騎士の誓い2
「たまたま知っていただけです」
「謙遜しなくてもいいですよ。
あなたの世話は楽だと他の者も申しておりましたしその年頃にしては出来た子です」
神殿を利用する層の貴族の子供は一般的にわがままな子が多い。
なので怪我をしたりして神殿に泊まることになっても神殿がまるで高級宿のように振る舞うような者もいる。
今はジも伯爵持ちの患者なので担当神官も普段から貴族を相手している神官である。
些細なことにも礼を言い、わがままなことを何一つ言わないジの評価は神官の間でも高かった。
神官たちの苦労がよく分かるようである。
「今日は何かありましたか?」
「はい、ですが用があるのは神官長様ではなく、パージヴェルさんにです」
リンデランの命の恩人であるが、リンデランに近づく馬の骨。
複雑な思いを抱えてジを見ていたパージヴェルと目が合う。
「そうですか。こちらの話は終わったので私は失礼します」
ではよろしくお願いしますね、とパージヴェルに念押しをしてアルファサスはその場を離れていった。
「私に話とはなんだ?」
「まあまあ、立ち話もなんですから俺が泊まっている部屋にでも行きましょう」
訝しげにジを見るパージヴェルだが別に娘さんをくださいとか言うつもりはない。
部屋に戻るとエとリンデランは未だに言い争いを続けていた。
「ちょっと2人とも、俺はパージヴェルさんと話があるから少し部屋から出てもらっていいかな?
あと濡れタオルは置いといてくれたら自分で拭くから」
2人を押し出すようにして追い出してドアを閉める。
パージヴェルにイスを勧めてジはベッドに座る。
今は自分が泊まっている部屋だし、まだ病人扱いされているのだからベッドに座って話したところで無礼とは言わせない。
「それで話とは?」
「パージヴェルさんの家は元々商家であって、今でも商いは続けていますよね?」
「そうだがそれがどうした。何か欲しいものでもあるのか?」
「欲しいもの……そうとも言えるかもしれません」
「何だ、もったいつけて」
「俺は共同事業者が欲しいんです。
出資と技術者を用意することのできる」
ーーーーー
パージヴェルの家は商家であった。
パージヴェルの祖父が豪腕の商人であって大成功を収めて、王家や国に大きな金銭的な支援をしたことで爵位が与えられた貴族であった。
父は祖父の血を受け継ぎ出来た商人で貴族に馴染んでそちらにも商売を広げた。
一方パージヴェルはそんな祖父と父から商才をあまり受け継ぐことがなく、その上そろばんよりも剣を好んだ。
長兄でもあって家を受け継ぐ立場のパージヴェルは度々小言を言われていたのだがそのタイミングで大きな戦争が起きた。
貴族は一定数の兵力を出す義務を課された。
パージヴェルの家も爵位を与えられている以上義務を避けることはできない。
他の貴族と同じくお金で傭兵を雇って兵力を出したのだがパージヴェル自身も出兵に参加することを希望をした。
パージヴェルの父はもちろん反対したのだがパージヴェルの熱意としつこさに根負けしてとうとう許した。
パージヴェルは雇われの傭兵たちと共に戦場に赴いたのである。
王国だけでなく貴族からも兵を出させて盤石かに思われた戦いは思わぬ展開を迎えた。
相手国の現在の王である当時の王弟が獅子奮迅の活躍を見せて戦況は均衡を保ち思うように進まず、戦争は長引いた。
その中でもパージヴェルは生き残り、敵を倒して戦果を上げた。
戦いの中で魔獣は進化を遂げて首級を上げると、まもなく戦争は終わりを迎えた。
パージヴェルは戦争の功績が認められさらに上の爵位が与えられることとなり、新たな家門として独り立ちもできたのだが自分の生まれたヘギウス家のまま爵位を受け取った。
現在はパージヴェルの弟が商会の会長を務めている。
そして神殿を退院したジはパージヴェルの紹介でヘギウス商会の会長の元を訪れていた。
パージヴェルにしたのはジが考えている事業の提案でその話をしたところ興味を持ち、商会長であるパージヴェルの弟を紹介してくれることになった。
パージヴェルに連れられてやってきたジはスライムを腕に抱いていた。
流石にパージヴェルは顔パスで商会の奥へと入っていく。
その後ろをついて歩くジは明らかに商会には不釣り合いな子供、あるいは何か盗んでこれから怒られるところにでも見えた。
パージヴェルが強めにノックをするとドアが開く。
中から女性が顔を出してどうぞと2人を招き入れた。
「久しぶりだな!」
「お久しぶりです、兄さん」
「相変わらず固いな、お前は」
「痛い痛い……」
「はははっ、元気そうで何よりだ」
パージヴェルの弟と聞いたからには大柄な男性をイメージしていた。
しかし会ってみたパージヴェルの弟は線が細い感じの男性でとてもじゃないが似ているとはいえなかった。
パージヴェルがギュッと抱きしめると折れてしまいそうな感じすらある。
パージヴェルも年なので弟もそれなりに年齢がいっているはずなのだが見た目は非常に若々しい。
若いというには無理があるが若い時にはきっとモテていただろう。
顔立ちの雰囲気で見るとリンデランがパージヴェルの弟に似ているような気がする。
パージヴェルが異常であって血統的な顔立ちはこちらの方なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます