本当の自由3
「それで僕に出会うこともそんな壮大な計画の一部なのかい?」
「壮大だなんて……
ただ過去では…………その」
「ははっ、分かってるさ。
きっと僕はリッチとして、暴れたんだろう?
じゃなきゃ君が来やしないだろうし、僕をわざわざ家に匿おうなんてしないはずさ」
「はい。
あなたは回帰前は町を襲い、そして討伐されたんです」
「……じゃあ、小さな英雄さんのおかげで今は僕は人として死ぬことができるんだね」
「俺は英雄なんかじゃ……」
「いいや、君は英雄さ。
少なくとも僕にとってはね。
僕は人として死ねる。
そのことの意味は君が思っているよりもはるかに大きいんだ」
ジが何もしなかったらリッチとして暴れていた。
それを聞いたら余計に感謝もする。
常に魔物のリッチが自分の後ろにいるような感覚がある。
人としての自我を失い、殺したくもない人を殺してしまうぐらいなら死んだ方がマシだ。
何かの目的があったとしてもだ、ウダラックはリッチにならなかった。
最後に後ろ髪引かれるほど人としての感情を持ったまま逝くことができるのだ。
「人は誰しも英雄になれるのさ。
みんなに慕われるから英雄なんじゃない。
誰かのために何かが出来るのが英雄なんだ」
「それが自分のためでもか?」
「そうさ。
純粋に自分のため、あるいは純粋に他人のために他人に何かを出来る人なんていない。
その割合は人それぞれだけど、どこかで自分のためでどこかで他人のためなのは当然のことさ」
「……買い被りすぎだ」
「大丈夫、僕はどうせ死ぬんだ。
買い被りすぎても失望したりすることはないから」
そんな英雄視されるほどのいいもんじゃない。
これからジはウダラックを殺すのだ、そんな相手から英雄だと言われて感謝を述べられるのは心苦しかった。
「……そこにある箱の中には僕が集めた呪物とか魔道具とかあるから好きに使ってよ。
あとはこれをあの双子ちゃんに渡してくれないか?」
ウダラックは小さな木の箱に入ったネックレスをジに見せた。
ほとんど同じに見えながら微妙に違ったデザインの2つのネックレス。
まるでタとケのような薄い紫色の石がついた可愛らしいネックレスだった。
「これも僕お手製の防呪のネックレスさ。
簡単な魔法が込められているからきっとあの子たちを守ってくれる」
夜暇なウダラックは家を抜け出してまたここに来ていた。
自分を最後まで人として扱ってくれたタとケに何かお返しがしたくてこのネックレスを作った。
「そしてこれが僕のライフベッセルだ」
最後にウダラックは小さな瓶を取り出した。
「……これが僕の命だなんておかしいよね」
そこら辺にあるような小瓶の中で青い魔力が渦巻いている。
ウダラックは支配から逃れるためにどうにかもう1つライフベッセルを生み出した。
本当のライフベッセルはもっと丈夫で大きな器に魔力を入れていたのだが身近にあって使えそうなものがこの小瓶しかなかった。
手を離せば落ちて割れてしまうほど脆いものなのに、リッチなる時に禁制でもかけられたか、あるいは魔物としての生存本能なのか手を離してライフベッセルを破壊することができない。
情けないほど小さな瓶すら壊すことができない。
「はい、お願いするよ」
渡された小瓶は小瓶の重さしかないぐらい軽くて、これがウダラックの命なのだと信じられない。
「そんな悲しそうな顔をしないでおくれ。
僕は君に会えてよかった。
これはきっと僕が何回人生をやり直しても最も良い別れだ。
これで僕は魔物の体からも、自分を失う恐怖からも自由になれるんだ」
「……ッ!」
ジは小瓶を放り投げて剣を抜きざまに両断する。
空中で2つに切れた小瓶の中から青い魔力が漏れて消えていく。
泣かないように歯を食いしばり、しっかりとウダラックを見て剣を振り下ろした。
「ありがとう、僕の英雄。
ありがとう、小さな友よ」
縦に真っ二つにされたウダラックは床に崩れる。
「フィオス」
骨を集めてお墓にでも入れてあげたいけどそうは出来ない。
リッチになって魔力に侵食されてしまった骨を他の人の骨の近くに置いてしまうと魔力の侵食の影響が出てしまう。
ウダラックは最後の最後まで人であり、誰かを傷つけることを嫌がった。
骨は残さない方がウダラックの願いに沿っている。
「うぅ……」
涙が溢れる。
フィオスが骨を溶かして、ウダラックは完全にこの世から消えてしまった。
「ありがとう……
ウダラックのおかげでまた救われる命があるんだよ」
届かぬ言葉を呟いてジは教会の地下を後にした。
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