第11話 コーヒーショップ殺人事件
俺は犯山十三。やたらと狙われそうな名前だが、俺は狙う側だ。
浮気相手に結婚を迫られて女房にバレそうになって追い詰められているが、それでも狙う側の人間だ。そう、浮気相手の命をな。
殺害計画についてだが、他の犯人で『イベント中』だとかの非日常の時間に殺そうとする奴がいるだろ? それじゃ駄目なんだよ。自分のホームで、日常の何気ないひと時に殺さないと、犯人の実力は発揮出来ない。
だから俺は行きつけのカフェのトイレで強盗の犯行に見せかけて殺すのさ。
ここのトイレは絶妙に殺人に優しい親切設計。さらに、もし強盗じゃないとバレても俺は容疑者から外れることができる特殊設計。
ということでやっていきましょう。まずはカフェに入り浮気相手を確認。それを無視して、俺はいつも通りにマスターとダベりスタート。
浮気相手が「トイレどこ?」の合図でトイレに行ったら俺もそれとなくGO。
と思った矢先に他の客が2人もIN。なかなか俺の出番が来ない。
で、俺の後に店に来たチャラい兄ちゃんが「女なんて、ものにしちまえばこっちのもんよー!」つってゲスく笑い始めた頃にようやく俺の番。
さぁ本番だ。ここからは秒の仕事になるぜ。
トイレに入ったら、まずは左手の薬指に“突き指の治療”として着けてきた包帯を解く。
浮気相手が個室から出てきたら、その包帯で首を絞めて気絶させる。
すぐにナイフの付け根に包帯を巻きつける。
次は心臓をナイフで一突きにして殺害。
そうしたら強盗犯の仕業に見せかけるために、浮気相手の鞄を漁って中身をばらまいて、財布から現金を抜き取る。
勿体ないが、盗んだ金をトイレに流す。頂戴したら俺の犯行だとバレるからな。
個室から出て、トイレのドアの上のスキ間から死体を通して投げ入れる。
すぐに包帯を引っ張ってナイフを引き抜く。
そしてナイフから包帯を解いて、俺の指に再び巻きつける。
マジでやることが多い。
次のトイレ利用客に疑われるとマズイから、自然なトイレ利用時間のうちに済まさなければならない。その間わずか40秒。そして何食わぬ顔でトイレから退室。
はぁ、本当に忙しかった。腕、分身してたんじゃないか。一息つきたい。
「うわぁぁぁ!」
俺と交代でトイレに入ったチャラい兄ちゃんの悲鳴が響いた。強盗に遭遇したレベルの悲鳴に、客の中で特に巨漢な俺が駆けつけないのは不自然。行くしかねぇんだよ。息つく暇も無く。
腰を抜かした兄ちゃんの目の前で、トイレの下のスキ間から流れる赤い血。
計算外。命を奪うトリックに使ったのが上のスキ間なら、犯人の休憩時間を奪うのは下のスキ間。
さらに計算外。血に怯えることなくトイレに駆け寄るボウヤが店にいた。しかもそのボウヤ、突然ジャンプしてドアの上のスキ間から個室の中を覗き始めた。
目の錯覚か? トイレのドア、2mはあるんだけど。あのボウヤ、一蹴りで上に届いたように見えたんだけど。そんなボウヤの奇行と神業に目を奪われているうちに警察到着。
その間、わずか数分。向かいのケーキ屋から会計を済ませてカフェに来るまでの時間よりも早く、規制線張ってんだよ警察が。日本の警察、仕事が早ぇよ。
そして始まる事情聴取。まぁこのくらいは想定の範囲内。予想通りにトイレのドアのスキ間を通れるかの実験が始まった。
いや、この展開。つまり強盗犯じゃないことがもうバレたってことだ。日本警察、優秀すぎるだろ。
だが俺はその上を行く。なんてったって、警官も「あんたはどーせ無理だ」と、俺がスキ間を通れないと決めてかかる始末。
容疑者は俺以外のトイレ利用客の2人に絞られた。
にしても聞いていると、どうやら俺の直前にトイレに入った人は弁護士らしく、警察以上に捜査を主導していた(ついでに現場で遊んでいるボウヤを叱りつけていた。
「あれれ~こんな所に血がついてるよ~」
めげないボウヤ。俺が死体を通過させた隙間に血痕を見つけたようだ。子供の着眼点、目の付け所ってどうなってるんだ?
だけどそんな何気ない一言から始まるトリック解析タイム。
「こんな大役が務まるのは、大柄で腕力がありそーな、犯山さん! あなたしかいないわね」
弁護士先生のズバリな宣告に俺は一気に冷や汗。
だが俺はちゃんと話を聞いていた。今の所、証拠が一切提示されていないんだ。そして弁護士先生もまた、この状況で逮捕したとしても証拠不十分。裁判になったら数時間で無罪放免と言ってくれた。
弁護士って、どっちの味方なんだろう・・・
なんて俺が苦笑いしているところに、ボウヤが襲来。
「おじさん、ラグビーで突き指しちゃったんだよねー」
子供らしい無邪気さに少し心和らぐ。そうそう、おかげでこうして結婚指輪ができねー
!? やっちまってた。やることが多くて焦ってたから、包帯を巻き直す指を間違えてた。
そう、わざわざ巻き替えたこの包帯には、浮気相手殺した時に血が付着してんだよ。
こうして、謎は全て解かれた。
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