第81話 先輩、遊園地デートです!8

81話 先輩、遊園地デートです!8



「先輩、先輩っ! 見てくださいあれ、マグロさんがいっばい泳いでますよ!! ……じゅるりっ」


「ヨダレ出てるぞ」


「ハッ……つ、ついっ」


 友達同士、家族連れ、カップル。いろんな人達が程よくごった返す水族館の館内を進む。


 少し廊下を進むと、大迫力な水槽の中でマグロが右回りを続けていた。


 魚のギョロ目が苦手、と言っていたえるを水族館に連れてくるのには若干の不安もあったが、どうやら本人はテンションマックスで楽しんでくれているらしい。マグロを見るときだけ舌なめずりをするのはいかがなものかと思うが。


「お、チンアナゴだ。可愛いな」


「え? これ、可愛いですか……? なんかヘビみたいににょろにょろしててちょっと怖いです……」


「俺は好きなんだけどなぁ、チンアナゴ。なんか俺も爬虫類とかは苦手なんだけど、別の可愛さっていうか。チンアナゴはチンアナゴっていう種類で可愛く見えるんだよ」


「……私、先輩が言ってること初めて理解できません」


「酷いな!?」


 チンアナゴ、イルカやペンギンと並ぶくらい可愛いと思うんだけどなぁ。


 そんな感じで熱烈なディスを受け少ししょぼんとする夏斗は、引き続きえると水族館の中を徘徊していく。


 昔は水族館なんて、魚がいっぱいいるだけだろうと思っていたのだが。どうも好きな人と一緒にいると、雰囲気というか、空気感がとても居心地を良くさせている。程よく他の客で静かになりきらないところや、たまたま人がいないコーナーに入ったときに急にシーンとなるギャップや。何より移り変わる彼女の表情を横から見ているだけで、胸がいっぱいになった。


「なあ、える。この後ペンギンショーあるみたいだけど、行くか?」


「ペンギンさんですか!? 行きます!! 絶対行きますっっ!!」


「よっし。じゃあ早速向かうか。あと五分で始まるから場所が埋まるかもだし、少し急ごう」


「はぁ〜い! あ、でも私この手は離しませんからね! 少し走ってもいいですけど、手は繋いだままがいいです!!」


「はいはい。心配しなくても、走るほど急がないって」


 予定通りだ。このままペンギンショーに行って、けるには言っていないがそこでは引き続きイルカショーが行われる。きっと見たがるだろうから、それも見終えてから。十分後に、告白するための牙城は完成する。


 告白をする瞬間まであと五十分。時間が近づけば近づくほど、胸の鼓動が高鳴って仕方がない。


 もし、えると恋人になれたら。彼女も自分のことが好きだと、言ってくれたら。


 その時は、今の先輩後輩の関係では出来なかった……踏み込めなかったことを、いっぱいしよう。まだまだえると一緒にいたい。えると、色々な経験をしたい。


 緊張感とは裏腹に、膨れ上がっていく期待。


 仮定形で妄想を続ける夏斗はまだ、運命の五十分後。最愛の後輩からぶつけられる言葉がどのようなものになるのか、想像もしていなかった。


『嫌です。そんなの絶対……嫌ですッッッ!!!』



 まさか、あんな返事が返ってくることになるなんて。

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