第66話 先輩、打ち上げパーティーです!
66話 先輩、打ち上げパーティーです!
いやいや、勘違いするな。女の子っていうのは、そういう生き物なんだ。
どれだけ好意を向けてくれていても、それが恋愛感情に結びついているのかは本人にしか分からない。それを他人が百パーセント知ろうと思ったら、それこそ心を読みでもしない限り不可能なのだから。
「い、行きましょうか。先輩」
「そう、だな」
少なくとも、あの子はそうだった。
えるに告白する。それは絶対に曲げない。けれど、変に期待しすぎたら断られた時、確実に心が痛む。
そうして、あの日初恋は砕かれたのだから。
「お腹、空きましたね。早くピザ食べたいです! チーズむにーって伸ばして、いっぱい!!」
「俺もそれやりたいな。ハ◯ジのチーズみたいな」
自分に言い聞かせ、なんとか心を落ち着かせた。
一瞬、本当にこの子はもしかしたら自分のことが好きなのでは……なんて思ってしまった。
(どうせ、あと一週間したら分かることなんだ。もしフラれても傷つかないように、変な期待は……)
ズキッ。心臓を抉られるような痛みが走った。
『ごめんなさい。先輩のことは、そういう目で見れません』
想像してしまった。あの子のように、えるが自分のことをフる未来を。
傷つかないように? 無理だ。こんなに好きになってしまった人にフラれたら、どう足掻いたって心が抉られる。きっと引きこもって、ずっと引きずってしまう。
それくらい。狂おしいほどに、好きな人なのだ。この、隣にいる女の子は。
「先輩? あの、どうかしましたか? なんか顔色が……」
「い、いや。なんでもない。ピザ、楽しみだ」
考えるのはよそう。今考えたって、結局未来がどう転ぶかなんて分からないのだ。
きっと恋人になれたら、今まで以上に仲良くなれるだろう。フラれたら、もうこんな風にずっと一緒にはいられないだろう。
なら。一緒にいられなくなる可能性が、少しでもあるなら。今はそんなこと考えずに、全力でこの関係を楽しもう。
おとなりさんで、ただの仲がいい先輩と後輩。そんな関係性でいられるのは、どの道あとほんの少しの時間なのだから。
夏斗は気持ちを切り替え、一抹の不安を心の奥にしまって。再び元気を取り戻すと、えると一緒に電車に乗った。
お店には、駅に着くとすぐだった。歩きでおよそ一分。飲食店街の並ぶそこで、一際目立つオシャレなお店。それこそが、俺達の目的地だ。
「お待ちしておりました。二名でご予約の早乙女様ですね。こちらはどうぞ」
「さ、早乙女様二人……! 早乙女、える……」
「える? 何ニヤニヤしてるんだよ?」
「はわっ!? ニヤニヤなんてしてませんから!! ほら、早く歩いてくださいっ!!」
「お、おぅ?」
やけに急かす彼女の態度に違和感を持ちながらも、夏斗は店員の指示に従い席に着く。
奥に夏斗、手前にえる。向かい同士で座って、メニューの説明を聞いてから予定通り食べ放題を選択。注文してから作ってくれるタイプの食べ放題なため、初めにマルゲリータピザと照り焼きピザを頼んでおいた。あと、ドリンクでリンゴジュースとグレープジュースも。
「ふふんっ、ふふんっ♪ 先輩とピザ〜」
えるは、子供のようにはしゃいでいた。やがてピザとドリンクが届くと、そのテンションは最高潮。そして、リンゴジュースの入ったグラスを持って夏斗に向けて差し出すと、目で訴えた。
「なんか、パーティーみたいで興奮するな」
「パーティーですよ! 先輩と私、二人っきりの打ち上げパーティーですっ!」
チンッ。二つの合わさったグラスが、音を立てた。
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