第31話 先輩、かっこいいところを見せてください
31話 先輩、かっこいいところを見せてください
ブオォン。ピコッ、ピコンッ。
ゲームの起動音とともに画面に様々なアイコンが表示される。
それらはこの本体に登録されているソフトが何なのかを示しており、表示されたのは四つのアイコン。
「ユリオカート、スマファザ。体験版だけ入れて今は期限切れになってるやつと……あとはこの前買ったホラゲか。える、どれがいい?」
「うーん、悩みます……。誰も名前は聞いたことあるんですけどイマイチ中身が分かってなくて」
「あ、そっか。まあユリカーとスマファザはまず操作から覚えていかなきゃいけないし、一番簡単なのはこのホラゲのでろでろハザードだけど。ホラゲはダメだよな」
「? なんでですか?」
「え? だって……」
お前、ホラー苦手だろ? と言おうとした口を紡ぐ。
さらっと口にしようとしたが、彼女がホラー嫌いというのは完全に憶測である。実のところはそういう話題になったことが無いので分からない。
ちなみに夏斗は苦手だ。苦手なくせに興味本位で買ってしまい、なんやかんやと手をつけられずに一週間が経過している。今開いてもまだニューゲームなそれなら二人の中でプレイヤースキルの差なんかは無いし、共闘するにはいいにはいいものの、というやつだ。
「先輩、ナメてもらっては困ります。私はホラー大丈夫な人ですよ?」
「マジか。なんというか……めちゃくちゃ意外だ」
「そういう先輩は勿論苦手じゃないんですよね? ゲームまで買ってるわけですし」
「い、いやぁその……あはは」
「……おや? おやおやおやぁ?」
ニヤり。いつもの天使モードから一変、小悪魔モードに入ったえるの顔が、悪戯な笑みに染まる。
気づかれてしまった。さもえるがホラー苦手だろうからやめておこうか面でホラゲを選択肢から外していたが、実は彼がホラー好きではないということに。
「先輩っ。でろでろハザードにしましょう!」
「ぬっ、本当にやるのか?」
「ふふふっ、先輩のかっこいいところを見せてください。私を守ってくださいね」
(コイツ……俺がホラー苦手だと気づいて言ってるのか!? ヤバい。えるがホラー平気だってのは嘘言ってるように思えないしな。なんとかしてユリカーに流れを……)
「ナツ先輩、まさか逃げませんよね? 後輩の前でそんなかっこ悪いこと……しませんよね?」
「うっ!!」
「えへへ、覚悟を決めてください。ささ、ソフトを起動しましょう!」
「ぐぬぬぬぬ……分かった、分かったよ」
分かりやすい挑発混じりのその言葉は、先輩であり年上な夏斗にはよく刺さる。何より好きな女の子にそこまで言われて、年上どうこう以前に男として引き下がるわけにはいかなかった。
えるがホラー好きとは完全に想定外だった。もうこうなったら腹を括るしかない。元々一人では出来ないから開かなかったゲームなのだ。せっかく買ったのだから楽しむいい機会と考えよう。
自分を誤魔化すために心の中で大量の言葉を連ねつつ、コントローラーを取り出す。そのうち一つをニコニコのえるに渡して、ホストプレイヤーである手元のもう一つからボタンを操作しアイコンを選択した。
ドゥゥゥゥゥゥウンッ。
「っ!」
突然鳴る重低音。それから程なくして表示される『でろでろハザード』の文字。「驚かすんじゃねぇぶち殺すぞ!!」と一人でいたなら叫んでしまいそうなほど心臓をバクつかされながら、ソファーに戻り深く腰掛ける。
「先輩の可愛い姿が見られそうで、とっても楽しみです」
「……くそっ」
せめてリアクションを抑えめにして、なんとか持ち堪えないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます