第78話 先輩、遊園地デートです!5

78話 先輩、遊園地デートです!5



「ささ、一緒に入りましょう!」


「うぉっ、意外と広い」


 海上(風な水上での)アスレチックであるホエールボールで行うことは至ってシンプル。


 ウォーターボールの中に入り、水上を歩いたり転がったり。以上。


 係員が入り口を閉じると、二人を包んだボールは静かに水上へと流れていく。

 

 そんな様子をただ座って眺めてしばらく。夏斗はゆっくりと立ち上がった。意外と安定感が無くすぐこけてしまいそうになるが、その不安定感がいい。


「える! じゃあ二人で早速────おわっ!?」


「にゃにゃにゃにゃにゃ!!」


 その瞬間。えるは四つん這いで前に進むと、体重移動でボールを動かしてハムスターが走るアレの要領で足元を回す。


 ただでさえ不安定な水上での足場。夏斗はすぐに体勢を崩し、見事に転んだ。えるはチラリと振り向くと、ニヤニヤしながらそれを見て立ち上がる。


「ふっふっふ。ナツ先輩? もう戦は始まっているんですよ! いわばこれは水上の転ばせ合い……その本質を見抜けなかった先輩に、私は倒せな────ひにゃんっ!?」


「隙アリだ。戦場でこうべを垂れるとは未熟者めッ!」


「むむ、むむむむっ! やりましたねっ!!」


 カウンターとばかりにボールの表面を強く叩いて揺らし、えるを転ばせた夏斗に。自信満々で説明していたえるはぷくりと頬を膨らませる。


 そしてそこからは、戦争であった。


 お互いに攻守を繰り返す究極の転ばせ合い。時にはえるが全力ダイブでボールの角度を変えたり、夏斗が全力疾走してついて来れないようにしてからボールの高速回転でえるをばたんきゅーさせたりと。


 分かってはいたことであったが、決着はすぐについた。当然だ、現役運動部の夏斗に、超絶運動音痴のえるが勝てるはずもない。やがて降参したえるは、「ひぃ、ひぃっ……」と切れ切れの息を吐きながら。大きな呼吸で身体をピクピクさせていた。


「ふんっ。運動系でえるが俺に勝とうなんて百万年早いな」


「ずる、ひ……ですっ。はぁ、はっ……せん、ぱぃ……大人げない、れすぅ……っ」


 身体を大の字に広げ寝転がるえるの降伏の意志を汲み取った夏斗は、少し息切れしながら隣に座る。


 チラ、と横を見るとえるの豊満なものが大きな呼吸と共に揺れていた。ぷかぷかと浮かぶ密室の中、夏斗はどこか目のやり場に困り始めて下を向く。


(コイツ……小さいのに、本当に大きいな……)


 えるの身長は百五十二センチ。身長順にクラスで並ぶと一番前で、中学生レベルの小柄な女の子である。


 だというのに、この巨峰。高校一年生だというのにそこだけを除けば上級生にも負けておらず、普段からもぽよぽよとよく揺れている。男の目には、間違いなく毒だろう。


「……今ですッッッ!!」


「へっ? おわぁぁぁっ!?」


 と、男子高校生独特のピンク脳内に思考が支配され始めていたその時。えるの細い両手が、夏斗の脚に絡みついた。


 脚を伸ばし座っていた彼の上に、瞬発的な動きで跨るえる。一瞬の出来事に呆気に取られて動けなかった夏斗は、完全に上を取られて馬乗りされた。


「ひぃ、ふぅっ。へへ、油断しましたねっ。これ、はぁ……疲れた、と、思わせる……作せ……ぜぇっ、なんですよっ」


「い、いや、あの……えっと?」


 ぷるんっ、ぽよんっ。




 前のめりになる彼女のたわわが、顔の前でたぷたぷと。揺れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る