人には言えぬ友人よ4
「ひとまず小さき友に礼を言おう。
助かった。
ありがとう」
「……どういたしまして。
俺を友と?」
ガルガトが友と言うことはまず滅多にない。
人を信用せず常に疑ってかかるガルガトは冗談でも友と思えない相手を友ということはない。
「例え生まれたての子供だろうと使えるのならば友と呼ぶ。
例え天下に名を轟かす剣の使い手だろうと信用できないのなら私は友にはならない」
むず痒いような妙な嬉しさがあった。
一般に言う友人関係とは全然違うだろうが過去で結んだ縁の端っこにまた触れることができてジは嬉しさを感じていた。
「そしてお礼は言葉だけじゃなく行動で示そう」
ガルガトは懐から紙の束を取り出した。
紐でまとめられたそれをわざわざジの近くまで来て、手渡す。
ガルガトはかなり身長が高かった。
自然と見上げる形になるジにはガルガトの顔がうっすらと見えた。
「あ、ありがとうございます……」
「困っていると聞いたからな。
いつでもうちの情報ギルドに来るといい。
小さな友人は特別客だ」
「は、はい」
「私にはやることがあるのでな。
失礼するよ」
わずかに口の端を上げて微笑んだように見えたガルガトはジから離れると細い路地に入っていった。
途端にずっと感じていた違和感がなくなり、別の路地から人が出てくるのが見えた。
「えぇ……むっちゃイケメンじゃん」
ジが過去でガルガトに会ったのはずっとずっと後。
その時には顔に一生治らないひどい火傷を負って見るものがドン引きする顔だった。
歳を食っても声は相変わらずしわがれていたので顔もてっきり若い頃からああだったのだと思っていた。
しかしフードの下に見えたガルガトの顔はとても綺麗な顔をした男性だった。
なぜ顔を隠して生きているのか問い詰めたくなるほどの美形。
友人と呼ばれた出来事も衝撃だったがガルガトの素顔に比べると些細なことのように思えた。
「ずりぃなぁ……」
あんな顔してたらこんなに必死に駆けずり回らなくてもよかったかもしれないと思わずにいられない。
男娼なんてことはやるつもりはないが多少のプライドを捨てれば楽に生きられそうだった。
でもガルガトはそんな顔に頼らない生活を送っている。
「……いや、顔がいいから情報を集められて情報ギルドやってるのか?」
道に人通りが戻ってきてジも歩き出す。
ガルガトの顔が頭から離れずにそのまま家まで帰ってきた。
少し水でも飲もうと樽の中を覗き込んでそこに自分の顔が映っていた。
ペタペタと顔を触ってみる。
だいぶ肉付きは良くなった。
ガリガリで触れれば壊れてしまいそうな貧弱さが浮き出ていた顔もかなりマトモになっている。
イケてるかはちょっと分からないけどそれなりに可愛げはある顔立ちだとは思う。
「ジ兄どうしたの?」
樽の中をじっと覗き込むジを不思議に思ったケが寄ってくる。
「ん?
いや、俺の顔ってどうだ?」
「ジ兄の顔?
んとね……すっごくカッコいいよ!」
ちょっと恥ずかしそうに、それでいてウソではないと分かる満面の笑みでケが答えてくれる。
「そっか、ありがと」
「えへへっ……」
ジがケの頭を撫でる。
顔が良すぎても苦労することがある。
回帰はしても顔が変わるわけではないので今持てるものを大切にしようと思った。
「私は、どう?」
「ケか?
そうだな……ケは今でも可愛らしいけど将来はすごい美人になりそうだ」
貧民街のアイドル。
天真爛漫で笑顔を絶やさない双子は誰もが顔を緩めて可愛がる。
「んー!
ギュー!」
嬉しさでジに抱きつくケ。
双子がどうなったかはジには記憶がないけれどこのままいけば貴族だって求婚に来るぐらいの美女に成長するだろう将来性をジは感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます