青円の商会2
「あっと、フィオスおいで」
ジのいうことを聞いて大人しくしていたフィオスを呼ぶ。
上手いこと冠を落とさないように跳ねてフィオスがジの横にくる。
ちょっとだけ冠がずれて、まるで頭を上げてジを見上げているように見えた。
笑って、フィオスの冠を直してやる。
可愛い看板娘の身だしなみはしっかりしなきゃいけない。
最初は日が暮れるんじゃないかと思った行進も近づいてきたと思ったらそこからは早かった。
白い大きな馬車はフィオス商会の前に止まり、騎士が前に出てきて道を作る。
ジが片膝をついて頭を下げるとみんなもそれにならってそうする。
来たのは思っている人で間違いないよなとチラリと視線を上げて様子を伺う。
馬車から出てきた王様は以前にあった時のような柔らかさはなく、威厳に満ちた顔をしていた。
プライベートで会う時と周りに見ている人がいる時とでは全く顔つきが異なっている。
降りてきた王様は振り返ると馬車の方に手を差し出した。
馬車の方からもスッと手が伸びてきて王様の手に重ねる。
あっ、と思った。
王様に隠れて顔は見えなかったが軽くウェーブした金色の髪の毛が揺れて見えた。
うっすらと桃色のドレスに身を包んだアユインが馬車から降りてきた。
みんながいるからだろうか、それとも着飾っているせいか、最初の印象では気弱そうに見えていたアユインが堂々としていて気品に溢れた顔をしていた。
「国王陛下、及び王女様の……」
「よい、ここではそのようなもの不要だ」
王様の来訪を告げようとした文官を王様が止める。
わざわざ威厳を示す必要はない。
「息災だな」
「はっ、国王陛下に置かれましても御威光ますます隆盛を極めておりますこと臣民1人として喜び申し上げます」
「はははっ、丁寧な挨拶だな、年に似つかないぐらいに」
「お褒めに預かりまして光栄でございます」
ユディットやメリッサは驚いていた。
2人も貴族ではないので王様への挨拶どころか貴族の挨拶すらよく分かっていない。
ジの挨拶が正しいものなのかも判断はつかないのであるが少なくとも王様を不快にさせず、周りの者も止めたり咎めたりしない程度には対応ができていた。
メリッサは王族が訪ねてきたことだけでなく、それに臆することなく応じてみせたジの姿を見て、自分の判断は間違っていなかったと思った。
ヘギウス商会の友人はメリッサのことを止めた。
子供が商会長でまだ作られてもいない商会に関わるなんて露頭に迷うこと間違い無いと何度も言われた。
けれど確信できる。
胸を張って言える。
ジについていっても路頭に迷うことはない。
それどころか、ヘギウス商会では決してやることのない仕事にたずさわり、決してなし得ないことができると思えた。
「顔を上げると良い」
「ありがたき幸せ」
「あなたが商会長ですね。
私が中を改めさせて」
「いらぬ」
「し、しかしそれでは……」
「いらぬと言っている」
顔を上げたジの前に1人の騎士が出てきた。
襲撃や暗殺など警戒しなきゃいけないことは山のようにある。
例え小さな店舗であっても暗殺者が隠れるぐらいのことはできる。
騎士が中の安全を確かめるぐらいのことは当然であってジも普通に許可しようと思ったのだけど王様は騎士を止めた。
娘の恩人を疑うことはしない。
仮に襲われたとしても一度ぐらいなら過ちを見逃すつもりもある。
王様の圧に騎士がたじろいで膝をついて命令を聞き入れる。
「それでは中に入ろう。
みなは外で待っていろ」
「国王陛下、それでは……」
「何度も言わせるな」
「ダメでございます」
王様の側近を務める文官の1人が圧にも負けず王様の目を見据える。
自分が初心を忘れないように従うだけでなくて必要なことはちゃんと言ってくれる人を置いておこうと思って取り立てた者。
何の護衛も付けずに中に入れるわけにはいかない。
必要なことで彼の目は一歩も引かない意思を見せていた。
「ふっ、分かっておる。
ビクシム」
「はっ」
別に護衛なんていなくてもよかったけど付けなきゃいけないことは分かっている。
こんなこともあろうかとちゃんと王様は考えていた。
何回かビクシムには会っているけど毎回ラフな格好をしていた。
しかし今日ばかりはビクシムも鎧を身につけていた。
王を守るナイトらしく白い鎧を身にまとったビクシムはとても強そうに見えた。
そしてビクシムの隣にはもう1人。
我を忘れ喜びに駆け出しそうになる自分を抑えつけるので必死だった。
(久しぶり)
(お前もな)
声は出さずに口の動きだけで会話する。
ビクシムの隣にいたのはなんとラであった。
まだちゃんと騎士としても認められていないしすぐに大きくなるだろうとラは部分部分に防具をつけていて、それでも背筋を伸ばして立っている姿は貧民の子だったようには見えなかった。
「これでよかろう?」
「……はい、お気をつけください」
1人ではいささか不安なところはあるがビクシムが勝てないような相手が出てきたらどのみち何人つけようが時間稼ぎにしかならない。
店の前にこうして大挙して待っているわけだし、問題が起きてもすぐに対処できると文官は引き下がった。
「狭いですが、俺にとっては大きな店舗です。
どうぞお入りください」
「ありがとう、失礼するよ」
まずはビクシムが先に中に入って安全を確かめる。
続いて王様とアユインが中に入る。
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