ドラゴンって意外とキレイに見える1

 よく見れば見つけられるのでジだけでなくみんなで交代しながら前に出て進んでいく。

 やはり大怪我をさせないようにはなっているんだろう。


 本物ぐらいの勢いはあるけど壁から飛び出してくるのはただの矢ではなく先にインクの染み込んだスポンジのついたものだった。

 当たれば血がついたみたいになって結構痛いだろう。

 当たりどころが悪ければ気絶ぐらいはするかもしれない。


 緩やかな坂だななんて思っていて、罠も事前に察知したけど大きな玉が転がってくるなんてアホみたいな罠もあったりもしたけどなんとか乗り越えた。


「うおおっ!


 俺にはむりだ!」


「何言ってんだよ……


 じゃあ俺が……」


「ヤメロォ!」


「どうしろってんだよ!」


 中でも凶悪な罠が1つあった。


「可愛いですね」


「そうだね。


 これ私も欲しいな」


 青い流線形のボディ。

 しかしその姿は透けておらず、不思議な布でできている。


 現れたのはスライムの魔物人形。

 最弱の魔物なのになんでこんなところに思うけど、スライムも戦おうとはしないで隠れるように上からジたちを伺っていた。


 非好戦的な魔物人形もいるのだと驚いた。

 どうすべきか悩んだがジにはこのスライムに手を下すことはできなかった。


 スライムの質感を完全再現はできるはずもないけど丸くて可愛らしい。

 フィオスと並んでいるとまた違った感じがあって良い。


 攻撃してこない以上戦わなくてもいいのかもしれないけどこんなところで出てきた以上何かの意図なり目的があるのかもしれない。

 無視したらこれが何かの罠に繋がる可能性も否定できない。


「……倒していいか?」


「お前が……お前がやるくらいなら俺にやらせてくれ!」


 この中でスライムを平気で倒せるのはライナスぐらい。

 ライナスだって罪悪感がないわけじゃないがジが倒せないならやってやるぞぐらいの気持ちである。


 しかし誰かの手でスライムが倒されるところなど見たくない。


「あっ……」


「フィオース!」


 泣く泣くスライムの魔物人形を倒そうとしたジ。

 しかし何を思ったかフィオスはスライムの魔物人形を飲み込んでしまった。


「同族を倒すってことがあるのかな?


 そもそも人形だし違う……


 もしかして可愛い可愛い言ったから嫉妬とか?」


「お前が倒せないって泣くから代わりにやってくれたんじゃね?」


「マジで泣きそう……」


 透けるフィオスの体内でじわじわ溶けていくスライムの魔物人形。


「まあ先を急ぐか」


「そうだな……」


「なんでそんなショック受けてんだよ……」


 恐るべき精神攻撃も乗り越えてジたちは広い部屋にたどり着いた。

 アカデミーの建物も丸ごと入ってしまいそうなぐらいに途方もなく広い部屋。


 アカデミーの地下にこんな広い空間あるはずがない。

 改めてダンジョンだなと言う感想が湧いてくる。


「お、おいおいおい!」


「いきなし質感違くない……?」


 そしてそんな広い部屋の真ん中にはドラゴンがいた。

 これまでは明らかに人形であって可愛いものだったのだが固そうで艶やかな美しい鱗を持ち、しなやかで力強い体のドラゴンには人形感など微塵もない。


 ドラゴンは部屋に入ってきたジたちに気づいて顔を上げた。

 透き通るような黄金色の瞳がジたちを捉えた。


 悠然と立ちあがるドラゴンをジたちはただ見ていることしかできなかった。


「うっ……!」


 ドラゴンが咆哮する。

 耳をつんざき、大地を揺らすその声にみんなの体が強張る。


「あ、あんなの勝てるはずが……」


 ドラゴンなんてお話しの上でしか聞かない生き物。

 魔物と呼んでもいいのかすら分からない。


「みんな落ち着け!」


 そんな中でも1人冷静だったジが声を上げる。

 ドラゴンがどんなものかは知ってるし、知らない。


 お話でしか聞いたことがないようなものだけどこんなダンジョンに現れるものではない。

 それにこれまでクリアできないようなダンジョンじゃなかったのにここに来てドラゴンと戦えなどおかしな話だ。


 きっと何かがある。

 ドラゴンと正面から戦って勝つ以外に方法があるのではないかと考えた。


 じゃないとこのダンジョンは攻略不可能だしドラゴンが出てくる可能性のあるとんでもない危険なダンジョンになる!


「そうだ……俺が、おれが……会長を守らねばならない」


「ユディット?」


「あんなもの……倒してやる!」


「ユディット……ユディット!」


 突如として剣を振り上げて駆け出したユディット。

 恐怖から抜け出したはいいけれどそれでもまだ正気を失っている。


 1番年上なことの責任感とジを守る騎士である義務感。

 なんとかしなければいけないという焦燥に駆られてジの言葉も聞こえなくなったユディットはドラゴンに切りかかった。


 ユディットが近づいていくとドラゴンの大きさがよく分かる。

 ジが必死に声をかけて止めようとするがユディットはドラゴンしか見えていない。


 ドラゴンが何を考えているのかは分からないが近づいてくるユディットをただ眺めていた。


「うわああああ!」


 ドラゴンの足元まで行ったユディットがドラゴンの足を切りつけた。

 自慢の魔法剣、ドラゴンにだって通用しないはずがないと思っていた。

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