スライムも頑張る2

 ラのセントスすらこうなっているのなら他の子の魔獣もどうなるのか想像に難くない。

 もう方法はないとエの顔が暗くなる。


「まだ諦めるには早いぞ」


 どよんとした雰囲気の中ジは諦めていなかった。


「フィオス」


 ジは自分の魔獣であるスライムのフィオスを呼び出す。


「……変わってなくない?」


「いや、ちょっとちっちゃいな」


「それわかんのあんただけよ」


 フィオスはほとんど変わりなくジの前に現れた。

 毎日見ているジからすると本当に少しだけ小さいけれどエから見たら別に変わっていないようにしか見えない。


 そもそも力の弱いスライムは抑制される幅も小さく、抑制されてもほとんど変わりがない。


「まさか、アレをするんですか?」


 リンデランはジが何をしようとしているのかピンときた。

 全く同じ状況が過去にあったのだ、分からない方がおかしい。


 他の子が不安そうにしている中リンデランが多少の余裕を保っていられるのは似たような経験をして、ジが一緒にいるから。


「ふっふっふっ、まあ見てなって」


「ジ、あんた手食われてるわよ」


「別に食われてるわけじゃないさ。


 フィオス、ソードモード!」


 フィオスがジの手にまとわりつく。

 側から見ると右手がスライムに食べられているようにしか見えない。


 ジは余裕の笑みを浮かべる。

 魔獣であるフィオスがジを傷つけるはずがない。


「えっと?」


「な、なんですか、それ?」


 ジの右手にくっついたままにょんと伸びたフィオス。

 スライムの奇妙な形とその用途の分からなさにリンデランすらも困惑する。


 ジはスライムについて調べていた。

 過去単なる魔力や強さだけではない魔獣の使い道について様々な研究がなされ、いろいろなものが開発された。


 しかしそんな時でもあってもスライムを研究する人はおらず、何かの使い道を見つけ出されることもなかった。

 そもそもものを溶かす性質をゴミ処理に利用することで十分であったし、ジもそれ以外にフィオスについて知ろうとしたことはなかった。


 大神殿の入院中ジは当然に暇だった。

 エはあまり動かないように厳しかったし、大神殿の中で出来ることなんてなかった。


 そこで見つけた時間の潰し方は本を読むことだった。

 知の神様もまつられていたこともあったので大きな図書室なんてものもあった。


 長時間図書室にいるとエがうるさいので病室に本を借りて読んでいた。

 最初は貧民の子が本を読めるのかと懐疑的だった神官も真面目に本を読むジを見てすぐに考えを改めた。


 読んでいた本は魔物関係の本。

 ジはスライムに何か他の生態や使い道がないものかと思い、スライムに関する記述を探していた。


 生態を観察してどんなことができるのか研究者たちは魔獣を研究して使い道を見つけていった。

 スライムに関して生態をジより知っている人はいないと自負がある。


 そんなジでもスライムには分からないことが多くて他にどんな風にフィオスの能力を活かしていけるのか分からなかった。

 だからなにかスライムに関する話でもないかこの機会に調べてみようと思ったのだ。


 スライムに関する記述はほとんどない。

 たまにあっても取るに足らない話だったりして役に立ちそうな話は見つけることができなかった。


 それでも本を読むことは面白かったし、神官たちも熱心に本を読んでいるジに感心していた。

 スライムについて話を見つけることは難しそうだと思った時、気分を変えてみようと手に取った本がいろいろな面白話を集めて一冊にしたものであった。


 冒険者の失敗談とか起きた変な出来事や逸話など色んな話があった。

 確かに読んでいて面白かったし今度誰かに話したら一杯ぐらいは奢ってもらえそうな内容だった。


 面白話の1つにスライムの話があった。


 なんでも鉄鉱石が取れる鉱山にいたスライムが鉄鉱石を食べてしまったなんて話だった。

 在庫をペロリと食べてしまったスライムはなんと鉄のように固くなってしまったというのだ。


 最後にはそのスライムを溶かして剣にして冒険者が大活躍したなんて笑い話だけどそんな話にジは注目した。

 全くゼロから作られる笑い話なんて存在しない。


 何かから着想を得たり少し変えてみたり、あるいは本当の話。


 ジに山のような鉄鉱石を買い付けるお金の余裕なんてなかった。

 なのでジは少しずつでも鉄を与えてみることにした。


 ゴミの中にも時折金属は混入する。

 ジ以外が担当する区域ではゴミは集めて燃やしていたのだが金属類は燃えずに溶け残る。


 一々作業する人がゴミを投げ入れて燃やす縦穴に入って金属を取り出していたのをジが処理することを申し出た。

 対価は受け取らないでやると言い出したことにオランゼは懐疑的だったけど少しでも金属が欲しいと言ったところ穴の底の金属ぐらいなら持っていけと承諾してくれた。


 あとは鍛冶屋に行った。

 ひどく刃こぼれしたものや折れてしまったもの、手入れをしなくて錆び付いたものとか武器屋で引き取ってくれているところもある。


 けれど折れた剣の折れた先まで残っていればいいけど根元だけとかひどく錆び付いたものとか溶かしてまた利用するのもめんどくさいものがある。

 そんなものは意外と隅に放置されていたりもする。


 あとは弟子の初心者が作った奴とか引き取ったものでもまだ使えそうなものなんかは格安で売ってくれたりもする。

 子供がそれなりにお金を出して練習用に欲しいなんて言えば在庫処分よろしくまとめて売ってくれるところもあったりした。

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