抱えすぎも厳禁です2
痛い肩をさすりながら中に戻る。
「こいつなんなんだ?」
「た、助けてくださいぃ〜」
地面に膝をついて両腕を上げる少年といきなり飛び込んできた怪しい少年の首に剣を突きつけるリアーネ。
ジの騎士たるリアーネは時折冒険者の活動を続けながらも基本はジについて護衛として活動していた。
助かったと思ったらすぐさま命のピンチに置かれた少年は泣きそうになっている。
「おいしょっと」
イスを持ってきて少年の前に座るジ。
「はじめまして」
「ひっ、は、はじめまして!」
返事をしろとリアーネが剣を寄せる。
「俺はジだ。
よろしくね」
「ヨージュです……よ、よろしくお願いします!」
「なんで追いかけられていたの?」
この少年、ヨージュは怪しくは見えないけど警戒しておくに越したことはない。
事情が分かるまでは首に剣を突き付けたままでいてもらう。
「そ、それは……言います!
言いますから!」
わずかに刃が首に触れた感覚にヨージュが震えあがる。
「あ、あいつら俺のじいちゃんの工房を奪おうとしてるんだ!」
「んー?」
なんだかそんな感じの話、どっかで聞いたな思いながらヨージュの話を聞いた。
悪どい奴らというのはなくならない。
世が荒れればそれに便乗し、世が安定してもそれに便乗するのだ。
ヨージュの一族は代々職人をしており、今はヨージュのおじいちゃんが工房主として工房を切り盛りしていた。
経営は非常に安定している。
それは大きな工房から仕事を回してもらっているのであり、長年に渡って細かい部品などを作ってそれを大きな工房に納める仕事を主に生計を立てていた。
そうした分業でずっとやってきたのだが少し前に大きな工房が変わってしまった。
どうやら大きな工房の経営主が変わったことが原因のようだ。
「あんなのただの脅しじゃないか!
ムカつく、足元みやがって!」
大きな工房は契約内容の変更を突きつけてきた。
大きな工房が用意した材料でヨージュの工房で作った部品を大きな工房が買うという形で契約が成り立っていたのだけれど大きな工房は買取価格の引き下げを要求した。
理由としては戦争によって材料の価格高騰や商品が売れなくなったりということだった。
しかし大きな工房が提示した金額ではヨージュの工房はとてもやっていけなかった。
その金額でないなら買い取らないと大きな工房は言い、その上ヨージュの工房が値下げをしないで部品を売らなかったり、契約を解除して被害を被った分は損害賠償をするようにとまで言ってきた。
明らかに不公平な要求。
契約を打ち切っても損害賠償を支払うほどの余裕はなく、買取価格を下げると結局首が回らなくなる。
ほとんど1箇所に頼り切りになっていたツケが回ってきた。
「だけど契約を打ち切られたらあっちだって困るはずなんだ。
これほどの価格で高い品質で作れるとこなんてうちぐらいしかないんだから。
だからその証拠を握ろうとして忍び込んで……」
「見つかったんだな」
「1人の股間蹴り上げて逃げたらすっごい顔してむっちゃ追いかけてきてさ……」
「そりゃあな……」
忍び込んできたガキが男の大事なところ蹴り飛ばして逃げたら殺すつもりで追いかけるわ。
「事情は分かった。
リアーネ」
「あいよ」
「なるほど……分業か…………」
リアーネが剣を首から下げる。
ずっと手を上げっぱなしだったヨージュは腕がプルップルしていた。
「しかし今どきこんなことする奴いるんだな」
「ふふっ、そうですね」
腕を組んでウンウンとうなずくリアーネ。
そんな様子を微笑ましく見ているメリッサ。
リアーネは小難しいことはわからないし特にそんなことに首を突っ込むつもりもない。
けれどこうした話には経験がある。
特に今はそうした不当な行いは取り締られているのに、そんなことを行う連中がいるのかとリアーネは思った。
これまでだったらどうしたらいいのか分からないので気配を消していたがこれに関してはちょっとだけ口を出せる。
仲裁制度を使えばいい。
職人同士の契約は職人ギルドがあるので正確には商人ギルドの管轄ではない。
しかし、国の方も仲裁制度に関わっているし契約全般に関わる制度なので職人同士の契約でも仲裁のお願いをすることができる。
不当な契約かどうか国や商人ギルドの第三者の目で判断してくれる。
不当なら是正する様に仲介してくれるし、何かの折衷案が必要なら相談にも乗ってくれる。
リアーネが鼻高々に説明して、不足しているところをメリッサが補足する。
「へぇ……そんなのがあるんだ」
未だに広く知られていない制度。
まだ子供のヨージュが知らなくても無理はない。
職人畑の人たちならそういったことに疎いのはしょうがないことである。
「……ただ問題はその後だよな」
前向きに契約をやり直しさせてくれるのが仲裁制度ではあるが一度軋轢が生まれてしまった以上互いに笑顔で終われるとは限らない。
このように妥協点も見出せないような一方的な要求を突きつけてくる場合、今後関係を続けていくことが難しくなる。
ヨージュの工房もその工房と関係を継続するのは楽なことではない。
もし関係を続けられてもまたいつ無茶を言われるか、または契約を切られるか怯えなきゃいけない。
「そういえば……」
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