バカヤロウ5
「なんでお前が悪いんだよ……悪いのは俺で、ただ怒ってくれれりゃいいだろ!
なんで……なんでお前が泣いてんだよ……」
ライナスの目にも涙が浮かぶ。
訳がわからない。
ただ叱ってくれればそれで終わるのに、ジが泣いてそんなことを言うものだからライナス自身も感情が分からなくなる。
「ごめん、俺、お前とようやく肩を並べられたと思って調子に乗って、お前のこと何も考えてなかったのかもしれないな……」
「ち、違う!
それは……俺の方が調子に乗ってたんだ!」
謝られるのは自分じゃないとライナスが首を振る。
「みんなを守らなきゃって、俺なら守れるからって……そう思ってた。
でもお前がリーダーだし冷静で、俺馬鹿だから冷静になれっていつも言われて、お前の方が大人で、すごく見えて……」
ボロボロとライナスの目からも涙がこぼれる。
「俺が謝らなきゃダメなんだ。
みんなを守って俺が引っ張ってくんだって思い込んで、みんなに心配かけちまった」
サンダーライトタイガーと契約して、王国の騎士団で指導を受けて、ロイヤルガードの弟子になって。
それなのにいつからかジは遥か先を行っていて、どれだけ努力しても追いつけないような気がしていた。
ジが死んだ時、ジも死ぬんだと思った。
同時に怖くなった。
大切な人が死ぬこと、大切な人を守れないことが。
力をつけて同年代の子で見るとライナスはトップクラスに強くなった。
ビクシムも鍛錬におけるライナスの真面目さには舌を巻いていた。
みんなを守れる。
みんなを守らなきゃいけない。
自分が前に立ってどんな敵をも倒していくんだという思いが強すぎて、いつの間にか独りよがりな行動に繋がってしまった。
その結果がこれだ。
悲しみの深さを知っている。
なのにその悲しみをみんなに与えてしまった。
ジの言葉を聞いてジが先に行っているなど自分の思い込みであったことに気づいた。
ジはジでライナスが名前ももらい、ドンドンと強くなっていくライナスに差ができたように感じていた。
今回共にダンジョン攻略できることを実は喜んでいた。
ライナスにはライナスに出来ること、ジにはジに出来ることで肩を並べていられると思っていた。
「ごめん……ごめんって。
泣く……なよぅ」
一度流れ出した涙は止まらない。
拭っても拭っても涙が溢れ出してきて、大泣きしてしまう。
「ぐす……」
「えっ?」
「ごめんなさい……歳をとると涙もろくて……
ドア閉めておきましょうか」
入るに入れずその様子をこっそり見ていたエたち。
泣き合う2人を見ていつの間にかオロネアがハンカチを目に当てていた。
状況も分からず見ていてしまったがあんまり見ちゃいけないとそっと医務室のドアを閉めた。
子供らしいちょっとした嫉妬とそれぞれの認識の違い。
互いにみんなを守りたいという強い思いが故にすれ違った。
「みんなを守んなきゃって思ってたんだ。
お前じゃなく、俺がやるんだって……でも一人で突っ走ってたらダメだよな。
勝手にやってみんなに迷惑かけてちゃ本末転倒だな」
「1ついいか?」
「なんだよ?
もう説教はなしで頼むぜ」
「俺、死にかけて、それからも色々あって分かったんだ。
みんなを守ろうってことは悪くないんだけど、前提が間違ってたんだ」
「どういことだよ?
俺にも分かるように言ってくれよ」
「俺もおんなじこと考えてて、自分でとか自分一人でなんとかしなきゃって思ってたんだ。
でも違ったんだ。
違ったっていうとまたちょっと違うけど、自分でみんなを守るんじゃないんだ。
みんなで、みんなを守るんだ」
「みんなで……みんなを……」
「そう。
1人じゃ出来ることには限界がある。
俺の手が届かないことも出来ないこともたくさんある。
1人でなんでもやろうとしちゃダメなんだ」
「だからみんなで?」
「うん。
俺は確かにあの中じゃ1番弱いかもしれない」
「あれは……」
「いいんだ、事実だから。
俺はそんなに強くない。
だけどお前となら、お前と連携を取って戦ったなら俺とお前より強い奴でも倒せる。
1人じゃ無理なら2人なら、2人じゃ無理ならみんなで戦うんだ」
誰かに頼るということ。
誰かと一緒に歩むこと。
ジはそれを学んだ。
もちろんそこにフィオスも入っている。
「みんなと……」
「ライナスは強い。
きっともっと強くなる。
だからもっともっと熱く熱く燃えてくれていいんだ。
お前の足りない冷静なところは俺が担う。
俺の足りない強さはお前が担ってくれ」
「で、でも……いつも冷静になれって師匠は言うし、お前だって」
「頭の芯は冷静でいてくれ。
熱く燃えるように闘うけど俺の声だけは聞こえる、そんな冷静さを持ってくれ」
「お前の、声を……」
「複雑なことは言わないさ。
行け、止まれ、引け。
これぐらいで十分で、これぐらい聞こえて判断できる冷静さでいいんだ」
冷静さを重視してライナスには立ち止まってほしくない。
強くなれる奴だから、もっと走っていってほしい。
「それだと俺がお前の手足みたいじゃね?」
「違うよ。
俺がお前の冷静さ……頭脳になるんだ。
俺がお前を利用するんじゃなくてお前が俺を利用してくれ」
「なんで……そんなに俺のことを……」
「お前はバカヤロウで、天才だから」
「へっ?」
「底抜けに明るくて他人のことも考えられる良い奴だけど上手い方法を考えられないバカヤロウ。
でも戦うことは上手いし魔獣も強いし、諦めないし才能もある。
俺が知る中でお前は1番バカヤロウで、天才なんだ。
だからお前に死んでほしくないし、もっと強くなった姿が見たいんだ。
笑っててほしいし俺が嫌いならそれでもいいから1人で突っ走んないでくれよ」
「俺がバカヤロウならお前もバカヤロウだよ」
「……なんでだよ?」
「自分の命は大切にしないし、死にかけてみんなのこと泣かすしさ。
それに、そんな俺のために泣いてくれるバカヤロウなんて……お前だけだよ」
「ライナス……」
「悪かった。
反省したよ。
そうだよな、俺は1人じゃないしお前も1人じゃない。
一緒に攻略してるし一緒に戦ってるんだもんな。
ジ、許してくれるなら俺をダンジョン攻略のメンバーから外さないでくれ。
今度は、今度こそは一緒に攻略しよう」
「どうしようかな」
「ええっ!?」
「冗談だよ。
よろしく頼むよ、ライナス」
「ったく変な冗談やめろよ。
よろしくな、ジ」
なんとなく放しどきを失った手を放してジはベッドに横たわる。
ダンジョンから急いで戻ってきた疲れと泣き疲れた2つの疲労で意識がうとうとしてきた。
「バカヤロウか……うん、バカヤロウでいいや。
あんがと、ジ……寝てるか。
しかしひっでぇ顔だな。
みんな来る前に拭いといてやるか」
お前も人のこと言えない顔してるぞ。
起きていたらそう言っただろうがライナスはジの顔をシーツで拭いて、自分の顔も拭いて、そしてジの隣で寝始めた。
「……寝ちゃったね」
「そっとしといてあげましょうか」
覗いちゃいけないと思うほどに気になるのが人というもの。
うっすらと開けられたドアから覗き込んでいたエとオロネアは会話の中身まで聞こえてなくても、仲直りしたように隣同士で寝出した2人を見て再びドアを閉めたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます