謀反3

 言い争う間に王様はだいぶ通路の先まで逃げているのをスティーカーの気配からグルゼイは感じていた。


「リアーネ、お前も下がるんだ!」


「な、おまえはどうすんだよ!」


「俺なら大丈夫だ。


 ジ、フォローしろ!」


「はい!」


「おい! ガキに戦わせる気かよ!」


 リアーネの言葉を聞くことなくグルゼイはナイフを取り出して投擲する。

 狙うのは明かりをつけられる奴。


 スティーカーの毒が塗られたナイフ。

 ナイフが致命的な場所に刺さらなくても相手は毒によって死に至る。


 明かりが消えて通路が真っ暗になる。


「うぎゃっ!」


「誰か明かりを……」


 小さい悲鳴が上がり、隣にいた兵士の気配が消える。


「何が起きて……」


 暗闇の中、ジは兵士の間を縫うようにしながら小さく兵士たちを傷つけていく。

 ジの手には子供用の真剣。


 これはゼレンティガム家に行った時にルシウスから貰ったもの。

 ウルシュナのために作ったものの1本でウルシュナには合わなかったので貰ったのであった。


 師匠は自分で用意するつもりだったみたいだけどタダで貰えるなら貰っておくのが貧民街の常識である。


 そして剣を持たない手には小さな小瓶。

 ジはその中身を剣にかけた後兵士を切りつけていた。


 子供の力でちゃんと鎧を身につけた兵士を一撃で倒していくのは難しい。

 なのでグルゼイはジに瓶に貯めたスティーカーの毒を持たせていた。


 ジが下がって今度はグルゼイが前に出る。

 1番前にいる兵士を切り倒してグルゼイもすぐに下がる。


「何が起きているんだ……?」


 少し遠くにスティーカーの明かりが見えるだけで隠し通路は今真っ暗な状態。

 何が起きているのかリアーネの目には映っていないが人が苦しむ声と倒れる音だけが不規則に聞こえてくる。


「リアーネさん、もっと下がってください」


 近くでジの声が聞こえて体がびくりとする。

 先に下がっていたはずのリアーネのところまでジたちも下がって来ていた。


「おい、どうしたんだ」


「う、か、体が熱い……」


「前の奴ら何してるんだ!」


 兵士は暗闇の中統率が取れていない。

 ジとグルゼイがどうして暗闇でも動けるのかというと、2人は目で見ているのでは無く、魔力を感じ取って周りを知覚しているからであった。


 揺れる魔石を視界を奪った状態で避け続けたこともこんなところで役に立つとは。


「毒だ!」


 状況も把握出来ていない兵士たちの様子を見てジは好機だと思った。


「ど、毒だと?」


「前の方に毒が撒かれている、下がらないと死ぬぞー!」


 声は明らかに子供なのだが兵士たちはそんな声の主よりも発言内容しか聞いていない。

 確かに近くにいるやつが苦しんでいる。


 どんな毒なのか、どうやって毒に犯されたのか確認する方法はなく、兵士たちにただ毒があるという恐怖だけが伝播し始める。


「また毒が撒かれた、逃げろー!」


 グルゼイに毒を散布する能力はない。

 しかし何も分からない兵士たちはジの発言に踊らされて我先にと逃げ出した。


 この狭い通路で毒を撒かれたら助からない。

 事情を知らず逃げ遅れた兵士を踏み付けるようにして兵士たちは部屋まで退却していった。


「今です行きましょう」


 グルゼイもリアーネもポカンとしていたが2人とも経験が違う。

 すぐに疑問を押しやって動き出す。


「ライト」


 ジが魔法を使って足元を照らす。

 相手が冷静さを取り戻したらすぐにでも追いかけてくる。


 早く逃げなければならない。


「グルゼイ!」


 隠し通路を出るとルシウスが待っていた。


「お前何している。さっさと王を逃がせよ」


「足止めするつもりでここに残っていたのだ」


「少しの間は追ってこないだろう。


 行くぞ」


「いや、ちょっと待ってくれ」


 早くこの場を離れようとするグルゼイをリアーネが止めた。


「なんだ?」


「ただ逃げるよりももっと良い方法がある」


 リアーネは背中の長剣を抜いて、魔獣を呼び出す。

 赤い瞳に真っ黒な毛、四足歩行の狼のような魔獣、ヘルハウンドであった。


「ケフベラス、どデカいの1発いくぞ!」


「あっ……」


 ケフベラスが魔法を使い、リアーネの剣が黒い魔力に包まれる。


「地を裂き山を割る!


 通路で役立たなかった分の活躍さ!」


 そのまま振り上げた長剣で地面を叩きつけた。


 爆発するような衝撃がリアーネの前方数メートルに発生する。

 地面が大きく窪んでしまっているがこれはリアーネの攻撃の破壊力だけではなかった。


 リアーネの攻撃によって地下通路が崩れてしまったのだ。


「これで追ってこられないだろ」


 ヘルハウンドと黒い魔力。

 それを見てジはようやく思い出した。


 リアーネのことをどこかで見たことがある気がしていたのだがその正体が分かった。


 リアーネは敵だ。


 正確には過去ではリアーネは敵だった。


「凄いな。


 ジ、ほうけてないで行くぞ!」


「は、はい!」


 戦争は多くの英雄を生み出し、また多くの英雄を殺した。

 戦争によって英雄になったけれどそのまま戦争の終わりを見ることなく死んでいった者も数多くいる。


 リアーネもそんな戦争に散っていった英雄の1人と言える。


 過去においてリアーネは王弟側の人間だった。

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