第18話 後輩、柔らかい物がッッ!!

18話 後輩、柔らかい物がッッ!!



 えると夏斗。二人きりの下校時間が始まる。


 今日は一段とハードだった練習を終え、少し疲れ気味の夏斗の手を繋ぐえるはどこか挙動不審で、落ち着きがない。


 それも一重に、これから″先輩魅了作戦″を実行しようと緊張しているからである。


「える、どうかしたのか? なんか顔ちょっと赤いぞ? もしかして熱とか」


「ち、違います! その、ちょっと今心を整理してる途中で……」


 すぅ、と小さく息を吐いて、決意を込めた目でえるは夏斗を見つめる。彼は何が何やらと言った様子で不思議そうに視線を返していたが、やがて互いの視線は外れて。その代わりにえるの小柄な身体が、急速に接近した。


『えるが先輩に唯一勝てると思ってるところ、あるでしょ? それを押し当てて先輩を魅了しちゃおうよ。健全な男子高校生が女の子のおっぱいに反応しないなんてこと、絶対にないんだからさ!』


 桃花の言葉を思い出しながら、えるは胸元を夏斗の腕に押し当てて固定する。腕に抱きつくような形で身体を寄せ、少し恥ずかしくなりながらも必死の上目遣いで反応を伺った。


「わっ、える!? なんだよいきなり!?」


「……甘えたく、なっただけです。今日は家の前までずっとこうさせてもらいます」


 紗奈に勝てると自信を持って言える、唯一の武器。甘い匂いをふわりと漂わせながら、えるは二つの果実で腕を挟むように身体を添わせる。心臓がバクンバクンと暴れている。柔らかな胸元を自ら押しつけるなど、変態だと思われてしまわないかとても怖かった。


(でも……でも! 先輩に意識してもらうんだ! あんな人になんて絶対……負けないっ!!)


 ぽにゅん、ぽにゅんと双丘が上下左右に揺れ、形を変えて吸い付いていく。横をすれ違った男の人に見られてしまってちょっと涙が出そうになったけれど、それもグッと堪えて。これも全ては意識してもらうためだと自分に言い聞かせ、押し当てを続けた。


 それに対して、夏斗は────


(え、ええええるさん!? なんで押し当て……うぉっ!? 柔らかッッ!!)


 めちゃくちゃに意識していた。表情では平静を装っているが、空いた右手でめちゃくちゃに太ももをつねって自我を保っている。


 腕を幸せが包んで離してくれない。チラリと横目でえるの小さな顔を見ると、恥ずかしそうにしながらもどこか必死で。言葉では言い表せないほどに可愛すぎた。


(わざと、なのか? わざとその爆弾を擦り合わせているのか!?)


 何故えるがこんなことをしているのかは分からない。しかし、意図的に胸を当ててきているのは確かだった。わざとじゃないならあんなに顔を赤くはしないだろうし。


 しかしそれが何故なのかなど、今はどうでもよかった。もう頭を回せるほどの余裕はない。それほどに、今左腕を包んでいる物の包容力は強すぎる。


「先、ぱぃ……どう、ですか?」


(どうですかって何!? 俺は何で返せばいいの!? 何、今までの人生の中で一番幸せですって素直な気持ちを吐けばいいのかァァ!?)


 夏斗が表情を消そうとするたび。えるはこの程度では自分を意識してもらえないのだと勘違いし、胸の圧力を強める。


 正に負の連鎖。いや、夏斗にとっては幸福の連鎖か。


「そ、その、な。柔らかいのが……当たってます」


「現状を説明してください、なんて言ってません。どうなんですか? 私のこと……柚木先輩よりも────」


 ごにょごにょと少しずつ声が小さくなっていき、最後の方に至っては夏斗の耳には届かない。なんと言ったのか、もう一度聞こう。そうして彼が口を開こうとした、その時


「あっ」


「へ……?」



 出会ってしまった。横の道から曲がり角で一人合流して来た、火種のクラスメイトに。

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