第68話 夏斗、肉奢る準備しとけよ

68話 夏斗、肉奢る準備しとけよ



 テストが終わってから、一週間が経過した。


 今日は全教科一斉のテスト返却日である。


「まずは、天音」


「はーい」


 担任の先生に出席番号順で一人一人全員が呼ばれると、全教科の採点済み答案用紙と模範解答が渡される。


 それからは各自採点ミスの確認をして、全員が問題なければそのままホームルームで晴れて放課後だ。


「夏斗、お前のが返ってくるまで待っとくわ。ま、俺の勝ちは確定だろうから肉奢る覚悟は済ましとけよ」


「ぐぬぬ、嫌味な奴め……」


「はいはーい、私も混ぜてー!!」


「柚木? お前が入ってきても一教科も勝てないからやめとけ。最悪泣く羽目になるぞ?」


「酷いっ!?」


 そんなこんなで、全員が裏向きにテストの答案用紙を渡されて。まだ点数を見ない状態のまま、一教科ずつ開示を始めた。


「じゃあ、まずは現国。……そらっ!」


「頼むっ!」


「にゃぁぁぁ!!」


 悠里から順に、九十二点、八十五点、六十点。


「ひゃっはぁ!! いきなり九十点越えだゴラァ!!」


「ぐぬ、八十五点も低くないはずなのに……って、柚木が六十点!? すげぇ!!」


「にししっ、努力の成果ですよこれが!」


 ニヤニヤとさも自分が一位だったかのように、紗奈は勝ち誇る。夏斗は彼女の頑張りをしっかりと形で見ることができて喜んだが、そんなことどうでもいい悠里はさっさと流して次の教科に移った。


 そして、三人で九教科全ての結果を開示した結果。


夏斗


国語 85点

数学 62点

英語 63点

生物 80点

化学 58点

古典 72点

日本史 90点

公民 75点

保健体育 70点   計655点


悠里


国語 92点

数学 78点

英語 70点

生物 90点

化学 62点

古典 74点

日本史 88点

公民 77点

保健体育 80点   計711点


紗奈


国語 60点

数学 48点

英語 48点

生物 70点

化学 52点

古典 55点

日本史 62点

公民 46点

保健体育 56点   計497点


「よっしゃ、日本史以外完封じゃぁぁぁぁ!!!」


「うっ、なんでだ。前より明らかに点数が上がってるのに悠里のせいで薄れるッッ!!」


「ぜ、ぜぜぜ全教科赤点回避だよぉ!? わ、私が赤点取らずに試験終えられるなんて……奇跡だァァァァァ!!! ありがと早乙女ェェェェッッッッッッ!!!!!」


 狂喜乱舞である。見事に圧倒的な勝利をもぎ取った悠里、負けてある意味やけくそ気味に叫びつつも、どこか嬉しさが捨てきれない夏斗。そして、人生で初めて赤点無しで定期試験を乗り切った紗奈。


 全員が、自分の中での目標をしっかりと達成した最高のテスト終わりとなった。それからもしばらく三人であれやこれやと盛り上がり続けて、もはや担任は注意するのを諦めたほどである。


「早乙女ぇ! やっだ、私やっだよぉ……!!」


「うぉっ!? ちょ、泣きつくなって!」


「びえぇぇぇぇぇ!!!!」


 最高の幕締め。夏斗が焼肉を奢らされることを除けば何もかもが完璧かのように見えた。


 だが、現実はそう上手くはいかない。必ずどこかで、落とし穴が用意されているものなのである。


 そしてそれは今、彼ら三人の見えないところで。夏斗にだけ突き刺さる形で、矛先を向けていた。


「う、そ……なん……で?」


「え、える……」


 階の離れた、一年生の教室。そこでは一人、絶望の淵に駆られ声も出ないほどの絶望を味わう者が一人。


「こんなの……嘘だよ。だって、私……私ッッ!!」



 夢崎える。国語、四十九点。

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