第26話 える、エッチな子になっちゃったね

26話 える、エッチな子になっちゃったね



 それからおよそ三十分後。三限が終わり、保健室に桃花が駆けつける。


 えるは元気にはなったものの、色んな感情が入り混じりながら顔をひたすらに赤くし、一人でもじもじしたり枕をぺちぺちしたりを繰り返していた。そんな可愛い様子をしばらく堪能し、そろそろえるを制服に着替えさせなければ授業に間に合わないことに気づいて、落ち着いたところでカーテンを開ける。


「えるちゃん、ケガはもう大丈夫そ?」


「も、桃花ちゃん!? う、うんもう大丈夫だよ!」


「じゃあもうここで着替えちゃお? えるの制服一式、更衣室から持ってきたから」


「……ありがと」


 桃花はカーテンの内側に入るとそれを閉め、外との視界を遮断する。それと同時に制服を手渡して、布団から出てきたえるに服を脱がせた。


 露出する肌と、黒色の下着。真っ白な肌に対比するように、それでいて一部だけしっかり大人な果実を隠すように。少しだけ大人なその下着にドキッとしつつ、口を開く。


「ねぇ、早乙女先輩とはどうだったの? えるぅ……もしかして大人の階段、登っちゃった?」


「っあぅあぅあ!? お、大人って……そんなわけないでしょ!? ナツ先輩とキ、キスなんてッッ!!」


(大人の階段登るって、もっと先のこと言ってたんだけどな……)


 相変わらずな様子のえるに少し安心しつつ、キスはしていなくとも確かに何かをしていたことへの確信を得た桃花はベッドの端に腰掛ける。そして制服のシャツの上からカーディガンを着る瞬間の無防備な耳に口を近づけ、言う。


「でも、何かあったんでしょ? 正直に話してよ」


「っ……うん」


 それからえるは、ここであった事を全て話した。


 夏斗に抱えられてここに来て、寝かされて。頭をなでなでしてもらったり、少し怒られたり。加えて最後には布団の中に先輩を突っ込んでしまい、捲れた服の隙間からお腹を凝視されてしまった事。おへそに息を吹きかけられて……変な気持ちになってしまいそうになった事を。


「えるのおへそ、かぁ。……早乙女先輩、災難だったね」


「わ、私のおへそ見てなんで災難なの!?」


「ん? 知りたいならちょっとお腹出してみ」


「うん……」


 ペラッ、と制服を捲り、お腹を露わにする。ほくろもシミも何一つ無い真っ白なお腹の真ん中には小さなおへそが。細く華奢な彼女のすべすべで艶のあるそんな色っぽいお腹に桃花はそっと人差し指を近づけると、つぅっ、となぞる。


「ひにゃぁぁっ!? ん、んぅ……っ!?」


「ほら。える反応がエッチだもん。早乙女先輩、よく理性を保てたもんだよ」


「い、いきなり触るからでしょ!? 別に私がエッチな訳じゃ────」


「ほれ」


「ん、あっ……クリクリ、やめっ。くすぐった……ひぃんっ!?」


 おへそを少しクリクリされただけで根を上げ、身体を震わせるその姿には同性の桃花ですら思うところがある。これを目の前で喰らったのが男だと言うのだから、改めて気の毒だと思った。


「もう、いつからこんなエッチな子になっちゃったの? 敏感なのはそのよわよわメンタルだけにしてよね」


「うっ、うぅ……違うもん……私、エッチじゃないもん……」


「はいはい。ほら、そろそろ行かなきゃ授業遅れるよっ」


 カーテンを開き、先に一人出た桃花は早くついてこいとえるに催促する。そうして手を引き、先生に一言声をかけて保健室の扉に指をかける。


「先生、えるがお世話になりました。診断書、貰っていきますね」


「あ、あぁ。お大事に、な……」


「? 先生、何かありました?」


「ふぇっ!? な、何でもないよ! 気にしないでくれ……」


「そうですか? じゃあ私達はこれで」


 千秋のいつもと少し違った、どこか動揺しているような顔を見て不思議に思いつつも、桃花はえると部屋を出る。


 ちなみに二人がいなくなり、ぽつんと一人保健室に残された千秋はというと。


「最近の子って、進んでるんだなぁ。ま、まさか高校生のうちからあんな……同性で付き合ってる上、え、えっちぃ事まで……」



 盛大に勘違いを拗らせていた。

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