第二十五話:ロコイサ王国悲劇の残存《一》
罠である可能性も警戒しつつ、悲鳴を聴きつけリンロ一行がやってきたのは森を西側へ抜けた場所。そこは川が緩やかに流れる
(モチャオーチさんの声が聞こえたの確かこの辺からだったけど……)
気を張った面持ちを見せリンロが辺りを見回し歩く中で一瞬眉を上げたと同時に足を止めた。
「モチャオーチさんっ!?」
立ち並ぶ木々の一本に息を切らしたモチャオーチがもたれ掛かるように座っていた。
一瞬我を忘れ声を掛け勢い良く近寄らんとしたリンロだったが、直ぐに自分の置かれた状況を思い出し少し歯を食い縛りながら不満気な様子でその場で立ち止まった。
するとリンロに気付いたモチャオーチはゆっくりと顔を上げてみせた。その表情は相変わらず穏やかで優しい。
「…………君達だって私から逃げなければで警戒もあっただろうに……。しかしまぁ……こんな老いぼれの元に駆けつけてくれて嬉しいよっ、ありがとうね……。
せっかくだからと言っては君達には申し訳ない事なんだがね、少しだけそこからでいいからこの老いぼれの最後の面倒な頼み事を聞いてもらえやしないかな?」
「……?」
モチャオーチのその言葉にリンロは耳を疑った。
「最後って、何もそこまでの状況には…………ハっ! もしかしてモチャオーチさんっ身体のどこか悪いんですかっ!? それなら今すぐっ──」
「いや、別にそういう訳ではないんだっ……。只、私が間もなく死ぬ事はおそらく免れないだろう……。それにこのままだと君達にまで危険が降りかかってしまいかねない。だから最後の頼みを伝えさせてもらったら、君達は直ぐにここから立ち去ってもらえるかい?」
(え? どういう事? 俺達にも危険が降りかかるって……む?)
リンロが辺りを見回してみるがそれといった様子は特になく、とりあえず何も追求せずそのままモチャオーチの話の続きを聞く事にした。
「本当に身勝手な頼みで申し訳がないんだがねっ……良ければ君の今持っているサイコロ人形くんを連れて今年開催されるgoodbuyToy-グッバイトイというレースに君に参加して優勝してもらいたいんだ。
その時に審査員の中にもし【
モチャオーチからのそう頼まれたリンロは渋い顔を見せていた。
「…………」
(何をもってしての最後の頼みなのかは分からないけど……それが本当の最後の頼みだったとして……俺に今引き受けたい気持ちがものすごくあるとして……申し訳ないのですがモチャオーチさん。どうしてもその頼み事は引き受けられそうにありませんっ!ごめんなさいっ!)
そう思うも中々口に出せずにいたリンロの顔下では。
「我に貸される気はないっ、却下だ!」
ロコイサ王のお構い無しの問答無用の意思が示されていた。
【モチャオーチの最後の頼み事】
このきっかけが生まれたのは今より7年前に開かれたgoodbuyToy-グッバイトイでのことである───────
当時開催12年目にして11連覇を果たしていたモチャオーチは、この日も難なく
一人目、二人目、三人目、四人目と子供達の求めていた玩具を届けては子供達の満点の笑顔を次々と引き出してみせ─── そして残った一人がふんわりとした淡い黄色のスカート部分に赤い袖口はワイド・白い花のボタンのつけた緑のメロン色のワンピースに桃色のポニーテール髪の齢4歳の少女【芽ノ橋 リッカンベ】であった。
もはや彼を知っている誰もが的中率100%を疑わない彼自身の直感を信じ本人であるモチャオーチは、彼女ににっこりと優しく微笑み目の前で【サイコロ】を取り出して見せた。
「はいっどうぞっ。これで良かったかなっ?」
しかし。
「違う……」
「…………」
リッカンベの思わぬ反応にモチャオーチは思わず困惑した表情を見せていた。
「……ハズレ、これじゃないもんっ。私が欲しかったのは頭がサイコロのお人形さんだもんっ。あなたは今日からハズレおじさんだもんっ。ハズレおじさんには今すぐ私のぱしゃぱしゃチャメラお目々からハズレてほしいもんっ」
その様子を伺っていた運営の者達は皆困り果てた顔を見せていた。それもそうだった事前に少女から取っていたアンケートにサイコロと書かれていたのが紛れもなく事実であったからだ。
「申し訳がございません、モチャオーチ様。彼女はこう言っていますが事前にアンケートで頂いたものとモチャオーチ様が持ってきて下さったものに相違はありませんので今回の優勝もモチャオーチ様ということで───」
「いやぁ~、それなら私はここで辞退ということにさせて下さいっ。優勝は次に来られた方へお譲りします」
「!? ですがっ」
「私自身、このgoodbuyToy(発音良く)には己の能力を見せつけたりだとか優劣をつけたくてだとかそういう理由で参加しているわけではなくてねっ、ここでしか出会えない子供達がいるから来させて頂いているんですよっ。今日出会えた子供達が本当に欲しいおもちゃを喜んで受け取ってくれて、この場所ではこの子達の笑顔が一番に輝いていなければ意味がないんです」
すっ
リッカンベの前でモチャオーチはゆっくり腰を落とし。
「ごめんねっリッカンベちゃん。良かったら来年もまた来てくれるかい?」
「…………」
モチャオーチはそう優しく声を掛けたが、その日リッカンベは俯き黙り込んだまま彼へと返事を返す事はなく。以降7年間 goodbuyToy-グッバイトイへ姿を見せることはなかった───────────────────
「審査員としての参加資格があるのは満11歳まで……今年であの子は11歳。参加してくれるかもしれない最後の年なんだ……だからどうかっ……」
「…………」
「我には同情の余地もない話だなっ、却下だ!」
断るのが心苦しそうに戸惑うをリンロを差し置いて、再びロコイサ王の容赦のない言葉が彼の戸惑いもろとも空気を一掃した。
「んンンン……えっと、モチャオーチさん……申し訳がないのですが【この
だから……その子に届けてそのままあげるってのはどうしてもできません。何とか出来たとして見せて一瞬だけ貸すくらいになるかもしれないです。それと……届けるなら御自身でその子に届けてあげて下さいっ。お話を聞かせて頂いた上での俺個人の意見に過ぎないんですけど、なんとなくその方がその子のためにもなる気がするんです……だからどうかご了承してネガティブ発言やめて立ち上がって下さい!」
そのリンロのモチャオーチへの言葉を聞いていたロコイサ王は。
「オイ貴様っ! 上手いことをぬかして自分だけこの翁の最後の頼みという呪縛から逃げ覆せるつもりかっ!」
「ありがとう……気持ちは嬉しいけど、届けるのはやっぱり君にまかせるよ」
「えっ……いやっだから……」
「フッ! 貴様は
「それじゃあ、君達はもうお行きなワエァ─────」
ブホオォォーーンッ!!
突然吹いた強烈な風の圧力に優しい声音が押し返され歪んだ。リンロから無音のまま口を動かしているようにそう見えたモチャオーチの前には、既に石膏で作られた枯れ木のような物騒な大きな骨の手が広がり迫っていた。
バりりりりィィィッッ!!!
鋭利な両の手十指の爪の先が太い木の幹を突き刺し、モチャオーチを籠に閉じ込めるかのように覆い始めたその時───
バギギギギギンッッッ!!!!
そんな音がモチャオーチを包むその両手の中から鳴った。
直後まるで組み立てる前のプラモデルだったかのように両手の骨は鈍い音をたて落ち崩れ始め、次第に中の様子が見え始める。
ボトボトボト ボト ボトッ
少し動けばモチャオーチに触れていてもおかしくないその距離で彼の前に立っていたのは、彼へ触れる恐怖心など一切ない面持ちで突き刺さるような威圧的な眼差しを骨の怪物へと向けるリンロであった──────
「俺……本当にリャンガなんで本当に無理なんですよ……モチャオーチさん……。
もしモチャオーチさんが諦めてる原因が目の前にいるコイツなら、コイツ倒して強制されたその最後の頼みっ無理矢理返させてもらいますっ!」
RYANGA--リャンガ・【俺の性格上それは無理】 錬寧想 リンロ @renneisou
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