おばちゃんの知恵1

 王弟の謀反は国内に大きな衝撃をもたらした。

 キャスパンでの出来事はあっという間に話が広がった。


 これにより王弟は暗殺を行う卑怯者だと印象付けをされた。

 すでに直接戦わなくても戦いは始まっている。


 王弟側についたのは王弟に与えられた所領である西部を中心とした面々。

 隣の帝国との国境線を守る大貴族であるジャクレオンまでもが王弟側につくことになった。


 国内が混乱に陥っているというのに沈黙を保っていること、国境線を守るジャクレオンまでもが謀反に加担したことから今回の謀反は隣の帝国も関わっているのではないかと噂まで流れ始めた。


 始まった情報戦の中でヘンヴェイ・ジャクレオンが謀反に加担した罪で処刑されることが決定した。


 休まる暇もなく情報が飛び交い、戦いの熱が高まっていく。


「ほれ、これで届くか?」


「わぁーたかーい!」


「とどくよー」


 しかし戦争の気配も首都までは及ばない。

 戦場になるのはもっと首都よりも西部よりの地域になるので混乱こそ多少あっても首都の雰囲気は大きく変わらない。


 ジたちも王様たちと共に帰ってきていた。


 有事に備えての仕事だったのだが実際にとんでもないことが起きてしまった。

 命の危険があり、謀反の戦いに巻き込まれてしまった。


 最初の予定よりもはるかに危険な仕事になった。

 ということでルシウスから提示されていた金額よりも多くの依頼料が支払われた。


 ついでに頑張って王様を守った。

 国からも褒賞としていくらかお金ももらうことができた。


 ジやグルゼイの立場は冒険者。

 傭兵として自ら戦争に参加するならともかく、その気がないのに徴兵戦争に投入されることもない。


 帰ってきた冒険者たちはこれまでと同じ生活を送っている……わけではなかった。


 今ジの目の前ではタとケがリアーネの肩に乗せられて天井の埃を箒で落としていた。

 なんだかいきなり掃除をすると言い出したタとケは天井も綺麗にしたいと言ってリアーネが手を貸していた。


 別に天井を箒で掃いて埃を落とす事はいい。


「なんでリアーネさんがここに?」


 リアーネがどうして家にいて、タとケと仲良くなっているのか。

 久々にオランゼの元に行って仕事して帰ってきたらこうだったので状況が分からない。


 朝掃除すると言い出してから何があったのだろうか。


「ん? そりゃあお前を探して、見つけたからだよ」


 答えのようで答えになっていない。


「なんで俺のことを探してたんですか?」


「暇だから!」


「暇だから……」


 なんとも単純明快でわかりやすい答え、に見えてまだ答えになってない。


「なんで暇だと俺のこと探すんですか……」


「んー、まあ掃除の手伝いが終わるまでちょっと待ってな」


 この分では御大層な理由もないだろう。

 ジはため息をついてタとケが作って置いといてくれた朝ごはんを食べた。


 古びた家だけど掃除をすればそれなりに綺麗に見える。

 天井まで掃いてくれたのでどうしようもないボロさ以外はまともな感じになっていた。


「それでなんだっけ?」


 掃除の手伝いを終えてリアーネがジの前の席に座る。


「なんで暇だからといって俺のことを探したか、です」


「ああ、そうだったな。


 お前とあのオッサンもそうだと思うけど外出制限を言い渡されただろ?」


「まあ、そりゃあね」


 国から出た褒賞はけっこうな金額だった。

 これはただ感謝しているというだけではなく口止め料の意味も含んでいた。


 詳細な説明こそなかったけれど瞬間移動の正体は予想通り王様だと説明を受けた。

 これは王様の秘密であり広く知られてはならないことであるそうな。


 なので多額のお金を払い、外では絶対に話すなと約束させられた。

 拘束までされなかったのはルシウスの説得と王様が恩人を拘束はしないと言ってくれたおかげだった。


 代わりに裏部隊のみんなは首都から出ることを禁じられた。

 少なくとも内戦が収まるまでは他国はおろか、他の都市にも行かないようにと命じられることになった。


 冒険者なので従わなくていいといえばそうなのだがお金をもらっておいて監視もあってはまず従わざるを得ない。

 自由を謳う冒険者でも国家権力には勝てないのだ。


 ジは元より冒険者ではないので影響は少ない。

 子供だし町から出ることの方が珍しい。


「ダラダラしてるとシスターのババアがうるせえしよ」


「シスターのババア?」


「私は孤児院の出なんだ。


 お前とさほど出自は変わらんさ。


 それで寝てると、お祈りを捧げろとか掃除手伝えとか小うるさくてな。

 結局ここに来て掃除手伝ってんだけどさ」


 そういうことしたくなくて来たのに掃除を手伝っている。

 本末転倒だとリアーネは笑う。


 双子に頼まれるともう断る事はできない。

 リアーネのタイミングが悪かった。


 でもリアーネも不快な様子はない。

 孤児院出身なら他に子供もいるはずなので本来は面倒見も良い人なのかもしれない。


「まっ、掃除云々はいいんだ。


 孤児院でもお前のこと知ってる奴もいたぜ。


 貧民街の神童なんて言われてんだって?」


「俺が自分でそんな風に言ったこと一回もないけどな」


「私も神童って呼んでもいいと思うぞ」


「ヤメテ……」


「ははっ、とりあえずそんなで暇だからお前のことちょっと聞いて回ったんだ」

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