他力本願7

 戦争はきっと早めに進行すると思っているのであながちあり得ない話でもないと思う。

 ただ何があるのか分からないので対策はしておく必要はある。


「町から離れられないというのに一体何をしているんだ……


 まあ恩もあるし噂を流すくらいのことはしよう」


「ありがとうございます」


「これで引き受けてもらったと思っていいかな?


 それでは少し時間的には早いけれど食事としようか。


 すぐに準備させるから待っていてくれ」


 そう言ってルシウスは部屋を出ていく。


「随分と人任せだがいいのか?」


 そもそも人に話してもよかったのか。

 

 最終的に引き受けると判断したのはジである。

 なのでどうするのかもある程度ジに任せてみようとグルゼイは思っている。


 ルシウスに打ち明けた割にやってもらうことが噂を流してもらうだけとはやや拍子抜けな感じがしてしまう。

 考えてはいるけれどやはり子供は子供かとグルゼイは思った。


「ビッケルンまで行く事はできませんしね。


 とりあえず出来る事はこのぐらいですよ」


「それもそうか」


 証拠がない以上大神殿に行ってビッケルンを告発するわけにもいかない。

 ウダラックのお願いを受け入れたのでリッチを見逃して協力することになる。


 リッチに協力しますともウダラックのことも大神殿に言えないので聖職者を動かす事はできない。


 実際にビッケルンにジたちがいけないので誰かにやってもらうしかない。

 そう考えると噂を流して可能性を高めるのもそれほど悪くはないような気もする。


 もっと劇的な一手が欲しいと思わざるを得ないけれどそんな手があったら最初からそうしているのだ。


「貴族の飯は美味いかな?」


「お、俺マナーとか分かんないけど大丈夫でしょうか……?」


「んなもん私にもわかんないよ!」


「いでっ!」


 リアーネとユディットの心配ごとはこれから出てくる食事に関してのことだった。

 マナーを心配するユディットの背中をバンバンと叩き、リアーネが豪快に笑う。


「こいつらも当事者なことは分かっているのか?」


「まあ、ユディットはしょうがないですし、リアーネは腕っぷし担当ですから」


「ちなみに私もいますが聞いていてよい話だったのでしょうか?」


「ヘレンゼールさんが勝手にこんな話を誰かにする人だなんて思ってませんよ。


 むしろヘレンゼールさんも手伝ってください」


「おやおや……まためんどくさい……」


 ひとまずリッチ問題は後回しにすることにした。

 そもそもの話、過去ではリッチが襲撃に来たのは1年も後の話。


 墓地に行ったのもその存在を確認して大神殿に倒してもらう算段だった。

 まさか普通に遭遇して普通に会話することになるなんて思いもしなかった。


 ウダラックがどうして理性を失ってただのリッチになったのかは直接話を聞いたことがなくてジは予想するしかない。

 結果には原因があり、ウダラックを操らせないようにすることができるとジは考えていた。


 やはりただのガキじゃないとグルゼイは後に思うのだけどただ他人頼りにするだけでなくその時間を稼ぐための延命作戦はしっかりと考えてあった。

 安酒に管を巻く連中の話を色々聞いておいてよかったと改めて思った。

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