スライムも頑張る3
そうしてジはフィオスに鉄を与えた。
こんな風に固くなるんだぞと言い聞かせながら。
出来る限りフィオスのおやつでもあるかのように鉄を与え続けているとある時フィオスに変化が訪れた。
フィオスを抱きかかえているとぷにぷにとした柔らかな感触の中にごつりと固いものが触れたのだ。
これはなんだと見てみるとフィオスの体の一部が変色し、固くなっていた。
何かの病気かとも思ったけれどよくよく見るとそれは紛れもなくフィオスの体の一部だった。
なんとフィオスは体を別の物質のように変質させることに成功したのである。
最初はただ少し固いだけだったのだけれどフィオスは優秀だった。
一部だったものがあっという間に全身になり、カッチカチになった。
まだまだ鉄には遠く及ばないけれどフィオスで殴ればそれなりに痛いぐらいまでは固くなった。
固くなっただけでは使えない。
ジは次にフィオスに形を変えて維持するように言ってみた。
ひとまずは棒状をイメージしてにゅんとフィオスに伸びてもらう。
目標としては剣なんだけど鉄化もまだ未熟だしフィオスも頑張ってくれているのだけど現状ではそれぐらいが限界だった。
「うーん……」
エがフィオスを見てうなる。
剣というよりも突き専門のランスのような形になっている。
発展途上だから見た目も能力も中途半端なのは仕方ない。
「これでもいいんだ」
火かき棒ですら魔力を込めて上手くやれば戦えることが分かったのだ。
ソードモードなのにランス状態のフィオスでも戦える、はずだ。
「いくぞフィオス!」
グッと手が締まるような感覚がする。
なんというかフィオスも力を入れてより固くするようにしてくれるのだ。
フィオスに魔力を込めて鉄格子を切り付ける。
魔力を瞬間の斬撃にするこれは魔法ではなく技術である。
魔法ではないので妨害することができず鉄格子がスパッと切られる。
「おおっ! すげえ!」
沸き立つ子供たち。
「あとちょっとだな」
とりあえずカッコよく成功したけれどフィオスの先端は残念ながらぐにゃりと曲がってしまっていた。
「ありがとうフィオス、もういいよ」
ジの手を離れて地面に着地するフィオスはもう元の姿に戻っていた。
与える鉄が足りないのか、フィオスの鉄化の練度が低いのか分からない。
でも出来ることが増えるたび、出来るようになっていくたびにフィオスとの繋がりが強くなっていく。
感覚的には魔力は2倍ほどになっているような感じがする。
元々微々たる魔力が2倍になったところで微々たるものだけどジの中では結構増えた感じがする。
鉄格子を切ったのは何も試したいだけではない。
斜めに切り取った鉄格子は先の尖った鉄の棒になる。
子供の力でも思い切り突き刺せば殺傷能力はそれなりにある武器になる。
あまりフィオスに負担をかけられないので全員分の鉄の棒を作り出すのはできない。
ジは切り取った鉄の棒をラやウルシュナに渡す。
全員剣を扱うので勝手は違うけれど何もないよりはマシだろう。
ジは体にフィオスをまとわせて1番前を歩く。
最大限に集中力を高めて魔力を感じるように気をつける。
地下牢はジたちが囚われていたところ以外にもいくつもあってかなり広い地下であった。
ただ他の牢屋には誰も入っていない。
他のグループから緊急事態を表す信号弾が上がっていた。
似たような状況にあったなら同じく地下牢にいてもいいはずだけど他の子供たちの気配はない。
「待て、誰か来る」
誰かが曲がりかの向こうにいる気配を感じる。
けれど周りには中が丸見えの鉄格子の牢屋しかない。
下がろうにもジたちがいた牢屋は奥の方で端まで牢屋なことは確認したので逃げられないことは分かっている。
牢屋から出てもラのセントスは大きくなることができなかった。
つまりは地下全体に魔獣の力を抑制する魔法がかけられているのである。
魔獣に頼った戦いはできないので自分でなんとかするしかない。
「先手必勝……」
「お待ちください」
ジが先に攻撃を仕掛けようとした瞬間曲がり角を曲がる前に相手が止まった。
バレている。
「攻撃されたら私は反撃するしかなくなってしまいます」
「そんなこと言われてもあんた敵だろ?」
「私はいま食事を運ぶように言われただけで攻撃しろとも檻から出ていたら戻せとも言われていません。
ですが攻撃されたら身を守るために反撃しなければならないのです」
「……分かった、攻撃はしない。
姿を見せてくれ」
みんなに下がるように手で指示しながら会話を続ける。
不思議な気配がする。
この気配どこかで覚えがある。
「……怖がらないでくださいね」
「ヒッ……」
「シッ、ウルシュナ静かに!」
角から現れたのはローブを着てバスケットを持ったガイコツだった。
悲鳴をあげそうになったウルシュナだったがジに口を塞がれる。
何人かの子供たちが気絶して倒れる。
動く骨はいきなりの出会いには刺激が強すぎる。
「……あなたは?」
「私はプクサです。
あなたたちに食事をお持ちしました」
「もしかしてリッチですか?」
「……よくお分かりになりましたね」
どこかで感じたことがある気配。
それはウダラックに感じたものと同じであった。
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