変えられた未来2

 ほんと不思議なのだけど少しずつお茶が減っていき、大体ジと同じタイミングでお茶が無くなるのだ。

 フィオスが合わせてくれているのだろうけどジのお茶の飲み具合に合わせずとも好きに飲めばいいのにと思う。


 きっとジが飲み干したらおかわりを淹れてくれるからなのではないかとひっそりと考えている。


「ほら、茶請けだ」


 ジはニヤリと笑って双子が前に焼いてくれたお菓子を出してやる。

 どうせラがお茶を気に入って飲むわけがないことを分かっていたのでお菓子も用意してあった。


「お、あんがと。


 美味いな、これ」


「タとケ……さっきの双子が作ったんだ」


「へぇー、ちっちゃいのにやるもんだな。


 俺も料理当番になることもあるけどこんな美味く作れやしないぞ」


 サクサクとお菓子を食べてラが感心する。


「んでさ、なんか色々賑やかすぎね?」


 双子だけじゃない。

 ラにとっては以前の訓練の時にいたオッサンまでなんか家にいる。


 ジの師匠であるグルゼイなのだけど知らん間に骨とオッサンと双子がジの家に転がり込んでいる。


 さらには聞いたところ隣の家で作業をしている。

 つまりは隣の家もジが使っていることになる。


 貴族の女の子と知り合いになっていたことも判明しているし、なんだかジの周りの環境が劇的に変わっている。

 これまででは繋がりのなかった人たちがジの周りに集まっている。


 もっと頻繁に帰ってこられれば状況も分かったのかもしれないけどラも理解が追いつかない。


「そうだな……俺がこうなるようにしたっていうよりもなんか成り行きでこうなったんだよ」


「なんの成り行きでこんなことになるんだよ。


 特に骨な、骨」


 ラはまだ自分の部屋を掃除しているウダラックのことが心配であった。


「別に住人を増やそうとしてたわけじゃないんだよ。


 俺なりに色々頑張ってたら色んな人との繋がりができて、いつの間にか人が集まってたんだ」


「…………まあ、お前だもんな」


 よく考えてみればおかしくもないかもとラは思った。

 これまでもジは面倒見が良くて、気配りが出来た。


 ラが兄貴って感じならジはお兄ちゃんみたいなところがあってジの周りには子供が集まっていた。

 ジがスライムを魔獣にしたショックから立ち直って動き始めたなら周りに人が集まることもあるかもしれない。


 リッチすら惹きつける可能性もジならある。

 なんせ自分の親友だから。


「俺が養わなくても大丈夫そうだな?」


 なんだか色々やっているようだし、ジもすっかり元気になっている。

 前にした告白もどきのことはラも忘れたくても忘れられない。


「いや、養ってくれよ」


「だってさ……」


「約束破んのか?」


「破んねぇけどよぅ……」


 貴族の女の子とも友達になって隣の家まで持っている。

 ラも給料が多少出るのでジよりも稼いでいると思っていたのにどう見たってジの方が稼いでいるように見えた。


 ジの方が実際稼いでいるのだけどどうなるのかわからないのが人生。

 いざとなれば本当にラに養ってもらうこともやぶさかではないつもりのジである。


 今のところほとんどその可能性はないけれども。


「それで今日は休みだから帰ってきたのか?」


「ああ、それもあるんだけど、報告したいことがあったんだ」


「報告?」


 何を報告なんてすることがあるのか過去を思い出してみる。

 ラを拒否していたけれどちゃんとジのことを気にかけて割と細かく自分のことを教えてくれていたラ。


 この時期に何かがあったか考えてみるけれど全く思い当たらない。

 何かまた過去とは違うことが起こっている。


「実はさ、俺弟子になったんだ」


「弟子?


 誰の弟子だ?」


 過去ではラは王国兵士の指導は受けてても誰かに師事したことなどなかったはずだ。

 慕われてはいたけど平民や貧民の味方で貴族の多い兵士の中では浮いていて上の人からは疎まれていた。


 そのためラは亡くなることになるのだけどそんなラを弟子にする人が現れるとは。


 良い人なら良いのにと期待して聞いてみる。

 調べてみて悪い奴ならパージヴェルにでも頼んでちょっと離してもらおう。


「師匠はなんとビクシム師匠だよ!


 ある時俺のところにきて弟子にならないかって言ってくれたんだ!」


 興奮した様子のラ。


 名前だけ聞いてもジは一瞬誰だか分からなかったがすぐに名前と顔が一致した。


「ビクシムって……あの?」


「そう!


 ロイヤルガードのビクシム師匠だよ!」


「……す、すごいじゃないか!」


 ロイヤルガードといえば過去も今もどこかで名前が出てくる超有名人。

 そんな有名人でありながら過去では剣のビクシムに弟子の話は聞こえなかったのにラがビクシムの弟子になるなんて!


 ビクシムは情に厚く決して人を見捨てない男だと聞いたことがある。

 実際会ってみると気のいいおじさんだったことも記憶に新しい。


「俺はもっと強くなる。


 もっともっと強くなって守られるだけじゃなくて、守る人になるんだ。

 お前もエもこの国だって俺が守ってみせるんだ!」


「これは大きく出たな……ならお前に任せた!」


「ええっ!?」


 ちょっとしたライバル宣言みたいなつもりだったのに任されてしまった。

 ジは自分が国まで守るなんて大口叩けるほどの力はないと分かっている。


 だけど友人は違う。

 そうできるだけの才能があり努力もできるし、決意もあるのだ。


「今日はお祝いだな!」


 ジは平民街に走った。

 嬉しかった。


 これでラが迎える悲惨な結末の可能性はほとんどなくなったと言っていい。

 高いお肉を買ってきたジにラは経済力の差を見せつけられた気がして、そこも負けないとさらに決意を新たにしたのであった。

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