第二十四話:モチャオーチからの追走(2)どこいった……骨っ

 モチャオーチの視界から姿を消したリンロ達一行がいたのはネカルバフの森の中──────────



 ったトゥーチョを気遣きづってかリンロの走るペースはやや落ちていた。

  

 「大丈夫かトゥーチョ? さっきからバタバタで色々と迷惑かけちまって、本当にごめん……」


 「まー……酔いも少し落ち着いてきたっチョし、気にするなっチョ。

 一旦とはいえヤツの追尾からまぬれたんだっチョ、今のところはリンロも良くやってくれている方だっチョよ。事が済んだらちゃんとみそぎの場を用意してやるっチョからこのまま安心して逃げるっチョ」


 申し訳なさげに目を落としてきたリンロに、トゥーチョはそう言葉を掛けた。

 

 「ありがとう……そう言ってもらえると少し気持ちも軽くなる。

 それにしてもトゥーチョから聞いていたとはいえ、モチャオーチさん速すぎないか? 

 この前まで人間離れした運動神経持ってる人間だと思ってたカウリは本当のところはリャンガだったわけで、モチャオーチさんもってことはないよなっ?」


 事前のトゥーチョの話も一応しっかりと頭の片隅に置き、決して気を抜いていた訳でもなかったリンロだった。だが自身が大目に見積もっていたよりもモチャオーチの運動機能は遥かに高く、ふとそんな疑問が浮かんだのだった。


 「そんなことはないはずだっチョよ。ヤツがリャンガじゃないってことは、既に過去に一度捕まって触られた時に確認済みだっチョ。チョがまぁ、ヤツのあの異常な運動能力については全知全能のオレ様にも謎だっチョ」


 トゥーチョがそう答えてすぐ。


 「フンッ、そんな事も分からぬのか────己等うぬら、知が低いなっ!」


 しばし口を結んでいたロコイサ王が口を開いた。


 「ぬおっ!?」


 ダンボールと化したロコイサ王の存在をすっかりと忘れていたリンロは初めて聞くその突然の声に驚き、手元を大きく揺らした。同時にトゥーチョはロコイサ王を自身の頭より高く抱え上げ。


 「チョ!! 見悪みにくし姿をお目に入れてしまい大変申し訳がございませんロコイサ王様っ! 浅薄せんぱくなこの身っ!今すぐに深淵しんえんの底へと投げ捨てて参りますっチョ!」


 「フッ、さすがの先回り先制精神せんせいせいしんだなトゥーチョ。だが今回は良い。今我が知を授けるがゆえ、ここで学んでゆけ」


 「御意ぎょいですっチョ!」


 「あのおきなはな……年並としなみ催されている【goodbuyToy-グッバイトイ】なるレースの為に、日々冒テントイ録の地下にある秘密の修練場で鍛えておるのだ。その力をほぼ毎年優勝できる程までに高めてなっ」

 

 と説明しているロコイサ王の顔はリンロの額に付きそうな位置にあった。


 (前見えないし、ずっと目合うし、何か怖いし…………滅茶苦茶気まずいんだがっ!)


 「してトゥーチョ、先刻せんこくからるこのたわけは一体何なのだ?」


 「チョっ、え~~~~……………っチョ、この者は~~奴隷どれいですっチョ」


 「何? おいトゥーチョ……お主それは本気で言っておるのか? 我は奴隷などという制度は一切認めた覚えはないが?」 


 「ッ!!! しょっ、承知しておりますっチョ!! 勿論!ドレイとは彼の名前の事ですっチョ! 彼は【ドレイ・リンロ・ミットメーナイ】という者で、ロコイサ王様捜索の最中にロコイサ王国の足としての有力候補として見つけて参りましたっチョ」


 「ほう、そうかであったか……。

 よくぞ来てくれたな、歓迎するぞドレイ・リンロ・ミットメーナイよ。丁度の機会だ、早速だがここでお主の才を見せてもらうぞ」


 「あの、ぐっばいといれーすって何なんだ?」


 「…………。

 

 足よ一応聞くが、それは独り言であろうなっ?」


 ロコイサ王がリンロに優しく微笑み掛けそう聞くと。


 「いや、聞いてるんだが?」


 「───くッ!! 何だこの生意気な足はっ!!…………今すぐに処刑してやるっ! 戻せトゥーチョ!!」


 (あーそうだった……見た目が恐くなさすぎてロコイサ王が処刑狂だってこと忘れてた……どうしよっ)


 「落ち着いて下さいっロコイサ王様っ! 今彼はロコイサ王様に申したのではなく、私に言ってきたのですっチョ! しかし私にとってもいけすかぬ態度でしたので無視してやりましたっチョ!」


 「そうなのか?」


 すかさずトゥーチョが下からリンロにアイコンタクトを送ると、それをリンロは理解し。

 

 「申し訳がございません……ロコイサ王様。トゥーチョに無視をされてしまい、どうかこのすがるもののない哀れな身にグッバイトイレースというものについてご教授頂けませんでしょうか?」


 「…………そうだとは知らず我も追撃をしてすまなかった。


 分かった、取り乱し言った雑言ぞうごんの非礼のびだっ。お主の問いに応えよう。

 ではまず第1マス目にだが……グッバイトイでは世界各地から開催の都度つど無作為むさくいに審査員となる5人の童子わらしが選ばれる。そして第2マス目に参加者達は事前にその審査員の童子と対面し彼らが今欲いまほっする|玩具がんぐを即座に判別し、玩具が山積みに敷き詰められたコースから探し当て審査員へと届けねばならぬのだ。

 尚その道は、普段鍛錬もせぬ者らにとっては過酷の極地!!数々の罠や障害物・5000人のおもちゃクラッシャーと呼ばれる子供達をくぐらなければならぬからな。だがあの翁はそれすら意図も容易たやすく乗り越えられる力を持っておる。

 あの翁だ……この状況も我は直に見つかると踏んでいるが、さてどうするっドレイ・リンロ・ミットメーナイよ」


 「…………なるほどですねっ! 高等な知を授けて頂きありがとうございますっ!」

 

 そのリンロのなるほどですねっ!は、ロコイサ王から受けた説明の半分も理解できてはいなかったがとりあえず言っておこうのなるほどですねっ!であった。


 (聞いておいてだが、よく分からなかったな……。

 とりあえずグッバイトイレースの事は置いておくとして、このままいってもらちが明かない事は確かだし……こっからどうすっかだよな──────────あ)


 「なあっトゥーチョっ、昨日のあのデカイ骨のとこに一旦身を隠してみないかっ? あそこなら仮に見つかったとしてもあの骨を障害物にできるし、試す事にそんなにデメリットもないと思うんだが……」


 「チョうーん…………有りだっチョなっ! もし見つかったら、あの骨が2WCCの視線をさえぎってるすきにオレ様がダンボールでヤツをガッポンガッポンの箱詰めにして【箱入りダンボールロボット爺さん】にして、どっかの子供がオモチャで合コンごっこ開いていたら真っ先にそこに参加させてやるっチョッ!」


 「…………」


 (またロコイサ王に知が低いって言われるぞ……)


 「なに? あの翁をオモチャの合コンごっこに参加させるだと?」


 (ほら言わんこっちゃない)


 「トゥーチョお主…………恋事の才もあったのかっ! 良いなっ! あの翁もそれは本望であろうっ! その時の翁の守護は我に任せよっ、翁に近こうとする者は皆処刑じゃっ!!」


 (……え) 


 …………うん。

 まぁ賛同さんどうはしてくれてるみたいだし、とりあえず向かおう。

 ──────────────────



 それから少ししてリンロ達一行は彼が提案した場所へと無事辿ぶじたどり着いた──────────


 間違いなく辿り着いたはずなのだが、何故かその場所はすっかりと見通しの良い開けた土地へと成り変わっていた。

 リンロとロコイサ王を抱えるトゥーチョは、呆然ぼうぜんとその場で立ち尽くしていた。

  

 「…………ここだよな?」〈リンロ〉


 「…………ここのはずだっチョ」〈トゥーチョ〉


 「ここはどこだ?」〈ロコイサ王〉


 「…………無い」〈リンロ〉


 「…………無いっチョな」〈トゥーチョ〉


 「…………何が無いのだ?」〈ロコイサ王〉


 ロコイサ王の言葉にトゥーチョが答える。

 

 「チョほんっ……ロコイサ王様にとってはたわいもない必要のない記憶だと思いますっチョが、ここにはロコイサ王様自ら見事な太刀筋で一刀両断なされた奇跡の結晶というべき巨大モンスターの骨があったのですっチョ」


 同じくそう思っていたリンロもロコイサ王に目を向けている。


 「巨大な骨?何の事だ。我はそんなものを斬った覚えはないが」


 「…………チョえ?」


 ロコイサ王の予想外の返答にトゥーチョが固まっていると、そこへ一緒に聞いていたリンロが割って入った。


 「いやでも確か……ここら辺に……ほらっ」 


 地面に書かれた文字【ま・ん・ぷ・く・だ】

 

 「あぁ……それか。目の前に美味しそうに食事をしていた獣が居ったから、其奴そやつの気持ちになって書いていただけだ。我はな、我自身や我の目の前に居る者の気持ちをその場にしるすのがきょうなのだっ!」


 「本当は今すぐお主達の気持ちだってこの地に書き記したいが、こんな状況だ。我の止まらぬ心よ、今は口だけで許してくれっ!


 ではまずドレイ・リンロ・ミットメーナイ、お主の今の気持ちからだっ。


 【じっ、実は俺っ! おなごの心を真っ直ぐ貫きたいという意味を込めてこの髪もこんな風にとがらせているんですっ! 趣味は横向きに歩く事で~そん時ぶつかってきた相手は必ず大木のあるところまで追い込んで一緒に歌を歌わせてますっ! 好きな食べ物は~ギリギリ食べれない固さの木の板で──あっ実は自分、木食系もくしょくけい男子だんしなんですっ! まだまだ言いたい事いっぱいあるけど、ロコイサ王様に黙れと言われそうなのでこれ以上はやめておきますっ! あーー今すぐロコイサ王様に気持ちを理解してほしい~~っ!!】であろうっ。


 そしてトゥーチョ今のお主の気持ちは【チョはーーっ!! 今すぐ地面にロコイサ王国の配置図はいちずを描きたいっチョなぁっ!!】だ」


 (うわっ、偏見へんけんはなはだしすぎる…………。途中絶対言う事なくなってるし……。万が一でもこんなデマが出回ったら恥ずかしいし、今すぐロコイサ王に気持ちを理解してほしいんだが………あれ?……今俺思っちまったな……うわっなんかヤダっ)


 リンロはロコイサ王から言われた事が時間差で当たった事に動揺しつつ、トゥーチョは一体どうなのか気になり振り向くと。


 「なぜお分かりなのですかっチョぉぉーーーーっ!!」


 いつの間にかトゥーチョの横には山積みの小石が置かれており、それを摩擦まさつであたり一帯に石粉せきふんを舞わせながらものすごい勢いで消失させていた。


 めっちゃ地面に描いてる~~っ!! うっ!目が開けてられんっ!

 トゥーチョに関してはこれ、ほぼ強制命令だろっ……。

 だって滅茶苦茶顔色悪いし、本当は描きたくないんじゃないかっ? トゥーチョ……そのまま続ければお前は間違いなく明日最低でも腱鞘炎けんしょうえんコースは確定だぞっ、だから止めて…………あ)


 「というよりもこんな事してる場合じゃないだろ! そろそろヤバいから、早く骨を出してもらえないかトゥーチョっ」


 「チョは?」


 「え?」


 「チョいリンロ……まさかお前、この状況をオレ様が仕組んだこチョだと思ってるっチョか?」

 

 「…………ああ、音もなくあんなデカイ骨移動させられんのはトゥーチョくらいだと思ったんだけど……もしかしてお前じゃないのかっ?」


 「チョうか、分かったチョ……。

 まぁお前がそんなにオレ様を犯人扱いしたいんなら、別にされてやってもいいっチョよ?

 だが一つ問題があるっチョ…………チョれはっ! お前の骨が小さすぎてあの骨のサイズまでは再現できない事だっチョぉーーッ!!」 


 「ほわわわわあぁ----ッ!!!!」


 「チョふぇっ!?」


 リンロに対し激昂寸前げきこうすんぜんのトゥーチョの気を一瞬で抜かしたその悲鳴は、タイミングがタイミングではあるがリンロのものではなかった。

 その突如として森の中に響き渡った甲高かんだかい悲鳴は、リンロ一行の誰一人とも予想だにしていなかったモチャオーチのものだった──────────




 


  

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