンの存在を興味深く思っているオロネアにとっては受け入れられる提案だ。


「それにダンジョンを消すことはアカデミーにも、この国にとっても……あるいは人全体にとっても損失であるかもしれません」


「それは……何故ですか?」


「ダンジョンが消えれば多くのアーティファクトが失われるでしょう」


「まさか……!」


「ダンジョンは宝物庫がベースとなって出来ています。


 ダンジョンが消えれば宝物庫が消える。

 そうなると数多くある人類の宝とも言えるアーティファクトが消えてしまいます」


 宝物庫が消えるかどうかなんてジは知らない。

 知らないけどあえて言い切った。


 消えてしまう可能性があることは否めないが消えてしまうなんて断言できる人はこの世に誰もいない。


「くっ……記録によればエアダリウス様は様々なアーティファクトを収集していて見つかっていないものも多い。


 それが宝物庫にあるとしたら……」


 魔法の道を歩んできて、やや学者気質なところもあるオロネア。

 貴重で希少なアーティファクトが失われることは許されざることだ。


「子供の育成も出来るし、ダンジョンをクリアできた子にはエスタルからアーティファクトが贈られる。


 悪いことも何一つないと思いませんか?」


 少し巧みな詐欺師にもなった気分。

 オロネアも後にあるかもしれないバレた後のことなど頭の隅に押しやってジの言葉ばかりを呟くように反芻する。

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