謀反8
ヘンヴェイの物言いにルシウスが眉をひそめる。
「何が言いたい?」
「出来るならお前を倒せれば良かったがそれでなくても俺は俺の役目を果たした。
周りを見てみろ」
ヘンヴェイが何を言いたいのか分かっている。
ルシウスがヘンヴェイに勝ったこと、それでは状況を好転させるには足りない。
もっと早くに勝てれば変わっていたのかもしれないがもう戦況は勝敗が決したのと何ら変わらない状況であった。
完全に敵に包囲されみんなかなり体力を消耗している。
グルゼイとリアーネですら例外でなく仲間を殺された恨みの目をした兵士たちに対して防戦を強いられている。
ヘンヴェイは勝てるなら勝てばよいがそうでなくとも1番厄介だと思われるルシウスを戦闘に参加させなければそれで良かった。
「もうすぐ本隊も着くだろう。
そうなればお前たちは終わりだ」
「いや……王がいる限り終わりではない」
「何だと?」
「バランドール!
王を連れて……」
もはや全員の生存は望めない。
グリフィンに乗せて行けば王様ぐらいなら助けられる。
自分の魔獣の方を振り向いたルシウスは絶句してしまった。
「その判断は最初に下しておくべきだったな」
無様な光景。
うつ伏せに組み伏せられたミノタウロスは何と後ろ手にグリフィンの体を掴んで離すまいとしている。
情けない抵抗のように見えるがミノタウロスの目からは決死の覚悟がうかがてる。
上からグリフィンが蹴り、爪が食い込んでもミノタウロスはグリフィンの体を離さない。
「行かせるか!」
「まだこんな力が……」
グリフィンを助けに行こうとしたルシウスにヘンヴェイが力を振り絞って襲いかかる。
「観念するといい、お前も、お前の守ろうとする王もここで終わるのだよ!」
ヘンヴェイが振り下ろす斧には最初のような力強さはない。
なのに奇妙な威圧感を感じる。
死も覚悟した人間の目をしている。
「おい! そのガキを捕まえろ!」
「いてぇ、切られた!」
「なんだぁ?」
終盤に差し掛かって戦いも静かになってきていたのに再び一部がざわつく。
ヘンヴェイが視線をチラリと向けるとジが兵士を切り付けながら隙間を縫うように移動していた。
「ふん、あんな子供まで引っ張り出してくるようじゃ……」
「王様、ビクシムという人が準備ができましたと!」
「なに……何の準備が出来たって……?」
近づかなくとも聞こえたのではないかと思うほどに、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
これが最後の希望。
ジにも何の準備が出来たのかわからない。
渓谷を大勢の兵士たちが渡る術をジは想像が出来ないが王様には何か秘策があるのだと信じたかった。
「やっと来たか」
ジの言葉を聞いた王様は、笑った。
「ズドラムドルボ」
「あれは……ゴーレム?」
「避けろー!」
巨大なゴーレムだった。
大きなミノタウロスよりもさらに一回り大きなゴーレム。
ゴーレムが腕を振ると兵士たちがまとめて何人かが吹き飛ぶ。
「ゴーレムだと?
あれはゴーレムなのか?」
王の魔獣は徹底して正体が伏せられていた。
それこそ王の直属の護衛か最側近、ルシウスのような信任を得ていないと名前すら知ることが許されていなかった。
魔獣としてのゴーレムの評価は高いとはいえない。
大きくて頑丈、パワーがあり不平不満を言わず何かを与える必要もない。
一方で簡単な命令はこなせるものの知能がなくて複雑なことができず動きは愚鈍。
極端さを持つ魔獣がゴーレムである。
一般的なゴーレムは岩などの自然物を固めたような見た目をしている。
しかしこのゴーレムは青みの強い黒い艶やかな金属のようなもので出来ていて金色の模様が全身に走っている。
動きは大きい分近くで見ると素早く動いているけれど距離をとってしまえばそんなに素早いわけでもない。
通常個体のゴーレムと違うことは明らかだが戦況をひっくり返すほどのものではない。
人数差もあるのでゴーレムを避けて直接の王様を狙いにいくことも不可能ではない。
「シルチリアン・バウン・ノルスカが命じる。
神が持つ権能が一つを我に貸し給え」
「な、なんだ……!」
濃密な魔力が場を支配する。
「誰かアレを止めろ!」
ゴーレムの体が光り出す。
思わず平伏したくなるこの状況で動けるものなどいるだろうか。
「空間転移」
ゴーレムが放つ眩い光に誰一人として前が見えなくなる。
足が地面から離れて、味わったことのない浮遊感。
高いところから飛び降りた時のようなフワリとした感覚に襲われた。
すぐに足が地面についたのだが、目が眩んで中々状況が掴めなかった。
強く発光するだけなら状況は変わらない。
「王に反旗を翻した者どもよ、降伏せよ!」
目が見えてくると一変した状況が見えてくる。
王様とそれを守るような護衛と雇われた冒険者、それを囲む王弟側の兵士たち。
さらに王弟側の兵士たちを囲むように知らない兵士たちが大勢いた。
何が起きたのか。
掲げられている旗印は国の物。
国王側の兵士たちだ。
剣や槍を構えて王弟の兵士たちに備えていて、一分の隙もない。
「王よ、おかえりなさいませ」
ロイヤルガードの1人、ビクシムが膝をついた。
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