第21話 後輩、ケガをしたのか!?
21話 後輩、ケガをしたのか!?
「では、今日は三権分立について。教科書二十ページを開いて────」
「……はぁ」
憂鬱な授業に小さくため息を吐くのは、窓際の席で外を見つめる夏斗。
外ではどうやら女子が体育をしているらしく、そろそろ暑くなるこの季節にしては厚着なジャージの一年生達が、皆んなで揃って準備体操をしていた。
(へぇ、体育か。俺も身体動かしたい……って、あれは!?)
なんとなくぼーっと眺めていただけの夏斗の視線に飛び込んできたのは、少し丈の長いジャージに身を包んだ美少女。隣の女子と楽しそうに話しながら体操をしていたのは、えるであった。
ぽよ、ぽよと上下する果実に遠巻きながらも意識を吸われる。身長はあれだけ低くて小柄だと言うのに、ジャージ越しでもはっきりとわかる巨峰。とんでもない破壊力だ。
(お、サッカーやるのか。一人一球ボール持って、リフティングからか?)
体操を終え、先生の声かけからとてとてと歩き出すえるが手に取ったのは、籠の中に入っていた大量のサッカーボールのうちの一個。周りはぽんぽんとリフティングを始めていて、跡を追うようにえるもボールを蹴り始めた。
(……ぷふっ。アイツめちゃくちゃ下手くそだな。一回しかできてないし。ボール取りに行ってる時間の方が長いんじゃないのか?)
えるは大の運動音痴。それに球技も例外ではなく、手で持ったボールを脚に落とすだけで変なところに当ててどこかに飛ばしてしまうその姿を見て、夏斗は小さく笑った。
ちなみにその横で未経験にも関わらず器用にボールを蹴っている者が一人。バドミントン部所属、桃花である。彼女の方はえると違って球技が大の得意で、リフティングも十数回は安定して出来る。えるのあまりに酷い惨状を目にした先生がやがて近づいていくと、桃花に教えてやるように言っていた。
「じゃあ次はドリブル練習! みんなボール持ってコーンの後ろに並んでー!!」
夏斗が少しだけ窓を開けると、先生の大きな声が聞こえてくる。昔バスケでもよくドリブル練習をしていたことを懐かしみながら、女子達がコーンをジグザグに通って進んでいくのを眺める。
(あ、やっとえるの番。アイツ、大丈夫かな……)
ピッ、とホイッスルが吹かれると共に、ゆっくりなペースでえるがドリブルを始める。右足のつま先でゆっくり前にボールを進ませて、次は左に行くために左足で。その次は右足に戻して。遅くはあるものの順調に半分ほどを終え、意外にやるじゃないかと夏斗がどこか誇らしい気持ちになったのも束の間。
(っ!? こけた!!?)
繰り返される左右運動に脚をもつらせたえるが、どてっ、と腕を伸ばしてずっこけた。うつ伏せになったまま立ち上がれないえるに駆け寄った先生と桃花によってゆっくりと起きあがらせられるが、その顔には涙が滲んでおり、ズボンの膝部分も少し穴が空いているように見える。
(け、けが!? える……えるッッ!!)
ガタッ。居ても立っても居られなくなった夏斗の身体が、本能的に立ち上がる。本人も予期していなかった行動にクラス全員の視線が集まり、そこでようやく自分が注目されてしまったことに気づいた。
「どうかしましたか? 早乙女君」
「えっ!? あ、いや……」
もう一度外を見つめると、えるは桃花に抱きつきながら本格的に泣き出していた。どうやら続行不可能と見た先生の判断で、保健室に運ばれることになりそうだ。
(俺が行って何になるんだよって、思うけど。どのみちこんなんじゃ集中して授業なんて受けられねぇ!!)
「先生、ちょっとトイレ行ってきます!!」
「そ、そうですか? 分かりました」
他ならぬえるのため。少しだけ様子を見たら戻ってこよう。そう心の中で呟きながら、夏斗は教室を飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます