遠征3

「1つ約束をしてほしい。


 受けるにしても受けないしても、このことは口外しないでくれ」


「……分かった。


 ジもいいな?」


「はい」


 うなずく。

 真面目な雰囲気が漂い始め、ルシウスが使用人を下がらせる。


「今の王がどうやって王になったか知っているか?」


「……この国にいれば嫌でも耳にするだろ」


 この国の現在の王はクーデターで王位についた。


 とは言ってもちゃんとした王位継承権を持った人であったし、前王が特別悪政を敷いていたわけでもない。

 しかし王座の安定を図った前王は現王のことを殺そうとして失敗、結果として逆襲されて現王が勝利したのであった。


 国内はだいぶ混乱したのだが現王が優秀だったおかげで早く平穏を取り戻しつつあった。


「今の王には弟君がおられることも知っているな?」


「ああ、やたらと美化された話を聞いたことがある」


 美しき兄弟愛。

 腹違いの兄に命狙われて兄弟が力を合わせて乗り越えるという話。

 

 勝手に国王の変な話を広めることはできない。

 なのでこの話は国王、あるいは国王の弟が広めたということが予想できる。


「命を脅かされている時に確かにお二方は仲が良く、戦争が終わってからも兄である今の王が王座につき、弟君は離れた領地を受け取り静かに暮らすことで納得していた。


 しかし最近どうにも弟君の方に怪しい動きが見られるのだ」


「…… 欲が出てきたか」


「まだ確定的なことは言えない。


 食料を集めていたり、兵力を強化していることは分かっている。


 経済が安定してきたので非常時に備えて食料を備蓄しているなんて言われればそれまでだし、実際こちらの内紛の隙を隣国が狙っていたのは確かだから戦力増強していることも責められない」


 「それで、何があって護衛が必要なんだ?」


 危険が分かっているなら護衛を増やせばいい。

 そんなことは誰でも思いつくが国所属の兵士なんていくらでもいるし強者だって多い。


 わざわざ冒険者をひっそりと雇う必要もない。

 裏の部隊を待機させておくことはない。


「近々その弟君の生誕を祝う宴が開かれる。


 そこに王も招待されたのだ。


 これまでは中央と距離を置き、贈り物をするだけだったのにいきなり今年は是非来てほしいと言ってな」


 怪しい内情の変化にこれまでなかった招待。

 まず疑うには十分だった。


「誕生の宴が開かれる場所はキャスパン城。


 今は弟君が持つ所領の中にある古城の1つだが、元は2人が小さい頃を過ごした思い出の地でもある」


 悪知恵を吹き込んだのは西部にある大きな領地を持つ貴族だった。

 新たなる国王を立てて自分が側近になる夢を見ていたと噂されていたのだが一部では隣の国に唆されたのではないかとも言われていた。


 王位を脅かしうる者として監視下にある以上こっそりとでもクーデターの準備をすることは難しい。

 なので逆に調べる時間を稼ぐ言い訳を並べ立てて素早く準備を整えた。


 散々とお話を流して兄弟の話を美化してきた。

 実際のところはともかく表面上は王と弟君は仲が良いことになっている。


 誕生の祝いを思い出の城でやるから来てほしいなんて招待があったら断るわけにいかないのだ。


 ただ単に呼び出しただけじゃない。

 キャスパンは王を制限にするのにもちょうど良かったのである。


 キャスパンの周りは自然豊か。いわば田舎。

 周りは小さい町があるぐらいである。


 城で祝いの宴をやるだけでなく、町でもお祭りを開催すると王弟は宣伝した。

 これが曲者の作戦だったのだ。


 祭りがあるとなれば人が集まる。

 王以外にも招待客は来る。


 しかしそんなに多くの人を受け入れられる余裕がキャスパン周辺にはない。

 城も大きな城ではないので結果として王弟はこのように王に要求した。


『警備はこちらで厳重にするので連れてくる護衛の兵はあまり多くしないでもらいたい』


 城である程度の人数を収容する代わりに他のところは招待客の兵力や観光に来た人たちに譲りたいと理由をつけた。

 分からないでもない話。


 クーデターを疑っているから兵力を減らせないなんて言うことが出来ず結局王は必要な数だけ揃えて死地に向かった。


 その結果クーデターは起き、王弟は失敗して最後は討ち取られるのだが、それはジの知る過去のことである。


「全てが疑うに足る情報ではないのに全てを合わせると1つの疑いになる。


 ということで私は個人的に王弟を調べて、どうにも今回のことが不安に思えて仕方がなかったんだ。


 ……実は私のところにとある筋からキャスパンに関する情報もあって、キャスパンへの護衛を任された時に引っ掛かりを覚えたのだ」


 過去にこんな裏部隊がいたかどうかは定かではない。

 多分疑わしくても行動はしなかったと思うのでここまで準備をすることはなかったはずだ。


 こうした行動をとった原因は全てジにある。


 ウルシュナにキャスパンのことを伝えるように頼んだ。

 それがルシウスに疑念を抱かせた。


 ジがいたからグルゼイは冒険者として活動を始めてルシウスに再会した。

 双子を助けて家に住まわせたことでお金が無くなりグルゼイは身入りのいい仕事を探し、そこにルシウスは目をつけた。


 この状況を生み出した大きな要因は確実に自分であるとジは確信した。

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